シヴァVSゼリス
カグラさんとゴルドの戦いの巻き添えを食らわない所まで何とか運んできた、治癒魔法を必死に掛けた甲斐あってか、血を止める事は出来た、だがまだ意識を取り戻さない、まだ続けて治癒魔法で回復させる、きっと助ける、人が死ぬのは嫌だ。
「これは良いですね、厄介なコロナは死にかけで戦えるのはわたしとあなただけ……今度こそ決着を付けさせて頂きます、逃しはしません」
「……ゼリス、もう辞めましょう、貴方とは戦いたくないわ」
ゼリスはくくく、と笑いながら鉤爪を装備してこちらへ歩きだす。
「なら死になさい!」
ゼリスが駆け鉤爪で切ってくる、わたしは手甲で弾き正拳突きをゼリスの腹へ放ちゼリスを吹き飛ばすが、感触が軽かった、殆どダメージは無いようだ、だがこれで距離が空いた、ゼリスは近接武器しか所持していない、わたしは銃でゼリスに射撃を浴びせる、ゼリスは銃弾を弾くがいくつか被弾してシールドを削った。
「やりますね、最初戦った時はわたしの方が上回っていたのに、今はこうです、いつも……いつもいつも! あなたはわたしの前に立ち続ける、目障りなんですよ……」
「誰なの、あなたはいったい……」
怒りの声をあげてゼリスが迫ってくる、銃で射撃しながら、距離を取るとゼリスは距離を詰めきれずにダメージが蓄積していく、徐々に射撃に対応され始めたので射撃を辞めて近接戦闘に切り替える、鉤爪で引っ掻くように見せて急に足のブレードで切り裂こうと迫るが咄嗟に体全体を沈めて避けそのまま足払いをかける、片足を払われたゼリスはその場に倒れ、鉤爪を振るってくるが、避けて距離を取る、そしてその場で魔力を溜める。
「あはははは! 」
ゼリス魔力を鉤爪に溜めて構える、お互い同時に走り出した、わたしは飛び上がり両足に魔力を込めてゼリスへ蹴りを放つ、ゼリスは鉤爪に風を纏わせてわたしを斬らんと迫る。
「ストームレイダー!」
「アタック!」
蹴りと爪がぶつかり合い魔力の余波で辺りが破壊されていく。
「ぐっ……死になさい……!」
「はあぁぁぁぁぁ!!」
わたしの蹴りが爪を砕きゼリスの身体に当たる、ゼリスは重さを消さずにアタックをくらい、そのまま壁を突き破って転がる、シールドも割れてゼリスは立ち上がろうとしたが叶わずにそのまま倒れる。
「こんな……馬鹿な事が……わたしは……」
「もう終わりよ、ゼリス」
わたしが歩いて近づいて行くとゼリスは足を震えさせながら立ち上がる。
「まだ……終われない……」
「終わりよ、これで……え……」
立ち上がったゼリスの顔に張り付いていた不気味な仮面が崩れ落ちていく、そして見えたゼリスの顔は幼い頃から大事にしてきた妹だった。
「怜奈……何が……どうなって……」
「ふふ、馬鹿ですね梓姉さん、わたしがこんな人間だって、分かっていたでしょう?」
「怜奈……」
「わたしは今まで姉さんを見上げ続けてきました、勉強、運動、性格、何もかも姉さんはわたしの上に立って、姉さんは人の善意が見えるんですよね、悪意は決して見ない、ですが」
姉さんが善意を見れるように、逆にわたしは悪意を見ることが出来た、誰からも好かれて、善意を振りまいて、周りを幸せにする姉さん、悪意に敏感で誰からも好かれずに悪意を振りまき、悪意だらけの世界にしてしまうわたし、どうしてこうなったのでしょう、わたしは普通に生きたかっただけなのに……そんな事を言われて初めて怜奈が今まで抱いてきたコンプレックスに、本心に触れられた、わたしも本心を話そう、きっと分かってくれるはずだ。
「お姉ちゃんはね、善意が見えるって言って人はみんなお互い幸せに生きられるように助け合ってるって怜奈に教えた事があったよね、悪意なんて本当は無いんだよって、でもね、わたしは悪意が見えないわけじゃ無いんだよ」
幼稚園の頃に誓ったんだ、可愛い妹を守れるように立派なお姉ちゃんになるって、嘘ついて偽善塗れで妹に見栄張ってまで、努力も勿論したよ、妹を守るんだって、運動も勉強もオシャレも頑張って、怜奈の理想の姉になれるように頑張ったんだけど、それが梓を苦しめてたなんて思いもしなかった。
「そんな……馬鹿なことが……ならわたしは……?悪意に負けて不貞腐れたわたしと梓姉さんの違いは……?」
「もう戦いは辞めよう、怜奈を守る為に強くなったのに、怜奈とは戦えないよ……」
「そんな……ごめんなさい……ごめんなさい……」
ポロポロと泣き出した怜奈にわたしは近づく、そして愛おしい妹を抱きしめる、大きくなっても小さい頃からこういう所は変わっていない、だが妹に幸せになって欲しくて付いていた嘘はもう必要ないのかもしれない。
「うぅ……うぅ……あはは」
「?」
様子がおかしくなった怜奈を見ようと顔を離すとお腹に熱い物が突き刺さる、下を見ると怜奈の鉤爪がわたしのシールドを破壊してそのまま腹部に突き刺さっていた。
「がふっ……れい……な……」
「あはは、初めて梓姉さんに勝てました、見ていてくれましたか、神様、これでわたしに善意を見れるようにしてくれますよね、やっと人並みの生活を送れるようになりますよね?」
「違う……ダメよ……怜奈……」
怜奈鉤爪に突き刺したわたしをそのまま空へ投げる、わたしの腹部からは見た事も無いような量の血が溢れて怜奈へ降っていく。
「ストームレイダー!」
「あっ……」
風を纏った鉤爪はわたしの身体を呆気なく貫通した。
――――――――――――――――――――――――
姉さんがわたしの爪に貫かれて消滅していく、そして魔力がわたしの身体に満ちると同時に見える世界が変わっていく。
「これでわたしは幸せになれます! あははは!」
変身を解いて人通りの多い場所に出ると沢山の人が歩いている、今までなら見え出す悪意が見えなくなっている、今度は善意を見ようとすると、それも見えなかった。
「どういう事?」
試しに近くの人に話しかけてみる。
「あの……すみません、少しよろしいですか」
「なんだい、お嬢ちゃん迷子にでもなったのか」
「いえ……やっぱり大丈夫です、ありがとうございます」
おかしい、悪意も善意も何も感じられない、色んな人に話しかけてみる、おかしい! 何も感じない! 悪意も善意も無い、わたしは今まで悪意を見て人と距離を置き続けた、梓姉さんと居る時以外は安らかな気持ちで居ることは無かったが少なくとも酷い目にあったり騙されたりとかは無かった、姉さんは善意を見る能力がありそれで皆といい関係を築いて皆を幸せにして、姉さんも幸せそうに過ごしていた、だが今のわたしは悪意も善意も分からない、誰かを幸せにする事も無ければ、誰かに信用されることも無い、喋っていても誰もが似た反応しか出来ない、何故なら感情や思いを乗せて届くはずの言葉が中身を伴わないのだから。
「馬鹿な……こんなはずは……」
雑踏に紛れて歩き続ける、何も分からない、分からない、いつも変身に使っているナイフを取り出す、いつもはこれで自分の腕を刺して変身するがこれで近くの人を刺してみる。
「きゃあぁぁぁ!!」
人が倒れ辺りから悲鳴がこだまする、きっと恐怖しているのだろう、何も分からないが経験で恐怖を抱くとそう反応すると知っていた。
「あははははは!」
見境なく次々と人を刺していく、魔法少女として戦い続けて最早普通の人間の状態でもそこらの人間に負ける気はしなかった、だが今楽しいのか楽しくないのかそれすら分からなくなっていた。
警察が到着してわたしを取り囲む、だがわたしは構わずにナイフで切りかかり警察官を刺していく、不意にドン! と音がなりわたしの胸を何かが貫く。
「あは……はは……」
「何やってんだ! 人を撃つなんて!」
わたしは体から力が出なくなりその場に倒れる、地面にはわたしの血が地面いっぱいに広がっていっていた。
結局わたしは何がしたかったのだろう、大切だったはずの姉を殺して、何も感じない世界に一瞬で耐えられなくなり、最期はこんな所で殺人鬼として死んでいく、ああ、なんでこうなったのでしょう、わたしは奪われたものを取り返したかっただけ……。
サイレンの鳴り響く街中で一人の少女がそのまま息を引き取った。




