我が儘
所々に白い煙が立ち込め、仄かに薫るなにかを焼いた焦げ臭い匂いが辺りに広がる。
「さぁ、話して貰おうか。」
「・・・」
俺の目の前には体のあちこちに黒く焦げた跡が点々と残り、白く七色に輝く鱗も爆風で舞った泥をかぶり全体的に茶色い姿のドラゴン―――アルカイドが不貞腐れる様に顔を背けている。
拘束し《スターリィ・イーグル》でマガジンを色々変えたり、【錬金術】で作った小型榴弾をお見舞いしてやり。
どうせこんなものでは大したダメージにならないのは理解していたのでアホ鳥戦で使った新兵器をアルカイドの鼻先に突き付けたところ、
「ちょ、それは、ま、待ってくれスピカ・・・・わかった、我が悪かったから、あやまるから!!」
あっさりとアルカイドが白旗を振り、降参したので武器を一度、[職業:魔砲銃士]のスキル【ガン・ゲージ】に仕舞う。このスキルは《ジェネレート》と仕舞った武器の名前でその物を手元に取り出せす事が出来る。
こちらを見ず、一言もしゃべらないアルカイドの態度にしびれを切らした俺が。
「・・・なるほど、なら《ジェネレート・ポーラス・・・》」
「まてまて、なに武器を召喚しようとしている!!」
すごい勢いでこちらを振り返り俺の武器の召喚に待ったをかけるので、とりあえず途中で召喚を止め再びアルカイドの顔を見て話す。
「お前がこっちを見ないし話そうともしないからだろ。」
「だからと言ってアレを持ち出そうとするのはやり過ぎだ!」
アレとは先ほど召喚しかけ、アホ鳥の羽を消し炭にし、アルカイドを降伏に追い込んだあの兵器の事だろう。
「だったら、ちゃんとこっちを見て理由を話せよ。」
「グッ」
何かのどに詰まったような声を漏らし、視線を俺から外し空を見上げって「はぁ。」とため息を漏らした後。
「・・カが・・・って・・・ぃ・・から・・だ。」
目を細め下を向き、その巨体に似合わず蚊の鳴くほどに小さな声で口ごもる様にぼそぼそと喋るアルカイド。
「え?・・・すまん、聞こえんからもっと大きな声で言ってくれ。」
余りの聞き取りずらさに俺が文句をつけると。次の瞬間、俺の言葉に反応したアルカイドは勢いよく顔を上げ細めていた目をグワッと開き、吠える様に叫ぶ。
「だから!スピカ!貴様が居なくなって寂しいからだ!!」
「お、おう。」
そのアルカイドの迫力に俺は一歩、二歩後ろに下がってしまう。
一度ついた勢いは、衰えずそのままの捲し立てて来る。
「大体貴様は!出会った初めは腰が低い・・いや!へっぴり腰で、気弱そうだったのに!少し強くなったら!森を出てい行きたいだと!!我は・・・我の事など、どうでもいいのか・・・」
徐々にしりすぼみになり最後は今にも泣きだしそうな声色で顔を伏せてしまった。
―――こいつと出会ってからまだ半年ぐらしか経っていないのにここまで別れを惜しんでくれるとはな。
森を出ようと考えた時こうなるかも知れないと予想は少しはあった。
それでも俺の考えではここまでアルカイドが俺が森を去る事に寂しがるとは思いもよらなく、同時にアルカイドには悪いのだがうれしくもあった。
今、思い返せば、アルカイドと出会い半年の間、森の中で何かするときはいつも一緒に居て、笑い、時には少しケンカもする事はがあったが翌日には仲直りして飯を食い、遊び、楽しく過ごした。
いや、アルカイドが居なければこの森でこんなにも良いお想い出の数々ができたはずは無い。
暗い森の中に何も持たずに一人、木の洞で寝た夜は恐怖で中々寝付けずにいた事は何度もあった。そして起きてもやる事は生き抜くためのスキルや[職業]のレベル上げ。ゲームでも散々やっていた事だから別に苦行と言う程ではなかったが、楽しさも感じる事は無かった。
だが、あの日アルカイドと盟友にになってから、それは変わったんだ。
寝る時も近くにはアルカイドが居たし、朝起きてアルカイドと会話をする。たった、それだけの事で森の生活に不安を感じる事は無くなっていた。
でもこれは、もしかしたらアルカイドも同じだったのかもしれない。
どんな理由で何時からこの森に居続けているか解らない。ただ俺よりも長くこの森で過ごし、誰とも会話することなどなく、たまの来客も自分に挑む者ばかりだと言っていた。
だから、戦う事しか楽しみは無くそれ以外は暇という名の孤独しか存在しない世界。
そんな世界に俺と言う、イレギュラーが現れ。今まで知らなかった楽しさを感じ、それが無くなる喪失感を感じてしまったのだろう。
なんて思ってしまうのは俺の驕りなのかも知れない。
アルカイド自身がそう言った訳でもない。・・・でも、そう思えてしまう姿が俺の前に映し出されている。
「アルカイド・・・人間はさ、我が儘な生き物なんだよ。」
思わずそう俺の口は呟き始めていた。
「どんなにいい暮らしをしてもさ。もっといい暮らしが在ったら、そちらに行きたくなってしまう。
俺もそのうちの一人で、もっと楽しい事が在ったら、森の外に広がる世界にもっと面白い事が在ったら。って思ったら行きたくなったんだ。」
「・・・だから、森を出ると言うのか。」
アルカイドは先ほどの勢いも出会った時の様な覇気も無い。ただ力無く、まるで迷子の子供の様な寂しいそうな目で俺を見つめている。
――ったく、ほんと、そんな目で見るなよな。
「ああ。――――だからさ。」
――俺がもっと我が儘になちゃうじゃないか。
「俺と、一緒に行かないか?」
俺はそっと右手をアルカイドへと差し出す様に伸ばす。
俺の言葉でか、それとも自身がこの森を出るっという考えが無かったのか、驚いた様に碧瞳を目一杯に開き。細く小さい、元の世界の俺やBCWの分身の半分ほどしかない、そんな手をアルカイドは見て。
戸惑い、何と言っていいのか解らないのか口を開いては閉じるのを繰り返す。
そんな姿を見て、「はぁ~しょうがねぇな。」と小声で呟き。
「よし!決めた俺と一緒にこの森を出って旅をする!これは決定事項だ!いいな!!」
「スピカ・・・だが我は、この領域をただでは出る事は出来ん。・・・方法は、あるがそれだとお前に・・・」
「気にすんなよ!これは俺の我が儘だ!・・・たとえどんな事があろうが俺は、お前と一緒にこの世界を周りたい!・・・そんな俺の――盟友の、我が儘、聞いてくれねぇか?」
「・・・お前は・・・クッ、ッグァハハハハ。・・・そうか!お前我が儘か!ならば、盟友の我が儘を聞けぬほど器量の狭い奴などっと思われれば七星天竜の名折れだ!良いだろう我も共に行こうではないか!!」
豪快に笑う、アルカイドに先ほど見たいな戸惑いや悲しいそうな表情は無い。
ただ、嬉しそう笑い、俺の小さな手に大きな爪を近づけ。
「我が儘を聞くのだ!覚悟は在るのだろうな!」
「もちろんだ!これからもよろしくな!」
「ああ!よろしくな盟友よ!」
俺は小さな手で拳を握ると、アルカイドの爪にこつんと軽く音を鳴らしぶつかる。
「・・・で、さぁ。」
「ん?なんだ?」
「アルカイドの・・・その覚悟って痛いのか?」
「・・・スピカ・・」
アルカイドは俺の名を呼び、なんとも言えない顔で俺の事を見た。
――いやぁ~ほら、やっぱ痛いのは、ちょっと嫌だなぁと想いまして・・・ね。




