壊れた少女
ボクは一年前に記憶喪失に陥った、それまでに何をしてたかどんな生活をしてたか思い出せない、字を書いたり喋ったり日常動作は問題ないが、今までの思い出等が全く思い出せなくなっていた。
家族は居なかったのだろうか、家には閑散とした空気のみが広がっていて人の気配は無かった。
フラフラと外に出てみると日差しが眩しく太陽が肌を焼いてくる、どうやら夏のようだった、ふと首元が気になり触ってみると無骨そうな首輪があるようだった、そういえば、記憶を失った時にこの首輪を手に入れた事を思い出した、首輪を手に入れて、魔法少女となりそしてその後に何故か記憶が失われたのだ。
「折角願いを叶えてもらおうとしてるのに、これじゃそもそも何が願いか分からないじゃないか」
足元に転がっている石を何となく蹴飛ばしてみる、コロコロと転がった石は溝に落ちて見えなくなった。
そうだ、勿体無い気もするが願いは記憶を取り戻すという願いにしよう、ボクは魔法少女ゴルド、欲しいものは絶対に掴み取ってやる。
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ボクはあれから半年間魔人と魔法少女を相手に戦い続けていた、今日もボクが勝ち残って魔法少女が目の前で力尽きる、ボクは目の前の無防備な背中にハルバードを突き立ててトドメを指した、少女が程なくして消滅していき、ボクの魔力となる半年間魔人や魔法少女を狩り続けたボクの魔力は他の魔法少女とは比較にならないほど増えていた。
長い間戦ってきたから、魔人の知識も大分増えてきていた、どうやら魔人は魔人に食べられた人間から生まれるようだ、これを利用すれば魔人を安定して倒す事が出来る、最も優秀な魔法少女は願いを叶えてもらえる、ならばもっともっと魔力を増やして誰にも負けない魔法少女になればいい。
魔法少女として戦うのは好きだ、魔法少女はムカつく奴らばかりだが、戦いになればボクが絶対勝つ、生意気にも歯向かってきた魔法少女は皆ボクの前で死んでいった、魔人は魔法少女を釣る餌にしたり自分で遊ぶ為の道具にしたり使い道はいくらでもある、今度強い魔人を作ってみても面白いかもしれない。
「まだ記憶は戻らないけど、もうこのままでもいいかも、だって今がこんなに楽しいんだから、永遠にこの戦いを続けてもらおうかなぁ、そうすればボクは永遠にこの世の女王になれる」
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油断した? いや、そんなことは無かった、負けるなんて初めての経験だった、長いこと戦い続けてきたが、ボクはいつだって勝ち続けて頂点に立ち続けた、だが、思いだすとハラワタが煮えくり返るような思いになる、見たことの無い白い少女にまるで歯が立たずにあしらわれて無様に敗走してきたのだ、この魔法世界の女王であるゴルドが。
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
あたり構わずに暴れて魔法世界の周囲の物を次々に破壊する、力が落ちた訳では無い、現に周囲のありとあらゆる物が無残に破壊されて塵へと帰った。
「認めない……次は絶対に殺す」
ボクはこの世の女王、誰にも敗北する事などあってはならない、これまでにも負けた事など、と考えた瞬間。
「ぐっ! あ……頭が……痛い……何だ……ボクはどうしたんだ?」
頭に浮かんだのはボクが下から悪魔の様な魔人を見上げている、記憶だった。
「こんなものは知らない……いつだ? これは何の記憶だ……?」
悪魔の様な魔人を思い浮かべようとすると脳が拒否しているのか頭が痛くなる、この訳の分からない記憶はとりあえず後にしよう。
「あはは、ボクはさいきょうなんだ、誰にも負けない、この世の女王……」
溜め込んだ魔人達を狩ろう、魔力を増やして魔法少女を全て殺し尽くす、ボクは願いを叶え無ければならないから、願いを叶えて永遠の命を得るのだ、そうすれば永遠に遊んでいられる。
あはは、あはは、魔法世界にゴルドの不気味な笑い声が響き渡った。




