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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第一部 黄金立志編(1551~1553)

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第四十九話 大橋家の居候

 津島の大橋屋敷。

 その縁側に座っている俺がいる。

 目の前には、庭園が広がっていた。

 この景色を、すでに何日も眺めている。

 時間が必要だった。青山さんが死んだことについて、心の整理をつける月日が。


 自分の作った武器で、人が死んだ。

 いや青山さんだけじゃない。見知らぬ誰かも、いっぱい死んだことだろう。

 罪悪感を感じる。俺が転生していなければ、死ななかったかもしれない人たちだ。


 頭では、ああだこうだと割り切ることができる。理屈など、どうとでもつけられる。

 例え誰かを傷付け、ときには死に追いやってでも、自分と家族と仲間を守るために、戦い続ける。それが戦国時代だ。いや、21世紀の日本においても、それは大きく変わらない。形は違えど、みんな、誰かを蹴落とし、追い詰め、叩きのめして、自分が勝者にならんとしている。生きるとはそういうことなのだ。

 しかし心は、そんなに単純じゃない。……割り切れない。


 そのとき、ガタッ、と音がした。――振り返る。

 すると、そこにいたのはカンナだった。


「カンナ。……どうした?」


「あ、うん。いや。……ただ、ちょっといっしょにおりたくなったけんさ」


「……いっしょ?」


「うん。いけん?」


「いや、そんなことはないけど」


「…………」


 カンナは、俺の横にちょこんと座った。

 出会ったときより、少しだけ年が長け、大人びた雰囲気になった彼女。

 長い金髪をサラサラに揺らしながら、じっと地面を見つめている。

 カンナは黙っている。なにも言わない。俺も、しゃべらなかった。


 ――ややあって。

 彼女は朱色のくちびるを、静かに開いた。


「忘れんといてね」


「え」


「弥五郎のおかげで、生き延びた人も、ちゃんとおるってこと」


「…………」


「あたしは弥五郎がおらんかったら、死んどったかもしれん。ううん、あたしだけやないよ。滝川さんだって、海老原村の人たちだって、和田さんだって、弥五郎のおかげで助かったり、幸せになったりしとる。今回のことだって……逆に、弥五郎のおかげで助かった人だってきっとおるよ。例えば津島衆に死人が出らんかったのは弥五郎のおかげかもしれんやろ?」


「…………」


「やからさ、その」


 カンナは、ちょっとだけ次の言葉に迷ったように、視線をさまよわせてから、


「……元気、出しんしゃい」


 優しさを讃えた美しい笑みで、俺のことを励ましてくれた。


「ありがとう」


 俺は、小さな声で告げた。


「……俺、カンナに会えてよかったよ」


「な。……ま、真顔でそういうこと言わんといてよ! 照れるやん! 恥ずかしいやん、もう!!」


「…………」


「…………。……あたしもよ、弥五郎」


 あとはカンナはなにも言わず、ただ横にいてくれた。

 それだけで、充分嬉しかった。




 また少しの時間が流れた。

 その間、俺とカンナと聖徳太子たちは、大橋屋敷の一室に暮らしている。

 いや、『その間』どころか、これからもしばらくはこの屋敷に居候することになった。


 理由はいくつかある。

 ひとつは、俺たちの持ち金がさすがに大金になりすぎたこと。不特定多数の人間が出入りする『もちづきや』にお金や道具を置くのは不用心になってきたので、大橋さんから屋敷に来たほうがいいとすすめられたのだ。

 次に、先の戦いで、俺たちは津島衆の客分として共に戦った。そのお礼という意味もあるらしい。食事と住居を提供するのが、大橋さん流の謝礼なのだ。


 ――三郎さまより、お褒めのことばをいただいた。赤塚の戦いにおいては、津島衆の功績大である、と。


 と、大橋さんは言っていた。


 ――折を見て、そなたのことも、三郎さまに進言するつもりじゃ。


 とも、言ってくれた。

 いま、信長は忙しい。

 父親の死、荒れる尾張。

 その尾張をどうにかするべく、動き回っているとのことだ。

 だから、まだ俺の存在を信長は知らないらしい。――しかし、彼と出会う日もそう遠くないかもしれない。


 ともあれ、こうして俺たちは大橋屋敷に居候しているというわけだ。

 まあ、これは俺たちにとってもメリットがある。大橋さんや小六さんといろいろ相談をするのが便利だし、宿代も食費もかからないからな。


『もちづきや』を離れることについては、あかりちゃんやおさとさんは寂しがっていたけれど、同じ津島なので、外を歩くと当然顔を合わせることもある。ときには一緒に食事をしたりもする。あかりちゃんは、滝川さんのことを気にかけていたけれど、あの人、元気かなあ。今度、手紙でも書いてみよう。




 ――さて、そんな日々を送っていたある日のことだ。


「いよう、弥五郎!」


 と、藤吉郎さんが大橋屋敷にやってきたのだ。

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