高宮姉妹
「じゃあ、あの声の通り魔人を倒していけば、みんな幸せになれるってことですね!」
魔法少女について色々説明すると、シヴァは目を輝かせながらそう言った。
「願いを叶えてもらえるのは一人だけだから、みんなではないような」
「何でですか? 願いといったらみんながこのまま幸せで居られますようにって願いしかないじゃないですか」
笑顔でそう言ってのけるシヴァを見て好きにさせることにした、多分言っても無駄だろうし、また変な奴が魔法少女になったな。
「今日は色々教えて下さったり、助けて下さったり、お世話になりました、また会いましょうね!」
握手しながら腕をブンブン振られる、距離の近い子だな、見えなくなるまでこちらへ手を振っているシヴァを見ながら私はため息をついた。
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今日あたしは世界を魔人という悪者から守る魔法少女になった、家に帰ってからこっそり変身して見るけど、まるで別人みたいにかっこいい姿に浮かれていた、そんな事をしているとドアの方からコンコンとノックの音が聞こえた。
「梓姉さん、入りますよ」
「あっ! ちょっと待って!」
あたしは急いで変身を解くと何も無かったかのようにベッドに腰掛けて声の主、妹の高宮 怜奈を部屋に招く。
「梓姉さん、今日はお母さん達は仕事で帰れないみたいです、わたしが夕飯作りますけど、何がいいですか?」
柔らかな茶色の髪を背中まで伸ばしてる以外はあたしと瓜二つな妹、怜奈がそこには居た、今日の夕飯は好きな物を作ってくれるらしい、どんな料理がいいかなと、ちょっと考えてみる。
今日は野菜炒めが食べたいなと言ってみると、分かった出来たら呼ぶから来てね、とそのまま部屋を出ていった、あたしとしてはもう少し笑顔を見せてくれたら学校でも友達が出来るかもと思ったりするが、そもそも妹は大人しい子で学校での話をしたりとかもあまりしない、それとなく後輩に聞いてみたりすると誰にでも優しくしていて、特に仲が良い友達はいないみたいだが、みんなから好意的に見られているようだから安心したけれど、笑顔が少ないとこの人苦手だなって、思われちゃうかもしれない、もっと妹が笑顔を見せてくれるようにあたしが面倒見てあげなきゃなんて、つらつらと考えていたらあたしは気づいた時には夢の世界へ旅立っていった。
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わたしは姉が嫌いだ、姉は人を好意的に捉えすぎるきらいがある、わたしはそんな姉を持ってしまったせいか、人の悪意にすごく敏感になってしまっていた、気づいた時にはもう遅く、それこそ子供の頃から無邪気な悪意や害意を持った悪意に晒され続けてすっかり人を信頼できなくなってしまった、歳は姉の方が一つ年上なのだが、その姉は昔からまるで太陽のような人だった、明るく無邪気で人を愛し人に愛されする姉と話をする人は悪意など持ったりはしないが、わたしが話をすると途端にその人は何かしらの悪意を持ち出す、姉のような無邪気な好意が無いから、きっとどこかで人はそれを無意識下で察しているのだろう。
わたしにとって姉とはわたしが本来持つべきであった明るい感情を奪い去って、自分の悪感情をわたしに押し付けた張本人だといつからか思うようになった、だが同時に姉の事を好いている自分も居た、その二つの相反する想いのせいで、わたしはずっと苦しむハメになっている。
誰と接しても悪意しか感じられない、姉と接している時だけは悪意を感じずに済んで、この上ない安心感を得られたりすることが出来るが、まるで自分から好意というものを奪った姉に依存する様な形になってしまっているという事を思いそんな自分に絶望するといった毎日が続いていた。
そんなある日わたしの元に見覚えの無いナイフが届いた、身に覚えがなく気味が悪かったので捨てようとナイフに触れた瞬間わたしはナイフを捨てるという選択肢を無くした、魔法少女の力を知ったのだ、これはきっと神様からのわたしへの贈り物なのだろうと感謝した、他の魔法少女を魔人が滅びる直前に全員殺してしまえば、わたしの願いは叶えてもらえる、そう思い至ってわたしは魔法少女と魔人の数を数えて情報を集める事に躍起になった、魔法少女を始末する時にある程度実力がないと返り討ちにされてしまうので、少しずつ敵を倒して魔力を増やしていった。
魔法少女は残り六人、魔人は八体だ、そろそろ魔法少女の数を減らしていかないといけないが、二人程勝てる気がしない魔法少女がいる、その二人以外の魔法少女と魔人を倒して魔力を増やしてやっと勝負が見えるかもしれないというレベルで今は差がある、せっかくわたしが人並みの幸せを手に入れる事ができる機会なんだ、ここで願いを叶えてもらえなければ、わたしはきっとこの悪意の渦まく世界から出られないだろう、わたしは姉と自分の料理を作りながら今後の事に思いを馳せていった。
人物紹介
高宮 梓 (シヴァ)
怜奈の姉で明るくハキハキとした態度で誰にでも優しく接する、人にある悪意というものを認識しておらず、梓と接する人間もどんな悪人であれ梓に対しては悪意を抱けないという、魔法少女になる前から一種の固有能力を持っていた、怜奈とは仲のいい姉妹で親があまり家に居ない関係で一緒にいる事が多い。
高宮 怜奈 (???)
高宮 梓の妹で丁寧な口調で話すのが特徴、ある日突然送られてきた見覚えの無いナイフに触れて魔法少女となる、幼い頃から人の悪意に非常に敏感でそれが無意識下の悪意だろうが見通してしまう、そのせいで人を全く信用することが出来ずに学校でも孤立している、姉に対しては悪意を感じること無く一緒に居られるので唯一信用出来るが、自分の正反対の姉の事を見てその事に恨みを抱いている面もある。




