ドレッドの過去
オーパルから辛くも逃げ切った私たちはオーパルの能力について考察していた。
「アイツに近づくと急に頭で物を考えられなくなる、それで間違いないね」
「オレもそうだった、オレの方が射程が長いから何とか距離をとって戦っていたんだが、近付かれた瞬間にオレも回避行動がままならなくなった、それがアイツの能力なんだろ、ムチの射程は四から五メートル、近接武器の中では最長のリーチだろう、思考が止められるのもその辺の距離からだ」
私が戦うとしたら剣と固有能力の特性上近づかなければならないので、相性は最悪といっていいだろう、遠距離からも攻撃出来る魔法は幾つかあるが、オーパルは恐らく速度を犠牲にして防御力を高めているタイプだ、戦いの時あまり素早い動きはなかったし、炎弾の直撃を食らってもそこまで効いていなかった事からほぼ確実だろう、遠距離魔法の効果は期待できそうにない。
「私とカグラは近接戦闘を得意とするタイプだ、カグラは少しトリッキーな戦術を扱えるからどうなるか分からないが、ムチと固有能力を喰らわずに有利に戦えるのはドレッドだろう、あんな奴でも命は奪いたくないか?」
「嫌だ、オレはこの戦いを魔人側のみを滅ぼして終わりにしようと思っている、魔人は元が人間とはいえ魔人の辿る運命を思えば、殺してやるのが一番の救済だからな……」
魔人が元人間だと言うのは驚きだった、何処からか現れた人間の形をした異形だと思っていたから、それに魔人の運命というのは気になる。
「魔人はどんな運命を辿るんだ? 魔人が人間だなんて初めて聞いたし、どうしてそんなに魔人について詳しい?」
ドレッドは苦虫を噛み潰したような表情をしてポツポツと話し出した。
「オレにはな幼馴染が居たんだ、男何だけど、弱っちくてさ、いつも虐められたり何だのしてその度にオレが助けてたんだ」
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「また虐められたんだってな、全く高校に入ってもお前は変わらないな」
「何でか分かんないけど、虐められるんだから、仕方ないじゃないか」
「オレが思うに優がなよなよしてるからじゃないの? 素材はイイんだから、キリッとしたらきっといじめる奴も居なくなるぞ」
「茉莉ちゃんは僕が強くなったらどう思う?」
「どうって、まあ嬉しいような寂しいような感じかな、無理して強くなる事無いんだぞ、オレが守ってやるからな」
「それ、立場が逆だよ……」
そんな下らない会話をして優と一緒に過ごす時間がオレは大好きだった……だけどある日。
優を虐めている奴が行方不明になった、捜索依頼も出されているようだが、一週間経ってもまだ見つからないらしい、それに最近優の様子がおかしい、オレが話しかけても上の空と言った感じで反応が少なくなってきていた、ある日下校しようとすると体育館の裏に連れ込まれていく優を見つけた、行方不明になった奴の仲間がまた優をいじめようとしているのだろう、オレは見逃せずに体育館の裏に行ってしまった。
そこで見たのは虫さえ殺せないような性格の文字通り優しい優が不良達を惨殺している光景だった、オレは見たものを信じることが出来なかった、優は身体の一部を異形に変えて異形の腕で腰が抜けて逃げれない様子の不良の顔を吹き飛ばしその身体を食らっていた。
「え……なに……これ……」
その声で優は気づいたらしくこちらに振り返った。
「何だ茉莉ちゃんか、見てよ僕こんなに強くなったんだよ、誰にも負けないくらい、今度から僕が茉莉ちゃんを守ってあげるね」
そうやっていつもの可愛い笑みを浮かべながらこちらへ近づいてくる優を見て思わず。
「来るな!」
優はビクッとしてその場に止まった。
「どうして? 茉莉ちゃんの為にこんなに強くなったのに僕を否定するの?」
「強くなんてならなくて良かった! いつもみたいに過ごせたらそれで……!」
だが、もう遅いのだろう、こんな優をもう見ていられない、いつもにはもう戻れない。
オレが絶望した瞬間いつの間にか目の前にはピアスが浮いていた、そのピアスから声が聞こえその声に導かれ私はドレッドへ変身した、この力で優を止めると意気込み向かっていったが、優の力には全く適わず私はシールドを割られ地面に倒れることとなった。
「茉莉ちゃん、僕は魔人の中でも上位に位置する存在なんだよ、魔人は人を食らえば食らうほど理性が宿る、僕は人間の時位には理性があるから、そこら辺の魔人とは格が違うんだよ、もう守られる僕じゃない」
そしてゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「一緒に居よう茉莉ちゃん、君の事が好きだ、一生そばに居るよ」
その言葉は今聞きたくはなかった、もっと前にそれを言ってくれていれば、もしかしたらそんな未来が有り得たのかもしれない。
「嫌だ、今の優とは一緒に居られない、せめてオレの手で優を葬ってやる……!」
「そう、僕の物にならないなら、無理矢理にでもなってもらおうかな!」
そう言って優がこちらへ向かってこようとした時誰かが優の背後に降り立った。
「何か面白そうなのがいるなって思ったら、上位の魔人に魔法少女か、あはは」
優が振り返り憎悪のこもった目で睨みつける。
「何だ? お前」
「ボクの名前はゴルド、魔法少女ゴルドだよ、よろしくね、おにーさん」
全身黒いドレスアーマーを纏い身長以上のハルバードを持つ魔法少女がそこにはいた、優が唸り声をあげ怪物に変身していく、コウモリの様な姿の魔人だ。
優は目にも止まらないスピードでゴルドに迫ってその鋭い爪でゴルドを切り裂く、だが。
「この程度なの? 上位魔人なんて言う位だから、もうちょっと楽しめるかなって思ったんだけどなぁ」
振るった爪を平然と受け止めてゴルドは優のお腹に膝蹴りを入れる、そしてくの字になって浮いた優をハルバードで切り裂く、優は空中で殆ど真っ二つになりながら悲鳴を上げて逃げようとするが。
「だーめ、逃げちゃだめだよー」
ゴルドが瞬間移動の様な速さで回り込んで優の首を掴んで壁に叩きつける、そしてそのまま首を締めながら持ち上げた。
魔人になったとはいえ、優をこんなにされて黙っては居られなかった、先程のダメージが残っているが最後の力を振り絞り。
「ジェノサイドバスター!」
必殺技をゴルドに向かって放つ、ゴルドは背中に必殺技を食らって魔力が爆発を起こす、煙が消えるとそこには首をへし折られ消滅していく優と無傷のゴルドが居た。
オレは言葉にし難い絶望感に苛まれながら意識を失った。
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「どんなに強くなろうが、最後には魔法少女に倒される運命なんだ、魔人は人を殺さなければ理性を失い人を殺せば強くなったあと魔法少女によって消される、オレはもう優みたいな人を一人も生み出したくはない、だから魔人を滅ぼすんだ、きっとそれが唯一の救いだと信じて……」
話すことは話したと言わんばかりに去っていくドレッドを私は見送る事しか出来なかった。




