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第三十六話 青山の依頼

 俺は、青山聖之介の見せた金塊に目を奪われた。


「こ、こ、こんなもの。……い、いいんですか?」


「もちろんです。本当に素晴らしい武器ならば、このくらいは安いものです」


「そ、そういうことなら……ぜひ、お引き受けします!」


「引き受けてくださいますか。いやあ、よかった」


 青山さんは、沁みるような笑顔を浮かべた。

 実に、さわやかな笑い方をするひとだ。いいひとだな、と思った。

 自分よりも明らかに年下の俺(少なくともいまの俺は満年齢12歳の少年だ)に対して、ずっと丁寧な話し方をしてくれているし。これはなかなかできることじゃない。


「それでは山田どの。半月後までに、貴殿の考える武器の、試作品だけでも見せていただきたいのですが」


「分かりました。では半月後に、またここに来てくださいますか」


「はい。新しい武器、楽しみにしております」


 青山さんは、そう言ってから立ち去った。

 俺たちはそれから宿に入る。

 荷物を置きながら、俺はとにかくニコニコ顔だった。


「いや、でかい仕事がきたな! あの金塊、見たか?」


「見たッス、見たッス。ありゃすごいッスねえ」


「ほんとよね! ……あ、でもさ。あのひと、どこの御家中のお侍さんなんやろう?」


「え? ……あ、そういえば」


 聞くのを忘れていた。

 たぶん尾張のどこかのお城に仕えているひとじゃないかと思うけど。


「次に会ったときに聞いてみるよ。それよりも具体的にどうするか。町を歩きながら考えよう」




 俺たちは、津島の町を練り歩く。

 港までおもむくと、船が停泊し、大量の積み荷が下ろされていた。

 さすが物流の拠点、津島だ。いろんなもので溢れている。ふと見ると、港には侍が何人かいて、積み荷をひとつひとつチェックしていた。

 次郎兵衛は、何度かまばたきをして、小首をかしげる。


「ありゃ、どこの侍だ? なにをしてるんスかね」


「織田家の侍だろう。津島を支配しているのは織田弾正忠家だからな。積み荷を調べているのは――あれも織田家の強さの理由のひとつさ」


「……? アニキ、どういうことッスか?」


「つまりさ、津島は物流の拠点だろ? この港町から、尾張はもちろん、美濃や飛騨、さらには伊勢や近江や三河のほうにまで、物資が運ばれていくわけだ。その量や内訳が分かれば、他国の様子がすぐに分かるってことさ。……例えば美濃のある豪族に刀や鉄砲が運ばれていけば、その豪族は戦の準備をしていると分かるし、あるいは三河のある勢力に米や味噌が運ばれていけば、その勢力は兵糧の準備をしている、籠城戦に強くなるなと分かるんだ。……物流の拠点を抑えるってことは、他勢力の動きを読みやすくなるってことでもあるのさ」


「な、なるほど! さすがアニキ! 勉強になるッス!」


「もちろん、物流がすべてじゃないけどね。そういう見方もあるってことだよ」


 そして、津島はもともと栄えた港町だったけど、それをさらに栄えさせた織田信秀の手腕も見事ってことだ。

 ほんと賑やかだもんな、この町。

 そう思いながら、ふと、近くの商店を見る。


 店先に鉄砲が置かれていた。

 ピカピカで、かなり品質の良い鉄砲だとみて分かった。

 が、値札には90貫とある。……高っ。とても手が出ない価格だ。


 と思ったら、商店には、ガタガタに壊れかけた、しかも汚い鉄砲も並べられていた。

 こちらはひとつ、たったの10貫。とはいえ、10貫もけっこう高いんだけど。


「あんな鉄砲でも、10貫になるんやねー」


「鉄そのものが貴重だからなあ」


 俺ならこんな鉄砲でも、手入れすれば使えるようにできると思う。

 壊れかけの鉄砲もあるけれど、そこはなんとかできる。

 まあ問題は、手入れする道具がないことなんだが。

 鉄砲鍛冶の知り合いもいないし、鍛冶関係の道具だって、いくら津島や熱田が賑わっているといってもそうそう一式は揃うまいが――


「……ん? いや、でも待てよ」


 ふと思いついたアイデアがあった。

 こういうボロボロの鉄砲でも、購入して、うまく使えば――あるいは……!




 半月後。

 青山さんは約束通り『もちづきや』へとやってきた。


「新しい武器の試作品は、できておりますか?」


 宿の中の部屋で、青山さんと会う。

 彼の言葉に、俺はコクリとうなずいた。

 そして、かたわらのカンナから『それ』を受け取ると、青山さんに見せる――


「これは……火縄銃でございますか? それも、ずいぶんと古くてボロボロですが――こ、こんな銃が新しい武器!? 山田どの、どういうことですか!」

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