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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第一部 黄金立志編(1551~1553)

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第六十話 豊臣秀吉と織田信長

 銃刀槍500を作る!

 そのために、材料を集め、鍛冶屋に仕事を依頼しなければならない。


〔鉄棒〕〔鉄板〕〔鉄砲からくり〕〔物干し竿〕〔袋穂〕〔刀(数打物)〕


 これらの材料を、定価よりも安く買い集めないといけないのだ。

 そのために、人脈が総動員される。

 尾張どころか、美濃、伊勢、三河など近隣諸国を、関係者が駆けずり回った。

 伊与、カンナ、佐々さん、前田さん、小六さん、甲賀の次郎兵衛、服部さん、さらに大橋さんの家来から前田家の小者。自称・聖徳太子たち5人もいる。その5人も、知人友人に声をかけてくれた。しまいには海老原村の八兵衛翁やあかりちゃん、おさとさんまで、できる限りの協力をしてくれたのだ。


「どこそこでは鉄が安かった」


「あそこでは鉄を安く譲ってくれると思う」


 誰かがそんな情報収集をしたら、誰かが現地におもむいて買いつけてくれる。

 そんな日々が続く。ありがたかった。仲間たちの存在が、本当に嬉しかった。




 もちろん、俺だって遊んでいるわけじゃない。

 津島の鍛冶屋、清兵衛さんのところにいる。

 俺は集まった材料を用いて、銃刀槍を作り続けているのだ。


 そんなある日、藤吉郎さんが鍛冶屋にやってきた。


「いよう、弥五郎。やっとるな」


「あ、藤吉郎さん。銃刀槍作りは、おかげさまで順調ですよ」


「そうかあ、そりゃよかった。清さんと力を合わせて頑張っとるんだな」


「あれ? 藤吉郎さんと清兵衛さんって知り合いなんですか?」


「おりょ。言ってなかったのか、清さん」


「ああ、そういえば、言うのを忘れていたかなあ」


 鍛冶屋清兵衛さんは、汗を拭きながら言った。


「わしと藤吉郎は、親戚なんだよ。藤吉郎のじいさんが、わしの年の離れた兄貴でなあ」


「ぶほぁ!?」


 思わず、なにかを噴き出した。

 と、藤吉郎さんの祖父の弟? 鍛冶屋清兵衛さんが!?


 俺は、鍛冶屋清兵衛さんと最初に会ったときのことを思い出した。

 鍛冶屋清兵衛さんと、その娘、伊都さん。

 ふたりとは、どこかで会ったような気がしていた(第37話「連装銃完成」参考)。

 それがまさか、藤吉郎さんの親戚!?


 俺の中の戦国知識がカチャカチャと動く。

 ……そ、そうだ。……加藤清正かとうきよまさ

 豊臣秀吉と縁戚の加藤清正。その母親が確か、津島の鍛冶屋清兵衛の娘、伊都といったはずだ。

 じ、じゃあ俺は知らず知らずのうちに、加藤清正の祖父と母親、ふたりと知り合っていたのか……。

 気がつかなかった。しかし初めてのパターンだな。すでに知り合っていた人が、有名人の家族だったなんて。


「なんじゃなんじゃ、えらく驚きおって。悪いもんでも食うたのか?」


「あ、いえ。……いろんな人と縁があるなあ、って思って……ははは……」


「? まあいい。――おっと弥五郎、わしゃ、腹が減ってきた。飯でも食いにいかんか?」


「はあ。じゃあ、休憩にしますか……」




 俺と藤吉郎さんは大橋屋敷に行き、飯を食わせてもらった。


「毎度のことじゃが、本当にありがたいのう。大橋つぁんのところに行ったらいつでもメシを食わせてもらえる」


「俺なんか毎食ですよ。大橋さんには本当にお世話になっています」


 俺は、笑った。

 だが笑いつつ、告げた。


「もっとも、この立場もそろそろ終わらせるつもりですが」


「ん? ……うむ。まあ、いつまでも居候というのも、の」


「ええ。……俺は本分を忘れちゃいませんから」


 シガル衆。

 やつらのような悪党を、許しちゃおけない。

 あのときの大樹村の誓いを、俺はもちろん覚えている。

 自分だけの軍団を作る。そのために金を貯めてきたのだから。

 最終的には、藤吉郎さんと力を合わせて天下を泰平に導くのだ……。


「わしももちろん、あの日のことはよく覚えておるぞ」


 藤吉郎さんは、うなずいた。


「天下のために、必ず出世してみせる。そう誓った。……おお、そういえば、弥五郎。わしゃその望みが少し叶いそうなんじゃ」


「え、どういうことです?」


「銃刀槍の件じゃ。今回の仕事が終わったらの、大橋つぁんと前田さまが、わしと弥五郎のことを三郎さまに伝えてくださるらしい」


「おお! よかったじゃないですか! そういえば大橋さんは前にも、折を見て、俺のことを三郎さまに伝えると言っていました」


「そりゃええのう! いや、先代さま(織田信秀)がお亡くなりになってからこっち、三郎さまもずっとご多忙じゃったゆえ、なかなか大橋さまも進言できなかったんじゃろうが……いよいよそなたも認められそうじゃな」


「俺のことより藤吉郎さんですよ。あなたには、もっと出世してもらわないと」


「ははは。言いよる」


 藤吉郎さんは、ニコニコ顔だ。

 かと思うと、ふっと黄昏たような顔をする。


「まったく、わしにこんな日が来るとはの。三郎さまとまたお会いできる日も近そうじゃわ」


 ……また?

 ってことは、藤吉郎さんは、信長と会ったことがあるのか?

 そういえば、藤吉郎さんはなぜ織田家に仕えたんだろうか。

 それがずっと謎だった。


 一瞬、ためらったあと――

 俺はついに尋ねた。


「そもそも藤吉郎さんは、どうして三郎さまにお仕えしたのですか?」


「……うん、そうじゃの。……わしは織田家というより、殿に。……三郎さまに惚れたのよな」


 藤吉郎さんは、語り出した。


 ――かつて、藤吉郎さんが尾張中を放浪していたころ、銭も飯もなく、行き倒れになったことがあった。

 そのとき、うつけとして尾張中を駆け回っていた信長が、藤吉郎さんの前にあらわれ、馬上から餅をいくつか放り投げてきた。


『食え』


 信長は、短く言った。


『許せ。そちのような者を尾張から出してしまったことには、侍に責任がある。侍は領民を生かし、食わせねばならん。それなのに、これだ。侍は度し難い。侍は返す言葉もない。許せ』


 それだけ言うと、去っていったという。


「――そんな昔のこと、殿はもう、覚えてもいないだろうさ。だが、わしは忘れちゃいない。あの日の餅のうまさ。殿がそういう優しみのあるお方だという衝撃。……世の連中は、そうして行き倒れに餅を与える殿のことさえ、うつけと呼んだ。『行き倒れなんぞに声をかけて、餅までくれてやるバカ殿だ』というわけじゃ。冗談じゃない。あんなに慈悲深く、賢い殿様はおらんのじゃぞ。それだというのに、国中から、織田家中からも、うつけうつけと呼ばれて……わしは悔しいわ」


「…………」


「わしは織田家ではなく、三郎さまにお仕えしておるのじゃ。三郎さまの下で働いて、三郎さまに天下を取らせ、日ノ本中に静謐をもたらしたいと思っておる」


 俺は藤吉郎さんの、豊臣秀吉の素顔を見た気がした。

 その、あまりにもまっすぐで純粋な、あこがれと忠誠。織田信長への、恋慕にも似た崇拝。


 だが。

 だからこそ、のちに藤吉郎さんは――

 そう、豊臣秀吉は、織田家の政権を奪い取り、おのれが天下人になるんじゃないか。

 いま、目の前にいる若き秀吉を見ていると、俺はそう思った。

 藤吉郎さんにとって忠誠の対象はきっと、織田信長、ただひとりだったんだろう。


 …………。


 そして、信長が死に、天下統一を成し遂げた藤吉郎さんは、その後――


 なるべく考えまいとしていた未来を、俺はついに想像した。

 その後――天下を取ったその後、藤吉郎さんは……。

 ――鍛冶屋清兵衛さんの孫の加藤清正を使って――




 ……いや。




 ……それは、歴史が史実通りに進んだ場合。

 それにまだ、ずっと後の話だ。


「藤吉郎さん」


「ん?」


「頑張りましょうね。銃刀槍作り」


「おうともさ!」


 藤吉郎さんは、白い歯を見せた。




 その瞳は、澄んでいた。

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