目覚めの時
どこからか目覚まし時計の音が聞こえてくる、今は朝なのだろうか、いや、私はあの時コロナに……そこまで思い至ってハッとなり体を起こす。
「私の家だ……あの時死んだと思ったけれど、どうなっているの……?」
時計のアラームを止める、時計にはいつも朝学校に行く時に起きる時間が表示されている、日付を見るとまだ学校が夏休みに入る前になっている。
「時間が戻っているの? 一体なんで……いや、そんな事は今はいいわ、これはもう一度誰かが与えてくれたチャンスなんだわ、私はもうあんな事を繰り返させる訳にはいかない……!」
私はいつも通り朝の準備を済ませて学校へ登校する、そしていつも通り授業を受け始める、由希の方を見てみると何処か浮ついた様子で授業を受けている、以前は気が付かなかったが、これはもしかして魔法少女となってすぐの日なのだろうか、だとすれば魔法少女になるのを阻止する事はもうできない、自分の正義の為に由希は永遠に戦いを続けさせた、今の時点でもうその考えに至っている可能性だってある。
私が取れる選択肢は大きく二つある、一つは由希を殺してしまうこと、これは手っ取り早く夢を阻止できるが、もし私が願いを叶えることができなければ取り返しのつかない事になる、もう一つは由希が魔力を増やすのを邪魔し続けて戦いに参加させないこと、功績を残せなければ願いを叶えることも出来ない。
私はいくら殺されかけたとはいえ、由希を手に掛ける覚悟があるか、自分でも分からない、だが、そういう手段もあると常に念頭に置いておかなければ……。
気がつくと授業も終りそれぞれ皆帰宅していく、由希もホームルームが終わるとそそくさと帰ってしまった、私もあとを追わなければ。
由希はまっすぐ家に帰ったあとすぐに家から出てきて辺りをキョロキョロと見回した、咄嗟に隠れてやり過ごしまた覗くと近くの公園の方へ歩いて行く、バレないように後を追うとコロナは誰もいないのを確認してから、首にかけたネックレスに触れ、コロナの姿へと変身して魔法世界へ入ってしまった。
「変身!」
私も変身して後を追う、魔法世界に入ると公園の中央でアーリーがコロナに切りかかりそれをコロナが避けている所だった、アーリーはコロナによって命を奪われた魔法少女だ、戦わせるのはまずい、私はアーリーとコロナの間に割って入る、するとアーリーは忌々しそうに呟く。
「何!? 新手の魔法少女か、厄介な……!」
「あなた達を戦わせる訳には行かない、ここは引いてもらうわ」
アーリーはこちらに大剣で切りかかって来るが、振りかぶった瞬間に距離を詰める。
「インパクトランス」
「ぐはっ!」
アーリーは吹っ飛んでいきそのまま姿を消した。
「何が目的? 戦わせる訳には行かないって」
「あなたはもうこんな戦いなんて辞めなさい、今まで通りの生活に戻るのよ、そうすれば痛い目に合わなくて済むわ」
「そう言われてハイ分かりましたなんて言う人が居ると思う? そう言われるとますます戦いたくなってくる」
はぁ、と溜息が漏れた、説得なんて無理だろうと思っていたけど、結局こうなってしまった、ずっと魔力を増やすのを阻止するというのも正直現実味がないだろう、もうここで一旦死んでもらう!
「なら、もう話すことはないわ、あなたが死ぬか、私が死ぬか……!」
コロナは剣と盾と構えて待ちの姿勢に入った、私は愚直にまっすぐ突っ込む、過去の能力は私に今も引き継がれているが、コロナ達はそうではないようだった、能力と経験の差で負けることは無い、射程距離に捉えた瞬間槍を突き出す、コロナはそれを盾で受けようとするが、これはフェイントだ、一瞬で別の場所に突きを入れる。
怯みながらも反撃の剣を繰り出して来るが、遅い、避けてそのまま槍を横に薙ぐ、コロナは脇腹を切られてゴロゴロと転がるがすぐに立ち上がりこちらへ切りかかってくる。
「トリック!」
分身を使いコロナを取り囲む、そしてそれぞれ槍を投げる構えになる、コロナはすぐに近くの分身に切りかかるが、分身が消えただけでグングニルは止められない。
「デュアルグングニル!」
「ボルカニックブレイド!」
必殺技でグングニルを防ごうとしているが、一撃目で剣を弾き二発目のグングニルはコロナに直撃する。
「うわあぁぁ!!」
シールドが割れてコロナが倒れ伏す、起き上がろうとしているが、もう力が入らないようだ。
「せめて、楽に死なせてあげる、私ももう後には引けない……!」
「クソっ! こんな所で……!」
倒れるコロナに向かって槍を構える、コロナは身動きが取れずにいる、槍を振り下ろそうとするが、ダメだ、身体が震えてしまう、まだ人を殺めるのに抵抗がある……! もたついたのがいけなかったのだろう、横合いからの攻撃に反応出来ず吹っ飛ばされる、コロナの方を見るとコロナは意識を失っている様だったが、その横に龍の魔神が姿を現していた。
「我らの願いを邪魔する愚か者め、お前が未来からやって来ているのは分かっている、無駄な事を、最早コロナが勝利する事は決まっているのだ、お前如きでは何も出来ん」
「だからって諦めろと? 私もそう言われてハイ分かりましたなんて言う性格じゃない、あんな事はもうさせない!」
龍魔神がこちらへ近づいてくる、コイツからは馬鹿げたほどの魔力を感じる、最初から全力で行く!
「魔力解放!」
氷の双槍で突きを放つ、だが龍魔神は全て弾き凌ぎ切る、反撃に振るわれる拳に打たれて私は大きくシールドを削られる、すぐに体勢を立て直す、まともに戦っては不利だと察した、ならばこれでどうだ。
「トリック!」
私の本体は身体を消して分身で撹乱する、この隙に大技を叩き込んでやる。
「無駄な事を……我にその技は効かん!」
分身と共に突撃する、だが、龍魔神の身体から莫大な魔力の波動が放たれて分身は消え去り私の透明化も解除される。
「そんな……」
龍魔神はこちらへ近づいてそのまま拳を振るってくる、透明化がダメならこれならどうだ!
「絶対零度!」
だが龍魔神は動きが鈍くなった程度でそのまま拳を振るう、動きが止まると決めつけていた思考の空白を突かれてまともに拳を食らって吹っ飛ばされる。
「我には小細工は通用せぬ」
これは……どうすればいいんだろう、勝てる気がしない、ここは撤退するしかない、もう魔力も残り少なくなっている、私は透明化を使ってすぐさま逃亡する、龍魔神はすぐさま波動を放って透明化を解除しにかってくるが、もう遅い、私は姿を隠して龍魔神から逃げる事に成功した。
「危なかった、もう少しで全部無駄になる所だった、あの魔神はコロナが勝てるように仕組んでいるのね、アイツをどうにかしないとまた、あんなことになってしまう……」
私は痛む身体にムチを打ちながら魔神から逃げる為に歩いていった。




