魔法少女コロナ
私は街灯に照らされる学校の帰り道を急ぎ足で歩いていた、今日は見たいテレビがあるのだ、撮ってもいいがリアルタイムで見たいという自分でも謎のこだわりがあった。
家まで後数百メートルという所で、前からふらつきながら男性が歩いてくるのが見えた、尋常ではない様子だったが、ここから引き返して別の道から行くというのも不自然で遠回りになるので、不気味に思いつつ横を通り過ぎる事にする。
ふらついている男性を出来るだけ避けつつ通り過ぎようとすると唐突にうでを掴まれる、異様に冷たい手だった、顔だけ見るとそこら辺のどこにでも居そうな男性だったが、目だけが別の生き物のように禍々しく黄金に輝いている。
「何ですか! 離して下さい!」
流石に恐怖を隠しきれずに男に掴まれた腕を振り解こうとするが、男の力はかなり強くビクともしなかった、幾ら女子とはいえ全く力の入れている様子のない男の腕を身体を使って振り払おうとしても動かないのはおかしい、これは何かヤバい。
「お……らむな……かんや……ゆさし…」
訳の分からない事を言いながら男は異形に変化していく、蛇の様な姿だが、腕が生えていてまるで人間と蛇を合わせたような見た目をしていた、現実味がない光景であったが、掴まれてる腕が痛いくらい握られていて嫌でも現実であると認識させられた、蛇男は空いている手で私の胸ぐらを掴み身体を持ち上げる。
「うわぁぁ! 離せ! 離せえぇ!」
暴れてみるが気にした様子もなくこちらに大きな牙を見せながら、顔を近づけてくる、このまま私は食べられるのだろうか、そんなのは嫌だ、つまらない日常ではあったが、他人の意思で奪われるなんてそんなのはごめんだ。
怪物に対して何も出来ない自分の無力さとこれから死ぬ絶望感に苛まれていると、私と蛇の怪物の間に剣と盾を象った古いペンダントが浮かんでいた、それが何かを考える前にペンダントに触れていた、その瞬間ペンダントが光輝いて蛇の怪物を弾き飛ばした、そしてペンダントは吸い込まれるように近づいてきて、私の首元に付けられていた。
「これは……一体……」
呆然と呟いていると、頭の中に声が響いてきた。
(変身しろ……ペンダントに触れながら自分が戦う姿をイメージするのだ……そして何でもいい、その姿になる為の言葉を紡ぐのだ……)
「言葉を紡ぐ……何が何だか分からないけれど、今はこの声に従うしかない……!」
首元のペンダントに触れ、自分が戦う姿をイメージする、昔から正義の味方に憧れていたんだ、すぐにそういう姿を思い浮かべる事が出来た、剣と盾を持って悪を切り払う、赤き炎の戦士。
「変身!」
一瞬視界が炎に包まれてそれもすぐに収まる、そして手には炎のような刀身の剣と、燃え盛る炎の形をした、盾を握っていて、身体は赤を基調として、袖等のフリルの部分が白で彩られた美しいドレスの様な衣装を纏っていた、髪はいつも肩ほどまでで切りそろえていたが、変身後は腰ほどまで髪が伸びている様だ、剣を鏡の代わりにして顔を見てみると、顔のパーツは自分であるが、目の部分に赤いハチマキのようなものが巻かれていて目を見ることは出来ないが自分の視界が防がれるようなことも無かった。
「私の名はコロナ……魔法少女コロナだ!」
「ぐおあぁぁぁぁぁ!!」
吹っ飛ばされた怪物が起き上がってこちらへ向かってくるが、力が湧いてきて全能感を感じる、怪物相手でも怖くない。
「とにかくこいつを倒さないと、野放しにはしておけない」
自動車の様なスピードでこちらに這って来た怪物が拳を振り下ろす、それを左手の盾で受け流しながら、右手の剣で伸びきった腕を切り飛ばす、怪物が叫びながら、腕を抑えるがそのせいでガラ空きになった腹を蹴り飛ばす、二メートル弱ある怪物が軽々と吹っ飛んでいく、すぐさま体制を立て直そうとするがさせない、シールドバッシュで怪物を怯ませ剣で袈裟斬りにしてその勢いのまま回し蹴りを叩き込み大きく吹き飛ばす、怪物は弱っているようでフラフラと起き上がるのを見ていると、頭の中でまた声が聞こえてくる。
(魔法少女はイメージの通りに魔力を使って様々な魔法を使うことが出来る、思うがままに力を使ってとどめを刺すのだ。)
剣を両手で持ち、魔力を込めると剣が倍程の大きさになり豪炎を纏う、雄叫びをあげながらこちらへ向かってくる怪物に向かってこちらも駆ける。
「はあぁぁぁぁぁ!!ボルカニックブレイド!」
繰り出された拳を首を傾けるだけで避け、蛇の胴に向かって剣を振り抜く、繰り出された剣は蛇の胴体を抵抗なく切り裂き、怪物は悲鳴を上げながら爆発して、跡形もなく消えていった。
(魔法少女は、魔人や同じ魔法少女を倒す度に魔力が増加していく、悪事を働く魔人や魔法少女を倒してこの世に平和を、そのペンダントが君の魔法具、それを使えばいつでも変身する事が出来る、魔人を全て滅ぼし、全ての魔法少女の中で最も優秀な者には何でも願いを叶えてやろう。)
謎の声が言った通り魔力が増えたのが感じ取れた、こうやって悪い魔人や魔法少女を倒して行くのだろう。
「私は遂に正義の味方になれたんだ……」
憧れていた正義の味方になれたことに喜びを感じ、これからの事に思いを馳せながら、ペンダントを握りしめながら家路に着いた。




