第四十一話 新しい仕事
「その青山って侍のこと、知っとるんか? 清おじ」
「知っておるよ。鳴海城に仕える真面目な若侍だ。誠実な男じゃよ」
「だけど、大橋つぁん。誠実な侍はニセ金を使わねえだろう」
「……うむ、そこが解せん。なぜ青山はニセ金を使って、弥五郎少年に武器を作らせたのか?」
小六さん、大橋さん、そして藤吉郎さんがうーんと考え込む。
と、そのときカンナが尋ねてきた。
「ねえ、弥五郎。鳴海城って、どこのお城なん?」
「ん? ああ、尾張の南部にある城だ」
俺は解説する。
「熱田よりも、もっと南東のほうにあるんだよ。山口氏の治める城で、この時期は、織田弾正忠信秀の傘下に入っているはずだ。もっとも今年の春には織田家の敵、今川家へと寝返るんだけど」
と、口に出して――
言った瞬間、やらかしたと気が付いた。
藤吉郎さんたちが、さっと顔色を変える。
「や、弥五郎。汝ァ、なんで鳴海城が寝返るって分かるんじゃ?」
「え。あ、いや。その。そうじゃないかなー、と思っただけで。は、ははは……はは……」
「そういえば最近、鳴海城の連中が、兵糧をよう買い集めておったようじゃ。熱田では米の相場もずいぶんと上がっておった」
「鳴海から近いのは熱田だからな。……いや、しかしまさか……本当に今川へと寝返るつもりか、あいつら!? 鳴海城の青山聖之介は、寝返るために武器作りを山田弥五郎に依頼したってことか!? それなら確かに筋は通る……!!」
藤吉郎さんたちは、驚いた顔で次々としゃべる。
隣のカンナまで「弥五郎、よう寝返るとか分かったね……」なんて、ビビった顔を見せている。
あ、いや、うん、未来人なんで。分かったんじゃなくて知ってたんで。
しかし危ねえ、危ねえ。久々のうっかりミスだ。気をつけないと。
「鳴海城の裏切り。これについての証拠はない」
と、大橋さんが言った。
「ないが、うさんくさいのも事実だのう。……この件、わたくしから三郎さま(織田信長)に申し上げておこう。……もっとも三郎さまはああいうお方でおわすゆえ、どこまでわたくしの意見を聞いてくださるか分からぬが」
「なにせ大うつけだからなあ。……鳴海城が寝返ろうとするのも分かる気がするぜ。織田弾正忠さまはご病気、その跡継ぎがうつけ者ってんじゃな」
大橋さんと小六さんは、ぼやくように言った。
ふたりは織田三郎信長に対して、あまり良い印象を抱いていないようだ。
この時期の信長、本当に評判が悪いな。
そんなふたりに対して、藤吉郎さんは苦笑を浮かべた。
「そこまでうつけでもねえと思うんだがなあ、若殿様は……」
「おう、そうだった。猿は三郎さまの下で働いているんだったな。こりゃ失言」
小六さんは素直に謝罪する。
藤吉郎さんは、困り笑みを浮かべた。
……うーん、前にも思ったけど、藤吉郎さんはなんでいまの時期の織田信長に仕えているんだ?
なにかあったのかな。今度、機会があったら聞いてみよう。
ところでそのとき、カンナがふと声をあげた。
「あのさ、弥五郎。それで、青山さんから依頼された連装銃の仕事はどうするとね?」
「あのひとの黄金はニセ金だった。そんなひとの依頼は聞けないよ」
「そう。……それもそうやね。……青山さんはいいひとに見えたんやけどね」
「うん。俺もそう思ったんだけどな……」
青山聖之介のさわやかな笑みを思い出す。
人を見た目で判断してはいけない、と言う。
それについては、その通りなんだが……。
「大きな取引になりそうやったのにね」
「その件だが」
と、大橋さんが口を開く。
「どうじゃ、弥五郎少年。そなた、武器を津島衆のために作ってみてくれぬか」
「え。津島のために!?」
「うむ。鳴海城が本当に寝返るのであれば、織田家に属する津島衆にも強力な武器が必要となる。……ま、それでなくとも新しい武器は欲しいがのう。先ほど見せてくれた早合に、話に登場した連装銃。両方とも面白い武器じゃ。作ってくれたらその分、このわたくしが買い上げよう」
「ほ、本当ですか!?」
「二言はない。……ほ、ほ、ほ」
大橋さんは、甲高い笑い声をあげた。
「早合は1発360文で売っていたというから、その値段で。連装銃は――ふつうの鉄砲が90貫じゃからな。3発の弾が撃てる鉄砲ならば、単純にその3倍。270貫で買い上げるというのは、どうかな?」
「そ、そんなに高く……!」
「もちろん、それだけの金を出すに値する武器だと、わたくしが認めればの話だが……」
「できますっ! うちの弥五郎はきっと大橋さまの期待に応えますけん!」
「ほ。……ほ、ほ、ほ。ではこの可愛らしい娘さんの言葉を信じて、武器を待とうぞ」
「へへっ、ずいぶんと惚れ込まれてるなあ、山田弥五郎? まだ女房にはしてないのか? さっさとしちまえよ、おい」
「な、なんば言いよっとですか。あたしと弥五郎はそんなんじゃ――好かーん、もう!」
カンナは顔を赤くして、プイッとそっぽを向いてしまった。
俺はリアクションに困って、とりあえず愛想笑いを浮かべたのだが……。
とにかく、大金を得られるチャンスがきたようだ。
津島の大橋家ならお金はたくさん持っている。
このひとに武器を売ればきっと儲かるぞ。この機会は必ず活かす。
俺の記憶によれば、あと2か月半で、鳴海城の山口教吉と織田信長の戦いが始まるはずなんだ。
『赤塚の戦い』と呼ばれている戦いだ。その戦いに間に合うように武器や道具を作る。
そしてその戦いで俺の武器が活躍すれば、俺の評価は上がるだろうし、金だって手に入るはずだ。
よし、やるぞ。やってみせる!
――だけどそれにしても、青山さん。
あのひとが鳴海城の侍で、しかもニセ金を使うなんてなあ……。
本当に、俺たちを騙すつもりだったのかな?
そうだとしたら、残念だよ。
《山田弥五郎俊明 銭 18貫971文》
<最終目標 5000貫を貯める>
<直近目標 津島衆に武器を売る>
商品 ・火縄銃 1
・炭 11
・早合 1
・小型土鍋 1
・黄鉄鉱 1




