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それは突然で。

 電子の仮想空間に現実そっくりな世界を生み出せる様になってから十数年。

 

 その始まりはウソの様な一つのオンラインゲームから始まった。

 ゲームタイトルは『Break Cross World』略称BCWと呼ばれるMMORPG。


 このBCWは大手ゲーム会社が作った訳でもなく、無名の会社が特に宣伝も無く売り出したゲームだった。

 

 当時から星の数ほどのMMORPGが存在して、数多く大手ゲーム会社がしのぎを削り生まれては消えを繰り返している中でぽっと出のBCWもその波にのまれ売れずに消えていくかに思われていたのだが。


 その時代では、不可能な技術とされていた専用のヘッドギアを装着し脳波をゲームとリンクさせることにより精神のみを仮想空間へと送り、あたかも自分がその場で体感している感覚が得られるバーチャルダイブ機能を搭載したゲームが世界初として売り出した。


 どこのラノベかアニメの話だよ。っと一笑されるほどのに夢物語の代物で無名の会社がそんな物を売り出したのだからありえない。ほとんどの人間がそう思ったはずだったが、一種のネタとして試しに買った人間がSNSやネット上に「マジもんのゲームだ、俺は異世界に行った!」と述べたそうだ。


 そこから水滴の波紋のように試してみる人が増え、それが本物だと理解すると多くの人が買い求め、雑誌やテレビなどのメディアが特集を組み報道した結果、一時期生産が間に合わず入手困難な状態に落ちヘッドギアとソフトに莫大なプレミア価格が付いた時期もあった。

 それほど多くの人間、世界中の人々がこのゲームに魅了され盛り上がを見せ、一大ブームを創り上げた。

 

 また、ほかの会社が疑似類のゲームを苦心の末に出したがこのBCWには一歩、二歩っと及ばず独走状態が現在まで続いている。


 どうしてここまでBCWがここまで売れるのか現実そっくりな体感でファンタジー世界を満喫できるから?無限とも呼べるゲームの多様性?どれもこれも正解なのだろう…だが一番にこのゲームの安全性が持ち上げられるだろう。


 現実と寸たがわぬ感覚を味わえるゲームは、普通に考えれば危険だろう。何故ならば、その世界観がファンタジーものなら、モンスターに襲われけがをして痛みが発生しもだえ苦しむ事に、最悪の場合ショック死の可能性もあるからだ。

 

 だが、このBCWはそこの処理はきちんとなされており、プレーヤーのダメージ発生時は軽いノックバックとダメージエフェクトが発生するだけで、ゲームにログイン中は現実の身体のバイタル管理がしっかりしていて、急な心拍上昇や体に何らかの異常が検知されると警告ののちに強制終了するシステムも組み込まれているため、子供からお年寄りまでもが安全に楽しめる環境が出来上がっていた。


 サービス開始から現在までのそのシステム上に不具合はみられず、安全な運営は現在も行われているのだがシステム外でのトラブルは多く、余りの面白さに引きこもりや廃人が生まれる事となった。


 そしてこの俺、水鏡 明也(すいきょう あきや)もその社会適合系廃人ゲーマーなのだ。


 □



 子供の頃からゲームは大好きだった。


 子供の頃、物心が付いて初めて遊んだゲーム機は単三電池を四本入れた分厚くずっしりとしたモノクロ携帯ゲーム機で、それを四六時中放さずに色々なソフトで遊んだものだ。


 時代が流れるにつれ、ゲーム機はモノクロからカラーになり、薄くコンパクトっと持ちやすくなり、電池からバッテリー式に切り替わってソフトもビットがアニメの様に滑らかな動きを見せ、2Dが3Dに変わる等のさまざまな進化を重ねていくと同じく、俺も子供から大人へと成長する。


 そんなゲームと共に成長してきた俺は大学生の時、このBCWと出会った。


 出た当初は、色物扱いで疑わしい物だったのを興味本位から買いBCWの世界へと踏み込み、そのリアルな迫力と感触に驚き感動し、自身が持つ殆どの時間の全てをBCWへと注ぎ込んだ。

 

 だが、悲しいかな俺は人間でゲームを続ける為にも、大学当時から一人で住んでいた1LDKのマンションに暮らし続ける為にもお金が掛かる。

 故に、大学卒業後は大手のホワイト企業を必死に探し出し無事入社、普通のサラリーマンとなり仕事以外のプライベートの時間はBCWにあてたためにリアルの知人は少なく、会社からのイメージも無口で仕事をそつなくこなしてくれる人だがあまり付き合いの良い方ではないといった感じだ。


 ただ俺はゲームの為に残業したくないし、付き合いが悪い事も理解していたからさばける範囲で他の仕事も手伝いもした。

 そのおかげか上から睨まれる事も無く、順風満帆にBCWライフを過ごせる事となった。


 お金も少しの貯金と基本の生活費を抜き、全てをゲーム内課金へ嫁ぎこんだ。


 お陰でBCWの世界でトッププレイヤー勢にギリギリ名を連ねる程の実力と地位を築き上げる程で、リアルの友人は少なく代わりにBCWでは数多くの友人がいる。


 そんな日々充実した毎日を送っていたのだが…




 いつもと変わらない平日、定時に仕事を終え軽くコンビニ弁当を食べ終え、いつもと同じ通りヘッドギアを被り起動してBCWの世界へとログインする。

 BCWも特にアップデートも無くいつも通り町中に自身のキャラが出現(ポップ)するはず…


 「は?ここ何処だ?」


 いつも通りのログインシーケンスの発光現象を終え、目を開くとそこに広がっていたのは明るく照らされた街並みから程遠い、月と星々が微かに照らすうす暗い森の中で樹に身体を預けるように座っていた。


 「えっ!なんだ、誰だ?」

 

 空と辺りを軽く見た後、手元を見るといつもの逞しい筋肉隆々の腕とごつごつと堅そう手では無く、細く皮と骨しかない泥だらけの幼い子供の腕と手。

 レアドロップを惜しげもの無く使い創り上げた青みがかった神々しいまでの銀色の鎧やブーツは無く。

 折れてしまそうな小さく細い泥だらけの素足にまるで、貫頭衣の様なボロボロの布っぽい服。

 写すものがないから顔までは分からないが俺が知っているキャラの顔とは多分違うのだろう。


 これは、俺がBCWを開始当初から愛用していキャラではないし長年BCWの世界を旅して来たがこんな森も見覚えが無い。

 

 特に空を見上げるとBCWの世界では金と銀の双子月が浮かび上がっていたが、今空をみると一つしかなのだ。


 つまりこれは…


 「突発性の特殊イベントか!」


 BCWでは運営がたまに告知なしでイベントを起こす事がたまに在った。しかもそれが全員参加ではなくランダムで選ばれ、無事クリアすれば激レアなアイテムだったり、スキルとかを貰える。

 

 いつ起きるか解らないそれを待って四六時中ゲームにログインし続ける。このBCWの中毒性が高い原因の一つだ。


 「よし、そうと分かれば」


 俺の中でゲーマー魂に火が付き、たとえいつもの愛用キャラでなくともこのイベントをクリアしてみせると決意を胸に燃やしその場から立ち上がると。


 「?!っなんだこれは」


 立ち上がった瞬間、視界が揺れ足元がおぼつかなくなり、まるで何日のまともに食べていないかのような急激な空腹感が俺を襲う。


 「なるほど、これもイベント様な特殊バットステータスの一種か!」


 完全にイベントだと思い込んだ俺はそう前向きに考えた。


 「ボロボロの服にこの空腹状態、これは捨て子イベントか、なら・・・・」


 ぶつぶつと独り言を漏らしながら、うす暗い森をイベント攻略のために当ても無く歩き出す。


 数時間歩き続けた結果、俺はある現実を突きつけられた。


 「…痛い。」


 それはほんの些細な不注意から起きた。慣れない小柄な体格で歩き回っていると木の根に足を取られその場で前のめりに転んでしまったのだ。


 それ自体はなんの大したことも無く、ただ軽く膝を擦りむく(・・・・・)程度だった。


 大したことの無い?いや、違う!問題大有りだ。

 

 栄養が足りてないのか白い肌の膝から赤い液体の血が染み出し、ヒリヒリとした痛みが走っている。


 「ありえない。」


 そう在り得ない現象が目の前で起こっている。

 現実世界では当たり前の事、だが仮想世界では絶体に在り得ない事・・・俺が怪我をして血を流している。



 驚きと恐怖が俺の頭と心の中を目まぐるしくかき乱す。

 通常なら裂傷状態を知らせる赤いライトエフェクトが軽く発光するはずだ。しかも、100%カットされているはずの痛覚がなんであるんだ!


 「どうなってんだ・・・バグなのか?」


 いつもと何か根本的に違う。そんな感覚に冷や汗が背中から流れるのを感じ緊急に手段に出る。


 「緊急(エマージェンシー)コール、《強制終了発動》!」


 このセリフは何らかの不具合が発生した時、内部から強制的にヘッドギアを終了させて自信を現実世界に戻る手段・・・・のはずだった。


 「・・・あれ?コール、《強制終了発動》!」


 2度目のコールも何も起きず、ただ膝から少しづつ血が溜り大きなしずくとなって流れるだけだった。

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