はぁ、マジか。
「グゥルアッハハハハ、うまい、うまぞハッハハハ!!」
「あっ、はいそうですか。」
先ほどまでの緊迫とした雰囲気はどこえやら、威圧的で恐怖の対象だったドラゴンは豪快に笑いながら俺があげた物を美味しそうに飲んでいる。
どうしてこんな事になってしまったのかそれは・・・
■
「いい加減に答えよ!さもなくば、今すぐにでも・・・・」
「申し訳ございません!」
ドラゴンが言い終える前に俺は行動に移った。
生き残る為に俺の脳はフル回転し、その結果導き出された答えは日本人伝家の宝刀―――ジャパニーズ、DO・GE・ZAだ。
それはもう見事な空中へジャンプからの落下中に姿勢を作り、滑る様に着地し姿勢を変えずにドラゴンの言葉に少し被せる様に大きな声で謝罪を述べる。
「ここが貴方様のご領域とは露知らず、不敬に私は幾ばくかの草木を採取してしまいました。採取してしまった物は全て貴方様にお返し致します。更に、心ばかりなのですが幾つかの贈り物も差し上げますので、どうか命だけは、ご容赦いたたげます様に申しあげる次第です。」
「うっ、うむ」
俺の超低姿勢からのマシンガンの様な謝罪にドラゴンは少し引いた様な態度で頷く。
―――うっし!最低限の条件はクリアしたな。
これは、廃人ゲーマーであると同時に立派に会社勤めしていた時に会得した謝罪スキル“間髪入れずの謝辞”だ。
これを喰らった人は、大体“行き過ぎる行動に引く”か“気分を良くして調子に乗る”か“怒りが収まらず、怒り続ける”の三つぐらいに絞れる。
最後のは普通に契約打ち切り、でアウトだが今回はそこまで怒っているなら、問答無用で攻撃されている。
筈なのに問い掛けて来たという事は、そこまで頭に来ていないが自分のテリトリーに入って来た侵入者を見過す訳に行かないから出張って来たっといった感じなのだろう。なので最後のはまずあり得ないだろうと予想していた。
残る二つも、“気分を良くして調子に乗る”ならそのまま調子に乗らせ限の良い所で撤退すればいいし、“行き過ぎる行動に引く”のならある程度の良識があり、話し合いが通じる相手なので条件を出して見逃してもらう。どちらに転んでも逃げれる確率が高い。
オーバーアクションのジャンプ土下座も相手の勢いを削ぐには丁度いい。元の現実の会社ならやりすぎだが今回の相手はドラゴンだやりすぎぐらいの方がちょうど良いだろう。
現に勢いを削がれたドラゴンが「あぁ、わかったわかったから、さっさと顔を上げよ。」
とこちらに気を使ってくれているぐらいだ。
これならば、俺が変なポカをしなければ、軽い話し合いで問題なく済みそうだ。――とその時までは思っていた。
そして俺は、ドラゴンの言う通りに顔を上げる。
顔上げ改めてドラゴンを見ると、その姿は白く美しく、木々の間からさす木漏れ日で所何処が七色に光を反射させ幻想的な感じを醸し出し、二つの碧く澄んだ知性を含んだ瞳が俺を中心に据えしっかりと観ている。
《結晶星龍アルカイド》っと名乗っていたが、まさに彼に相応しい名なのだろ。そんな美しい竜の姿に目を奪われていると
「オイ、貴様なんだ顔を上げたと思ったらボーっと我を見て、何か言いたい事があるのか!!」
「―――いえいえ、とんでもないです。ただ、綺麗なお姿ですのでつい目が奪われてしまって。」
茫然と見すぎたせいか、変な勘繰りを受けてしまい。慌てて首を左右に振り、それを両手も使い否定する。
「ふん、世辞を言われ所でうれしくとも何ともないぞ!」
といいながら後ろについている巨大なしっぽがぶんぶん左右に振られ近くの木々をなぎ倒している。
――うれしいのかよ。と心の中でツッコミを入れそれを顔に出さない様に気を付ける。
「うッうん、さて話を戻そう、貴様はここが我が領域とは知らなかったと言ったな。」
「は、はい」
「だがそれは、おかしい遙か太古よりこの地は我が領域とされ、それは人の世代が変わろうとも語り継がれているはずだ!」
「はっ?そうなんですか?」
「――我が嘘を言うとでも。」
ぎろりと碧瞳が鋭く俺を射抜く。
―――やばい、藪蛇だったか?!自身の発言がマズってしまたかと内心焦りを見せ、軽い冷や汗が背中に流れる。
だが、目の前のドラゴンはそんな事、意に介さず荒く鼻息を一つ鳴らすと。
「―――まぁ、その態度から見ても貴様が嘘を言っている訳でもなそうだな。・・・ならば、貴様は何処から来たと言うのだ?」
「えっ?あっ、え~っとそうですね。・・・・」
俺はこれまでの事を包み隠さず話す。
目が覚めたら知らない子供の身体で森にいた事、何故かゲームのシステムが使える事、木の洞を拠点に生活している事、狩りの時の苦労話とか俺の知る事を全て話した。
ドラゴンに自分の手札をばらすのは大分勇気がいったが今現状で情報を提供してくれる可能性がある人物(?)がこのドラゴンなのでここで隠して情報を得られず再び森を彷徨うよりはマシだ。それに、ドラゴンに対してもこちらは隠し事はありませんよ。っとポーズを見せて置くのはより良い関係を築く際に重要な事だ。
そして、この1か月の自身に起きた事を身振り手振りを交えて全て話し終えるとドラゴンはその碧瞳を一度閉じ、低い唸り声をあげ何か考え―――再び開くと。
「信じ難い話だ。」
「なっ?!」
「まぁ、まて確かに我はその様な話、一度たりとて聞いた事も無いが貴様が嘘を吐いている様にも思えぬ。我とて万象摂理の全てを知っているでもないのでな、もしかするとその様な事も起きるやも知れぬ。」
ドラゴンの言葉を聞きほっと一息出し、緊張でこわばった肩から力が抜けるのを感じた。
「ふむ、しかし異界より来た者か。さぞ、強き者なのだろう?」
「へっ?」
ドラゴンが何かとち狂った事を今言わなかったか?
「世界を渡る等、早々出来るモノでは無い。普通ならば肉体はおろか魂魄も破壊され、消滅するのが必定だが貴様は、肉体は違うのであったな。ならば、魂のみで世界を渡れるほどの実力者とゆう事になるな。」
ギラリと獲物を見つけたような鋭い眼光を飛ばしてくる。
―――なるな。じゃ、ねぇ~~!!コイツ人の話聞いてたのか?ホーンラビットで死に掛けたってんだろ!!何、じゃあ、俺ともバトらない?みたいな視線飛ばしてるじゃァ!コイツ何?アレか?戦闘狂かよ!ラスボス級のヤツがそんなんでこの世界大丈夫かよ!!
最早その時の俺の心は恐怖を通り越して怒りが沸き上がり、そしてこの世界ヤベェと結論した。
「あ~、あのですねドラゴン様・・・」
「アルカイドっと呼ぶがよい。初めて見る異界より来た者だ特別に許す。」
「――では、アルカイド様。俺はですね、あちらの世界では極々普通のそこら辺に居る一般市民で、たまたま何故かやり込んでいたゲームの力が使えるだけで人間でして。あなたが言うほど強くありませんから!」
――どうだ!言ってやったぞ!俺はホーンラビットでビビり、森の中の生活でいつも挙動不審で風が吹いて草木が揺れる度に木の洞に飛び込む様なチキン野郎なんだぞ!!・・・ウッ、なんだ心の中がしょっぱいやぁ。
「しかし、貴様先ほど狩りをして獲物を得たっと言っていたではないか。自慢ではないがこの土地は我が力の一端が漏れ出して、そこいらに居る魔物より強力で凶暴に成っている。それを狩る程ならば強者まで行かぬが、力を持つ者といえるのではないか?」
――――あ?このドラゴンも諦め悪いな!こちっとら無駄に心の傷が増えてるのに!ってか、ホーンラビットがあんなに大きくて魔法を使ったのはキサマの所為かよ!!クッソ居るだけで、はた迷惑ドラゴンだな!!
「ですからそれは、罠とこの《麻痺酒》のお陰で狩れたんですよ!」
そう言うとインベントリから桶に入った《麻痺酒》取り出し見せる。
「ほう、それが《麻痺酒》とやらか。どれ」
アルカイドは巨大な爪を器用に使い俺から《麻痺酒》の入った桶を奪い取ると鼻に近づけスンスンと匂いを嗅いだ後、これまた巨大な口を開けて・・・バシャリ。
「はぁ?!」
あろうことか、《麻痺酒》を口に入れてしまった。
―――え?!なんに考えてんだコイツ!毒って言ったよな!あれたしか濃度五倍のヤツだ!死ぬまで行かなくても体が麻痺するんじゃぁね?それで俺に因縁吹っ掛けられたら・・・
最悪を考え少し後退りしようと片足をうしろにずらした時、アルカイドはその巨体をぶるりと震わせた。
麻痺ったか?そう思ったのだが、「・・グッル」っとアルカイドからうめく声が聞こえたと思ったら
「――グッル、アッハハハうまい、うまいぞこれは!」
「・・・マジかよ」
「オイ、ニンゲンもっとこれは無いのか!」
空になった桶をまるで盃の様に揺らし更なる《麻痺酒》をねだってきた。
その様子に口を半開きにして茫然と眺めていた俺の脳も暫くすると動き出し。
「いや、それ毒だって言いましたよね!」
「うん?あぁ、言われてみれば少し下がピリピリとしたがもう何んとも無いし、あの刺激が好いアクセントになって美味さを押し上げている。」
―――ヤベェ!ドラゴンヤベェ!
「で、もう無いのか?」
無駄に迫力のあるつぶらな瞳でこちらを見てくる。
「―――はぁ、まだありますよ!てか、別の酒を上げようと思って・・・」
「何!他にも種類があるだと!飲みたい!いや、飲ませてくれんかぁ!!」
かなり食い気味で欲しがるものだから俺が今度は引いてしまった。
そして、俺はインベントリからスキル上げの為に大量に作っていた木樽に詰めた酒類をだすと、目の前のアルカイドが片っ端から飲み始めて、冒頭の現在に至る。
――ホント、どうしてこうなった?