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第五十話 いやな再会

「いよう、弥五郎!」


 藤吉郎さんが、大橋屋敷にやってきた。


「先日は大活躍だったようじゃのう! 知っとるぞ。津島衆の中から率先して飛び出し、銃弾を敵に浴びせかけたそうではないか!」


「いえ俺などは、大したことは」


「わっはっは、ご謙遜、ご謙遜」


 藤吉郎さんは、明朗な声をあげた。


「武器作りに商いに、いくさ働きでも功名を立てるとは大したもんじゃ。この調子でいけば、山田弥五郎の名はきっと天下に鳴り響こう。わしも負けてはおれんのう!」


 藤吉郎さんは、ニコニコ笑っている。

 かと思うと藤吉郎さんは、ふいに真顔になった。


「のう、弥五郎。尾張はこれから荒れる。武器を作ると儲かるぞ。先代さま(織田信秀)が亡くなり、殿(信長)の時代になった。しかし汝も知っての通り、殿はうつけだと評判が高い。鳴海城の連中のように、殿が家督を継承したことに不満を持つものも多いし、隣国の美濃や三河からも敵が攻めてくるかもしれん。だが」


 藤吉郎さんは、ニヤリと笑って言った。


「しかしいまこそ武器商人の儲けどきでもあるはずだで。のう、弥五郎」


「藤吉郎さん。――なんだか楽しそうですね」


「……馬鹿を言え」


 藤吉郎さんは、薄い笑みを浮かべながらも。

 しっかりと、かぶりを振った。


「楽しくはない。戦をすれば人が死ぬ。わしも死ぬかもしれん。断じて楽しくはない。だが」


「だが?」


「こんな乱世だからこそ、わしは身を立てる機会がある。……そうも思うのだ。世が乱れなければ、わしのような男は一生、地べたを這って砂を舐める、そんな人生しか送れぬからな」


「…………」


「醜いことじゃ。わしは人が死ぬことは嫌いだし、戦なんぞも嫌っておる。しかしそんな気持ちと裏腹に、乱世を望む心もあるのだ。どっちがマコトのわしかのう」


「……その気持ち。少しだけ、分かる気がします」


 ややあって。

 藤吉郎さんは、また別の話題を出した。


「ところで弥五郎。あの連装銃とやら、わしも小六兄ィのところで撃たせてもらったんじゃが。……あの銃、欠点があるのう」


「欠点」


「うん。あの銃は、仕組みや威力は面白いのじゃが、弾を撃つと反動が強い。何度も使うと、腕や肩にきっと負担がくるじゃろう。それにとにかく重たいし、その上、銃に熟練した者でなければ使いこなせぬ。そう見たが」


「……確かに。おっしゃる通りです」


 実際、そうなのだ。

 威力の高い銃とは、基本的に大量の火薬で重い弾丸を発射する、という仕組みなので、当然その分、弾丸を発射するときの反動も大きくなる。連装銃は3発の弾を撃てる分、反動も通常の銃の3倍だ。


「そこでじゃ、弥五郎。ここで提案なんじゃが、別の銃は作れぬか? 連装銃はもちろん、普通の火縄銃よりももっと使いやすい銃。あるいは、重量が軽い銃じゃ。そういうものを作ってまた大橋さまに売りこめば、津島衆、ひいては織田家の戦力増強にも繋がる。そうは思わんか?」


「……確かにそうです」


 使いやすい銃か。火縄銃よりもより使いやすい、銃。

 漠然とした表現だが……しかし使いやすい銃があれば、便利だろうな。

 思案にふける。すると藤吉郎さんは、ニヤリと笑った。


「創作意欲が湧いてきたようじゃな。頼むで、弥五郎。作ってみてくれ」


「そうですね。そういう銃があれば、俺がいずれシガル衆と戦うときにも役立つと思いますし」


 ――と。俺と藤吉郎さんが話していたそのときだ。


「がっはっは!!」


 と、大声が聞こえてきた。

 あまり品があるとはいえない、馬鹿でかい声だ。誰だ、いったい?

 声のしたほうへ目を向けると、そこには屋敷の主人である大橋さんと――


 げっ!?


 俺は目を疑った。

 まだ父ちゃんが生きていたころ、炭販売で争ったあの商人。

 なまず屋長兵衛がそこにおり、大橋さんとしゃべりながらこちらへ歩いてきているのだ。


「いやァ、大橋さまとお会いできて愉快、愉快。なにとぞ、このなまず屋が津島に出店できるよう、お計らいくださいませ――」


 と、ニコニコ顔のなまず屋だったが――

 しかし彼は俺を見た瞬間、はっと顔色を変えた。


「……お前は……そうだ、間違いない。大樹村の小僧ではないかッ……!?」


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