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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第一部 黄金立志編(1551~1553)

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第十七話 大樹村の悲劇

 殺戮が、展開されていた。

 阿鼻叫喚あびきょうかん地獄絵図じごくえず狂瀾怒濤きょうらんどとう

 ――とにかく眼前の光景は凄絶すぎた。


 荒れ狂う嵐の如くである。

 シガル衆の連中が、次から次へと血刀をふるい、村人たちを殺害し、いたぶり回し、火をつけてゆき、金品や食料を強奪している。

 俺は目の前の現実が信じられず、思わずくちびるを震わせ、もう少し経ってから歯を鳴らした。

 弥五郎として12年余りを暮らした、大樹村が燃えている。生まれ故郷が滅びの危機を迎えている。


「く、くそ――」


「馬鹿、出ていくな……!」


 茂みから飛び出そうとした俺を、藤吉郎さんが必死になって抑え込んだ。


「気持ちは分かる。だが、こらえよ。汝まで死ぬぞ」


「だ、だけど、このままじゃ、父ちゃんが、母ちゃんが。伊与が。……みんなが!」


「それでも、こらえよ。こらえるしかない……!」


 く、くそっ。こらえるしかない? 本当にそうするしかないのかよ!?

 くそ、くそ、くそ、くそおおおお……!!


 怒りに震える俺を、藤吉郎さんが必死に制止する。

 一晩中、夜が明けるまでそれは続いた。


 すなわち。

 ……地獄は夜を徹して続いたのだ。




 何時間が経っただろう。

 東の空がわずかに白ばみはじめたころ、殺戮者のひとりが、


無明むみょう様」


 と、シガル衆の中でもひときわ大きな男に声をかけた。

 乱髪を束ね、肌が浅黒く焼けている人物だ。

 無明と呼ばれたその男が、どうやら首領らしい。


「もはや、殺すやつも分捕るものもありませんぜ」


「そうか、そろそろ、引き上げ時か」


 無明と呼ばれた大男は、ニヤリと邪悪に微笑んだ。


「この村のやつらも、ずいぶんと頑張ったがな」


「無明様の采配のおかげで、今回は我らの勝利ですぜ」


「あの妙な弾を撃つ小僧もいなかったしな」


 げらげらげら、とシガル衆が笑う……。


 無明と呼ばれている男は、前回はいなかった。

 そうか、今回はシガル衆の頭目が直に采配を振ったってわけか。

 村のみんなも前のとき同様、必死に戦ったんだろう。

 だがリーダーがみずから来ては、勝ち目はなかったに違いない。


 ……無明。

 その顔、その声、その名前、その風体。 

 俺はおそらく、やつのすべてを生涯忘れないだろう。


「それでは帰るぞ、お前たち。……今夜は収穫だった!」


「「「おおーっ!」」」


 シガル衆は勝ちどきをあげながら、大樹村を去っていった。

 俺と藤吉郎さんは、ふたりでなお、草むらの中に隠れ続けた。




 焼け跡となった大樹村。

 俺たちがその村跡を静かに歩きだしたのは、シガル衆が立ち去ってから数分後のことだった。


「こいつは……ひどいの」


 藤吉郎さんは、眉をひそめて集落の中を見回していく。

 俺はただ、呆然と立ち尽くすのみである。

 ちょっと前まで、みんな元気に生きていたのに。……それがどうして。

 いまさらながら、自分がやってきた世界が乱世なのだと気づかされる。


「――そうだ、父ちゃん。母ちゃん。伊与!」


 俺は慌てて、自分の家へと駆けていく。

 家はほとんど黒焦げで、柱組みだけが残っていた。

 ――そして。 


「……あ」


「どうじゃ、弥五郎。……む」


「あ、あ、あ」


 体中から力が抜け落ちた。

 ……生きる力そのものが、抜けていくようだった。


「おとうちゃん、おかあちゃん」


 死体がふたつ。ゴミのように転がっていた。

 衣服を剥がれ、全身をずたずたに切り裂かれてはいるものの、間違いなく母だと分かる遺体。

 槍で突かれまくった、突き傷だらけの――首が半分切断されている男の遺体。父である。


「うぁ――うああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」


 咆哮が、暁の空にむなしく響いた。











次回が主人公幼少編の、最終回です。



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