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狩り。

 投げた小石は勢い良くホーンラビットに向かい、吸い込まれるように命中した。


 「ヴゥウ?!」


 小石をぶつけた事によってホーンラビットは鈍い低音の鳴き声を漏らしながこちらを振り向く。


 「オォオゥリャァ!」


 完全にホーンラビットが俺の事を認識する前に秘策である桶の中身をホーンラビットの顔面にぶちまける。


 「ヴゥグゥクゥゥ?!!」


 桶の中身を思いっきり顔面に浴びたホーンラビットはその場で悶える様に低い悲鳴を上げる。

 ――――どうやら、無事に秘策が効いているようだ。


 秘策である桶の中身、それは【精製術】と【調合】の組み合わせで出来上がった“毒薬”の《酒》だ。


 その《酒》が出来たのはほんの偶然の産物だった。

 いまだに職業とスキルもレベル上げの為に《草だんご》や《回復丸薬》を精製する傍らで新たに、“毒草”を使って《毒丸薬》の精製も行っていた。


 《毒丸薬》を作っている理由は、俺自身が服用して【毒耐性】スキルを獲得するためだ。 

 この【毒耐性】スキルは従来の職業の解放で得る事は無く、【採取】や【調合】の時の様にプレイヤーが毒を受けそれを直した経験で取得、また同じ方法でレベルを上げるスキルだ。

 

 なので、《毒丸薬》とそれを治す《解毒丸薬》を作り、それお交互に食べて【毒耐性】スキルを得ようと画策しているが、どちらも【精製術】で作った物なので性能が劣化しているから未だにスキル習得に至っていない。・・・命を危険にさらさない弱い毒なのでしかたない。スキルより命のほうが大事だしな。


 そんな訳で《毒丸薬》を作りまくっていたのだが、作成時に手元がくるって近くにあった水の入った桶にそのまま《毒丸薬》が入ってしまった。


 慌てて取り出そうと水に右手を突っ込んだ瞬間、水が淡く緑色に輝いた。それは、BCWで【調合】のスキルを使って薬を作成時に発光するライトエフェクトだった。


 少しすると発光が収まり、突っ込みぱなしの右手をその液体から引き抜くと落ちた《毒丸薬》の姿かたちは無く、ただの水だったものがうっすら緑色に染まっている。

 俺は、右手に滴る様についた液体を恐る恐る口元に運び軽く舌で触れるくらいの量をなめとった。

 

 すると、舌に軽く痺れる様な辛い様な感じがした後にアルコールの風味が広がった。


 驚いたことに【精製術】で作った《毒丸薬》が水に溶け、手を入れ攪拌した事で【調合】のスキルが発動して出来た物はお酒になったのだ。

 

 なんでお酒になったのかはよくわかない。【精製術】で作った《丸薬》だからか?【調合】で攪拌したからか?その両方が合わさったから?謎だが、出来てしまったのだからしょうがない。


 その発見の後、他の種類の《丸薬》でもなるのか試しが全て同じ様にお酒に【調合】する事ができたし、一度に《丸薬》の量を多くする事で入れた《丸薬》の効果とお酒のアルコール濃度が高くなるという実験結果も出た。

 ・・・ついでに、濃度の高い《回復丸薬》で作ったお酒をなめた瞬間、一気に酔いが回ってそのま気を失い、目覚めてからステータスを確認するとそこには【毒耐性】よりも早く【酩酊耐性】が習得されていた。

 ――なぜだ?


 閑話休題


 という訳で、濃度を割と高めた麻痺系の毒草から作った《麻痺毒丸薬》で仕込んだお酒、《麻痺酒》を顔面全体に浴びたホーンラビットは目や鼻口からお酒が入り込み、麻痺の効果で体の動きを、お酒で匂いや視界を鈍らせ、罠に嵌めるが今回の秘策だ。


 そしてその効果は、確かにホーンラビットに効き、俺が目の前に立っているのにも拘らず、その場で暴れ、お酒を落とそうとして地面に顔を擦り付けている。

 

 その姿を確認しながら、再びインベントリから小石を取り出しホーンラビットに投げつける。


 「ヴッ?!ヴゥウウウウ!!」


 投げた小石はコントロール良く暴れていたホーンラビットの顔面に見事命中し、ホーンラビットは遂に俺の事を認識し今までの事が俺の仕業だと理解すると怒りの咆哮を上げて、俺に頭にある鋭い角を向けて突進してくる。

 ホーンラビットがそうして突進してくる事は、大体予想できていた。


 BCWでは雑魚モンスターとして扱われ、ゲーム内の至る場所に出現し幾度となく戦闘を繰り返しホーンラビットの行動パターンは頭に染み付いている。

 現実の生物として生きているこのホーンラビットがゲームと同じ行動する保証はどこにもなかったが大きさは違えど、身体の形や何日か茂みの中から観察した限りBCWの時と似たような行動を取っていたため初撃は突進だろうと予想していた。


 その予想は見事に的中しホーンラビットは鋭い角で俺を刺し貫こうと猛然と突進してきている。

 《麻痺酒》の効果が出ているのか若干予想していた動きよりも遅く、BCW内で何度も戦闘を繰り返していた俺には何の問題も無く、素早く横に移動してホーンラビットの突進を躱す。


 BCWのホーンラビットと違いその巨体は勢いが付いたらすぐには止まれないのか、はたまた《麻痺酒》が効いているからか、俺が先ほどまで立っていた場所を通り過ぎ、樹に激突して倒れ込んだ。


 「ヴッグゥ!?」


 少し間抜けそうな悲鳴を漏らしのろのろと起き上がるホーンラビットを見て、これならもしかして罠を使う必要などないのでは?という考えが頭に浮かぶ。が、それをすぐさま否定する。


 今回はBCWの経験がたまたま上手くいっただけで、これを何回も繰り返せばホーンラビットも学習して行動パターンを変えるかもしれない、そうなれば俺が無事である保証はどこにもない。

 ゲームの時ならばHPバーが0になっても、いくらかの経験値とお金が自動的に消えてから町で蘇り、再び冒険へと出れるが。

 現実の今、たとえBCWのシステムと似たモンスターを相手にしているからと言って、同じ様に蘇る保証はないし、今の俺にHPバーなど存在しない。


 ただのかすり傷でもあたる箇所によっては致命傷になり、死に至る。それがリアルである今とバーチャルのゲームとの違い。・・・命なんて簡単に亡くなってしまうのだから。


 その事をいやという程に理解している俺は、インベントリから小石を出しホーンラビットにぶつけて注意をこちらに向け。


 「おい、うすのろこっちだ!」


 ホーンラビットに侮辱の言葉を浴びせ、くるりと体を反転させると俺は勢いよく罠が仕掛けられている場所に向け走り出す。


 「ヴッグゥウウウ!!」


 先ほどよりも強い怒りの咆哮を上げると、ホーンラビットも俺を追いかけて来る。その姿を見て自然と口元が緩むのが判る。


 たまに後ろを確認し、つかず離れずを意識しながら左右ジグザグに走り、狙いを定められないよう気を付けて目的の場所まで誘導して罠が仕掛けられている場所のすぐ近くまで来た時―――ゾクリ


 嫌な気配が後ろから上がり、急いで振り返ると俺を追いかけるホーンラビットの角が濃い緑色に輝き、それをホーンラビットが振り上げ――――まずい!そう直感し、俺は急いでその場から飛び避け、身体を地面に滑らすが体に大した怪我が無いのことを悟ると、すぐさまホーンラビットがいる場所に振り向くと角を振り下ろす瞬間だった。


 ホーンラビットの角の動きに合わせ角に風が集まり、振り下ろすと風が刃の様に飛び、俺が避ける前にいた場所を斬り刻む。

 

 間一髪、回避が間に合い、俺が避ける前に居た場所は鋭い鎌か何かに斬り刻まれたように草が刈られ、地面に深い刃の後を残していた。

 ホーンラビットが起こした現象は魔法職で使える風属性の初級魔法の《エアロスラスト》みたいだった。

 BCWのモンスターが魔法を使い、プレイヤーに攻撃を仕掛けてくる事は何度もあった事だが


 「ラビ(ホーンラビット)が魔法使う所なんて見たことないぞ・・・やっぱリアルは違うって事か。」


 現実とゲームは違うという事は頭で理解していたつもりだったが、BCWで雑魚モンスター扱いのホーンラビットがこうして魔法を使い攻撃してきたことに改めて違いを強く認識させられた。


 俺が魔法の事に驚いていると、ホーンラビットはそれを悠長に待っていてくれるはずもなく。


 「ヴッグッグゥウウ!!」

 

 雄叫びを上げながら未だに地面に寝ている俺に追い打ちの様に突進して来た。


 「グッ!!」

 

 その攻撃を何とか体よじって地面を寝転がりながら回避し、急いで立ち上がり再び目的地を目指しひた走る。


 ―――もう少し、あとちょっとだ!!

 俺は、ひたすらに走りそして目的の罠を仕掛けた場所まで来ることが出来た。

 

 「ヴグゥゥゥゥ!」

 

 依然として追いかけてくるホーンラビットの怒りのボルテージは限界突破して俺の事を何が何でも殺したのだろう、そんな殺気がビンビンと背後から伝わる。


 ―――これなら、いける!直前で横に・・・いや、ダメだ。

 先ほどから逃げる際に咄嗟に避ける時は横に回避しまくっていた、もしホーンラビットがそれを学習して俺に動きを合わせられたらアウトだ。


 「・・・っなら!」


 瞬間的にひらめくと、ホーンラビットを背後ギリギリまで引きつけてそのまま一直線に罠まで駆ける。


 徐々に罠とホーンラビットが迫っていき、罠直前に残りの体力を振り絞り加速して・・・目前の罠手前で足に力を籠め飛んだ。

 罠の横の長さは大体130センチぐらいの穴をまるでスローモーションの様にゆっくりとした感覚で俺は飛んで中ほどまで行くと先ほどまでの勢いが弱まり体が徐々に落ちてゆく。


 「くっそ!とどけぇぇぇええ!!」


 空中でもがきながら叫び声を上げる。その気迫が届いたのか俺は何とか地面に転がり込む様に落ち、後ろの罠中から

 

 「ヴゥギィィ」


 ホーンラビットの悲鳴を聞き穴の中を覗き込むと下に何本も刺して置いた尖った木の棒が身体中に刺さり息も絶え絶えな姿のホーンラビットがいた。


 勢いよく穴に落ち、その重量と相まってただ尖らせただけの木の棒が体を傷つけ、貫通し、白かった体毛は血で赤く染まり今にも死にそうな姿を晒しているがその瞳から俺に対しての闘志は未だ消えず宿っている。


 「・・・・」

 俺は無言でインベントリから先を尖らした長い木の棒を取り出し、その先をホーンラビットの首に向け


 「・・・すま・・いや、ありがとう。世話になった。」


 最初は謝罪しようとしたが、それは違う事に気づき、ホーンラビットに感謝と礼の言葉を述べ両腕に力を籠めとどめの一撃を加えた。

 こうして、俺の異世界は初の狩りは終わりを迎えた。

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