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第二十七話 以後、お見知りおきを

「撃つぞ、山田!」


 滝川さんが銃を構える。

 しかし、遅かった。


 イノシシは、なんとあかりちゃんのほうへと突っ走っていく。

 俺たち、イノシシ、あかりちゃんが一直線に並ぶ形となった。


 まずい。位置的に、ここで発砲してもイノシシの尻にしか弾は当たらない。

 それで殺せるか? しかもしくじったらあかりちゃんに当たるかもしれない……!

 滝川さんも、その事実に気付いたらしい。「ちっ」と激しく舌打ちする。

 どうする? 一か八か、弾を撃つか――

 そのときだ。


「危ないっっ!!」


 カンナが、あかりちゃんに向かってその肉体を飛び込ませた。

 その結果――間一髪! 直前まであかりちゃんがいた空間を、イノシシが切り裂いていく。

 カンナとあかりちゃんは、ふたりで抱き合ったかっこうで地べたに転げまわっている。

 カンナ。……あかりちゃんを助けたのか!


「いいぞ、カンナ!」


「山田、今度こそ撃つぞ!」


「はい!!」


 俺と滝川さんは、揃って銃を構える。

 イノシシは、少し走ったところでストップし、身を翻そうとしている。

 いまがチャンスだ。逃しはしない!


 敵はイノシシ。

 人間とは違う。

 だから、撃つときにはコツがいる。


 ――走りものを射るときは、頭より七八寸先を放つべし。


『稲富流伝書』にある狩猟についての一文だ。

 叔父さんに読まされたときは、役立つときがあるのかって思っていたけど。

 ……読んどくもんだな!



 ――だ、だぁぁぁん!!



 俺と滝川さんが同時に鉄砲を撃った。

 すると撃ちはなった弾丸が、イノシシの眉間に届き。


「びゅっ――」


 イノシシは、息だか声だか妙なうめきを一瞬だけあげ。

 そして――その場に、ぶっ倒れた。


 俺と滝川さんが構えた鉄砲。

 その銃口から、火薬のにおいが漂っている。


「……やったな、山田」


「……手応えアリです」


 俺と滝川さんは、笑みを向け合った。


「見事だったな、山田」


「滝川さんこそ。……二日酔いだっていうのにお見事です」


「ふん。……まあな」


 滝川さんは、さらにニヤリと口角を上げた。


「や、やった。……やったあ! すごーい!!」


「やったやん! あはは、やったあ! ばりすごかっ、弥五郎!」


 あかりちゃんとカンナが、はしゃぎ回る。

 カンナはよほどテンションが上がっているんだろう。

 俺以外の人間がいるのに博多弁だ。


 そして。


「や、やったか。イノシシを倒したか。さすがは滝川さま。そ、それに――」


 八兵衛翁は、俺のほうをチラチラ見ながら――

 やはり腰を抜かしているのか、うまく起き上がれないようだ。

 俺はそんな八兵衛翁に近付いて、手を差し伸べつつ、


「弥五郎です。山田弥五郎。……以後、お見知りおきを」


 滝川さんをちょっとマネて、ニヤリと笑ったものである。



次回、また戦国武将出てきます。

鉄砲といえば、なお方。

有名な方……。

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