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第六話 覚醒のとき

 父ちゃんと村人たちは、シガル衆に追われまくる。

 そしてついには、俺たちのいる丘の上までやってきた。


「くそっ、雨さえ降らなければ……!」


「お前さん、大丈夫かい?」


「儂は平気だ。それよりもお前たち、逃げろ。やつらがもうすぐ来るぞ――」


「おい、だめだ。ここはもう囲まれているぞ!」


 誰かが叫んだ。まさか、と思って小屋から顔を出し、丘の下に視線を送る。

 すると確かに、俺たちのいる高台は、ぐるりと敵に囲まれていた。


「なんであいつら、ここまでくるんだ!? こっちには金目のものなんてないぞ!?」


「決まっているだろう! 女子供をかっさらうためだ!」


 村人の誰かが叫び、また別の誰かが叫ぶ。

 誘拐。そうだ、戦国時代において、人間が敵にさらわれるのはよくあることなのだ。

 そして、さらわれた女子供はどうなるのか――

 ……言うまでもない! 考えるだけでおぞましい!


「牛松さん、銃を撃て! ここは小屋の中だ。外が雨でも、ここからなら撃てるだろ!?」


「分かっている! しかし――」


 もはや銃弾一発ではどうしようもないほど、戦況は悪化していた。

 数十人のシガル衆が、丘の下からじりじりと押し寄せてきている。

 村人たちは石を投げ、なお抵抗を続けている。

 だが、敵が小屋まで攻めてくるのは時間の問題だった。


「おおい、集まれやい。ここだ、ここに女とガキがいるぞぉ」


「連れていけ、連れていけ! けっへへへ……!」


「女に舌を噛ませるなよ。生け捕りにするんだ!」


 野盗集団の下卑た会話が、ついにここまで聞こえてきた。

 ……ちくしょう!

 俺は思わず、歯ぎしりした。なんとかしたい。なんとかしないといけない。

 このままだと俺は殺される。あるいは敵にさらわれて、死よりも辛い世界にゆくだろう。

 いや、俺だけじゃない。伊与も、父ちゃんも母ちゃんも、村のみんなも――


 ちくしょう、強くありさえすれば!!

 今日このときほど、そう思ったことはなかった。

 強くありさえすれば、この人でなしどもをブッ倒せる。

 強くありさえすれば、自分を守れる。家族も仲間も守れる。


 そうだ、強くありさえすれば、俺だって! ……俺だって!!

 このクソみたいな現実を、すべて吹っ飛ばしてやれるのに!!


 ……その瞬間だった。



【そうだ、俊明! 思い出せ、お前の能力を!!】



「な、なに!?」



 ふいに、声が。

 そう、伊与と女性武将について話した直後に聞こえたあの声が、俺の頭を駆け巡ったのだ。

 俺の、能力……? 能力だと……!?

 この場で役立つ俺の能力なんて――

 戸惑う俺だったが――しかし一秒にも満たぬ逡巡の直後、光り輝くような思考が浮かんだ。


「――散弾。……そうだ、散弾を使えば……」


 散弾とは、その名の通り、小さな弾丸を無数に散開発射する弾丸のことだ。

 日本の火縄銃は丸い弾しか発射できないと誤解されているけれど、銃の構造としては散弾を発射することになんの問題もない。

 簡単な散弾の作り方は、こうだ。プラスチックなどの薬きょうの中に、小さな鉛の弾丸、フェルトと呼ばれる羊毛、火薬を投入していき、最後にフタを閉じる。


「散弾を作れば……そうだ、武器が鉄砲一丁でも、散弾を撃てば――一度にふたり、三人の敵を負傷させられる……最低でもこけおどしにはなる……」


「や、弥五郎。お前、どうした?」


 父ちゃんが、心配そうに声をかけてくる。だが俺は答えず、


「父ちゃん! 鉄砲を撃つための火薬はまだある!?」


「え? あ、ああ――そりゃ、もちろんあるが……」


「よし。じゃあ俺にくれ! それと銃も!」


「弥五郎、なにをするつもりだ?」


「いいから、早く!」


 父ちゃんは呆然としながらも、銃と革袋を差し出してきた。

 袋を開く。中にはまさに、鉄砲を撃つための黒色火薬が入っていた。

 欲しかったのはこれだ。

 俺はそれを受け取ると、小屋の中を一度ぐるりと見回した。


 散弾用の弾丸を作っている暇はない。床に落ちている小石と砂をかき集めて代用する。

 フェルトは、小屋にある動物の毛皮――これなんの毛皮だ? まあいい、こいつが使える。

 火薬は父ちゃんから貰ったものを詰める。プラスチックケースは、小屋の中にある紙で代用するしかない。これを薬きょうにして、油には漆を用いれば――よし、いけるはずだ!

 俺は材料をかき集め、みるみる散弾を作りあげていく。


 ――10年ぶりだ。能力を発揮するのは。

 そう、武器を作るのは……!


「やつらが来たぞ!」


 村人のひとりが叫んだ。

 その通り、シガル衆が、すでに小屋の近くにまで迫ってきていた。

 村人たちは――


「どうするんだよ、もう逃げられんぞ!」


「弥五郎はなにをやっとるんだ!?」


「おい、もう降参しよう!」


 村人たちは、無残なほどに混乱していた。

 もはや団結はなかった。

 その場に突っ伏し、念仏を唱え出す者さえいたのだ。


「弥五郎……!」


 伊与の声が聞こえた。

 人生の終焉を覚悟したような、悲痛な声音。

 だが、俺は。村人たちの絶望とは裏腹に――


「……出来た……!」


 ニタリと、口角を上げていたのである。

 手の中に、散弾がある。

 火薬を火縄銃に入れ、続けてその散弾を詰め込み発射の準備を整えると、


「みんな、下がってろ!」


 そのセリフと共に、小屋の扉を勢いよく開け、その場所から敵に向かって銃を構える。

 敵との距離、もはやわずか10メートル――


「おっ、ガキが出てきたぞ」


「なんだなんだ?」


「子供をやるから許してくださいってか? へへへ」


 ある者はきょとんとし、ある者はニヤニヤと笑っているシガル衆の集団。

 ふと、前世を思い出した。

 ああ、いるよな。弱い者に対して一方的に勝ち誇るやつ。

 こういう連中は時代を問わず、こういう顔をするんだな。

 だが、それもこれまでだ。

 ここからは――


「ここからは、俺の反撃する番だッ!!」


 雄叫びと共に――パチン、と引き金を引く。その瞬間だ。

 ド、ッ、パアアアァァァァァァァァン!!

 散弾が、敵集団のちょうど中央で爆裂した。

 尖った小石と砂つぶと、黒色火薬がいっぺんに、シガル衆へと降り注ぐ。


「ぎゃあああっ!」


「あぐぁぅあっ!」


「な、なんだこりゃあッ!?」


 敵の一部が倒れ込み、残りのやつらも、おおいにひるんだ――

 実のところ、散弾そのものの威力は決して高くない。

 アニメやゲームのように数十メートル単位で弾が拡散したりはしないし(せいぜい直径一メートルかそこらだ)、まして俺が撃ったのはありあわせの材料だけで作った即興弾丸だ。至近距離で爆発しても、相手を殺害まではできないはずだ。


 だがそれでも、石と砂が飛び散りまくる散弾。

 驚かすには充分だった。


「な、なんじゃ、いまの弾は!?」


「あ、新しい武器か!?」


「妖術じゃないのか――」


 シガル衆は、いっせいにざわつき、慌てふためく。

 してやったりだ!

 さらに、そのときである。


「みんな、いまだ!」


 小屋から、伊与が飛び出した。と同時に叫んだ。


「弥五郎のおかげで敵は浮き足だったぞ! 突き崩せ、突き崩せ!!」


 少女とは思えぬ大音声。

 しかし、それがきっかけだった。

 小屋の中から父ちゃんたち村衆が登場し、シガル衆を追いまわす。


 混乱していたシガル衆は弱かった。村人たちの勢いに押されまくる。

 伊与も、あたりから石を拾ってブン投げている。うまく敵に命中していた。

 やるなあ、コントロール抜群だ。


「いいぞ、伊与!」


 俺も、もう一発ドカンといくぜ!

 さらに、散弾を火縄銃に込めて発射した。

 散弾は次々と、シガル衆に命中していく!




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