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戦国商人立志伝 ~転生したのでチートな武器提供や交易の儲けで成り上がる~  作者: 須崎正太郎
第三部 桶狭間激闘編(1559~1560)

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第八話 ポルトガル、マカオに居留地を獲得する

 その女性、玉香ゆーしゃん――

 彼女はかつて、九州に何度も来航していた明国の商人であり、カンナとは幼いころ、何度も遊んだ仲だったらしい。


「まさかこんなところで会えるとは思わんかったねえ! 何年ぶりかいな!?」


「9年……ってところかしら? 相変わらずきれいな金髪ね! ――あれ? ところでカンナ、そちらの方は」


「あ、うん。……えへへ。こっちの人はね、山田弥五郎……。あたしの、婚約者」


「婚約者! 夫婦になる約束をしているのね!? おめでとう! ……はじめまして、山田サン。ワタシ、カンナの友達の玉香ゆーしゃんね。……ああ、あのカンナが婚姻だなんて! そうね、ワタシたちも、もうそんな年齢としだものね。ううん、むしろ遅すぎるくらい……」


玉香ゆーしゃんは、まだそういう相手はおらんと?」


「まあいるといえばいるんだけど、なかなか進展はなくてね。商売のほうが忙しいし、それに楽しくてね!」


「ずいぶん儲かっとうごたあね。なによりたい。あんたんところは、お茶をよう商いよったけど、いまでもしよると?」


「ああ、お茶もいいけどね、いま特に儲かるのはやっぱりこれやね」


 そう言って、彼女が背後に積んであった箱、その蓋を開ける。

 その中に大量に積んであったのは――


「これは――硝石か」


「お、山田サン。よう一目で分かったね!」


「そりゃ、弥五郎はこの手のことについてはバケモノみたいに詳しかもん」


「バケモノはよせよ。もう少し褒め方があるだろ……」


「あはは、ごめんごめん、天才。弥五郎は天才ばい。これでよかろっ? ふふっ……」


 カンナはなぜか、照れたみたいに笑いながら俺を賞賛してくる。

 そんな彼女のセリフを聞いて、玉香は肩をすくめた。……いまの会話に、なんか照れたり肩をすくめるところあったか? よく分からん……。


 ともあれ。

 俺たちも火薬系の武器や道具を作るとき、あるいは鉄砲を撃つときに必要とする硝石。

 これは日本ではほとんど製造・産出できない。そのため、この時期の日本人中国内陸部や東南アジアのほうから輸入していた。そういうことだから、国内に流通している硝石の価格は恐ろしく高い。売れば確かに儲かる品だ。


「日本に入ってくる硝石の量、どんどん増えているのか?」


「そりゃもう。日本国内の争いが、盛んになればなるほど硝石の需要は高まる。そうなれば明国人としては硝石をどんどん日本に売る。儲かるんだから当然よね」


「…………」


 明では硝石は、日本よりもずっと安い価格で作られているはずだ。

 その安い硝石を、日本に運んで売って儲ける、か。

 日本国内で戦争が続けば続くほど、明国人は儲かるってわけだな。


「儲かってるのは明国人だけじゃないわよ、山田サン。ポルトガル人もそう。東南アジアの硝石を、明のマカオまで運んできてね、そこからさらに日本に運んで儲けているわ」


「…………」


 玉香の言うことは、事実だ。

 いまより2年前、すなわち1557年、ポルトガルは明王朝から、マカオの永久居留権を獲得している。

 その理由は、明国沿岸部の海賊――倭寇わこうを討伐するのに協力したから、とされているが、さてそれだけなのかどうか。この時期、一部のポルトガル商人が明王朝の高級官僚に多額の賄賂を贈ったという話もある。


 なんにせよ。

 ポルトガル人が――すなわち西洋人が、すでにこの時期、東洋において、海賊を倒すのに協力できるほどの軍事力と、居留権を獲得できるほどの商業力を有していたのは事実だ。


「…………」


「どうしたん? 弥五郎、怖い顔をして」


「いや……」


 俺はふと、思い出していた。

 シガル衆や熱田の銭巫女、織田信勝らとの戦いで、俺はさんざん火薬や鉄砲を用いて戦った。

 しかしそれをやればやるほど、儲かっていたのは、誰でもない、明国の商人やポルトガル人なのだという事実。

 日本人同士が血を流し合い、奪い合い、傷つけ合えば合うほど、しかし他の人間が裕福になるという現実。


 もっとも、それは俺も同じか。

 鉄砲だの炮烙玉なのを売りまくって、儲けているわけだから。阿漕あこぎなことだ。


 しかし……。

 やはりこれは、どこかで絶たねばならない流れだ、とも思う。

 何年、何十年の年月がかかろうとも。そのためには日本に強力な統一政権を作らねばならない。


 それを為しえる織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の三英傑に、俺は協力するのだ。力を貸しているのだ……。




 と、考えをまとめていたそのときだ。




「ユーシャン!」


 やたらさわやかな声が聞こえた。

 振り返ると、そこには――赤毛の若い男がひとり。どう見ても西洋人だった。


「レオン!」


 玉香は、やってきた彼に笑顔を向ける。

 そしてふたりは、人目もはばからず――いきなり抱き合い、その場で接吻し――って、えええ!?


「ゆ、ゆうー、しゃん……?」


 カンナさえ、絶句している。そりゃそうだ。

 あんた、人前でチュウって。いや21世紀ではなくもない光景だが、この時代の日本ではまず見ない。

 そもそも都会ならまだ知らず、ちょっと田舎に行けば、屋外で成人男女が喋っているだけで白眼視されることもある時代だ。それなのに――ああ、案の定、通行人たちが「これだから南蛮人は」と吐き捨てるようなセリフを言っているのが聞こえる。


「カンナ、山田サン。この人、ポルトガル人のレオンね。ワタシのいいひと。うふ」


「レオン、デス。うcmをもf84jf0wj9kヴぉjs」


 すまん、なにを言っているのかさっぱり分からん。

 たぶんポルトガル語であいさつしたんだろうけど。


「ど、ドーモ、山田、デス」


「か、カンナ、デス。……あはは……」


 俺とカンナは、とりあえず引きつった笑みを浮かべ――

 なんだかよく分からないあいさつをしたのであった。




 玉香とレオンとは、その後1時間ほど話し込んでから別れた。


「ときどき堺に来ているわ。また会えるといいわね」


「余裕があったら、津島にも来んしゃい。あそこの殿様、織田上総介さまは南蛮文化に興味をもっとるけん、きっと歓迎してくれるばい」


「vsm9いlgpkc、94skfs、40jg8sjs;l。、gmじょ!!」


「あ、くれるんですか。ど、どうも……」


 レオンは、俺に銀でできた十字架をいくつかくれた。

 けっこうな品物だ。銀として売ってもいいが、工芸品としても価値があるだろう。

 俺ひとりで独占するのもあれだな。尾張に戻ったら信長に献上してみよう。


 さて、そういうわけで俺とカンナは玉香たちと別れ、宿へと戻ることにした。

 ポルトガルや明の事情も知ったし、人脈も広がり、十字架も手に入れた。

 まずまず、有意義な時間だったといえる。


「玉香、きれいな子やったろ?」


 帰る途中、カンナが言った。


「ああ、美人だったな」


「子供のころからああやったとよ~。あの黒髪があたしは羨ましくて羨ましくて! 交換してくれ~って何度も言ったんよ」


「はは、髪を交換は無理だなあ……」


 人気のない裏路地を、歩く。

 西日が射し込んできて、世界は朱色に染まっていた。


「……玉香にもいいひとができたんやねえ」


 カンナはぽつりと、そんなことを言った。


「レオンさん、だっけ。まさか西洋の人とくっつくとはね~……」


「うん、グローバルだよなあ」


「ぐろうばる? なん、それ」


「あ、ああ。……ええと、つまり、世界を又にかけている感じ、というか」


「……また弥五郎語やね。あんた、本当にときどきわけの分からん言葉使うよね~……」


 ふたりで、夕焼けの世界の中を歩く。

 歩きながら、突然、カンナが言った。


「あたしにも、してよ」


「……ん? なにを」


「あれ」


「あれ?」


「口吸い」


 ぴた、と足が止まった。

 カンナも、止まる。


 口吸い。

 とは、つまり先ほど、レオンと玉香はやったアレ。すなわちキスのことだ。


「……カンナ、なにを……」


「なにをって……口吸いは口吸いやろうもん。……あたしと弥五郎って、婚姻の約束ば、しとるんやろ? やったらそれくらい、してくれてもいいやん」


「…………それは……だけど……」


「嫌なん? ……」


「いや、そんなことは」


「やったら、ほら」


 カンナは、周囲に人目がないことを確認してから、俺に近づいてくる。

 目を、つぶっている。彼女の整った顔立ちが、白い肌が、肉厚のくちびるが、すべて俺の眼前にあった。


「…………」


「…………」


「…………」


「はよ、してよ……」


「…………うん」


「嫌じゃ、ないんやろ……?」


「…………ああ」


 なぜ、この状況で、こんなにも俺はためらっているのか。

 伊与のことか。違う。カンナとの関係は彼女だって承認済みだ。

 それに俺だって、カンナのことは好きだ。だから躊躇する必要は微塵もない。……ないんだ。


「…………」


 俺は、彼女の肩をつかんだ。

 思った以上に小さな身体を、こちらへ抱き寄せて――


「――――」


「――――」


 その行為が、終わった。


「……えへ」


 カンナは、頬を真っ赤に染めながら、はにかんだ顔を見せる。


「ちゃんと、してくれた」


「……当たり前だろ」


「ん。……もししてくれんかったら、怒るところやった」


「怒るって……なんで」


「女に恥ばかかせるな、ってことたい。……でもしてくれたけん、よか」


「…………」


「弥五郎」


「ん?」


「大好き」


 夕焼けの中。

 彼女の金髪はキラキラと輝いていた。




 俺はなにをためらっていたんだ。

 いつだってそうだ。なにをビクビクしているんだ。

 何年も前に伊与とカンナから愛の告白を受けておきながら、それでも前に向かって進めない自分。


 自分に自信がないのか? ……それもあるけど、そんなもの……カンナもいつか、温泉で言っていたじゃないか。自信がないなんて、そんなことは言うな、と。伊与もカンナも藤吉郎さんも、俺のことを信じているから、大好きだから一緒にいるんだ、と。そういうことを言うのは相手に失礼だと。


 本当にその通りなんだ。

 みんなが、特に伊与やカンナが俺を愛してくれているのは、もう疑いようがないんだ。

 だから俺も、愛情をもってそれに応えてやればいい。それだけなのに。それが分かっているのに――


 俺は……

 自分が幸せになることを、なぜこんなにも恐れている……?




 堺での滞在はやがて終わった。

 信長から、購入するように依頼されたものを買い、再び尾張へと戻っていく。


 途中、甲賀にも立ち寄った。

 和田惟政さんと面会し、藤吉郎さんと和田さんを引き合わせる。

 和田さんは、俺たちを歓迎して「甲賀の里でしばらく休んでいくといい」と言ってくれた。

 お言葉に甘えて、俺たちはしばらく甲賀に逗留し、旅の疲れを取ったのだ。


「六角氏の動きも、よくよく見ておくことですな」


 和田さんは、俺と藤吉郎さんに向けて言った。


「六角氏を……?」


 それは、南近江を支配している戦国大名のことだ。


「六角氏は、織田家の動きを知りたがっていた。まあ無理もない。尾張の大うつけと言われた織田上総介が、弟の織田信勝を破り、さらに最近は、岩倉織田氏も下したという」


 事実だった。

 俺たちが堺にいる間、織田信長は、尾張・岩倉城の織田信賢を攻撃。

 岩倉城は落城し、織田信賢は逃亡して行方不明となったのだ(なお信賢はその後の行方がついに知れない。一説には、のちに土佐国主となった山内一豊に保護されたという説も)。


 こうして、尾張は織田信長のものとなった。

 かつて尾張国の守護リーダーだった斯波氏は、すでに完全に実権を失った。

 そして守護代ふくリーダーだった織田信友と織田信賢は、両方とも織田信長に倒された。


 さらに信長は、足利義輝に拝謁して、尾張守護職として認められた。

 あくまで義輝が認めただけであり、朝廷から認められたものではないのだが、しかしそれでも将軍家から認められたのは大きかった。


 ここで名実共に、織田信長は尾張の君主になったといえる。

 家督継承から8年。かつて国中から『うつけ(馬鹿者)』と言われた男の、しかし見事な手並みであった。


「織田上総介殿も、もはやうつけではない。近隣から恐れられ始めている。あの武田晴信も、織田上総介殿の動向をしきりに探っているという」


「武田晴信も……」


 俺と藤吉郎さんは、顔を見合わせた。


「これからますます、織田家の戦いは熾烈になりますぞ。山田うじも、木下うじも、とにかくお気をつけあれ」


 和田さんは、目を光らせて言った。


「人間、死ぬときはあっという間ですからな」


 その言葉に、俺は深々とうなずいた。

 本当、あっという間なんだよな。……なにせこちとら、経験済みさ。




 さて、甲賀を離れ、俺たちは尾張、津島に戻った。

 やっとこさ戻ってきた神砲衆の屋敷。久々の我が家に、俺はくつろいでいたのだが――そこへ、


「お兄さん、お兄さんっ!」


 あかりちゃんが、突然飛び込んできた。


「お、あかりちゃん。ただいま。お土産買ってきたよ」


「あ、お帰りなさい。お土産楽しみです。……って、そうじゃなくて!」


 あかりちゃんは、決死の形相である。

 彼女らしくない慌てように、俺も伊与もカンナも、怪訝顔を作った。


「どうしたのだ、あかり。なにがあったのだ」


「そうそう、落ち着いて言ってみんしゃい」


「これが落ち着いていられますかっ! 前田さまが、前田さまが――」


 あかりちゃんは、汗を垂らしながら叫んだ。

 前田さん? 前田利家さんか? 前田さんが、どうした――


「前田さまが、織田家から追放されたそうなんです!」

「戦国商人立志伝」書籍版、第2巻の動きですが、これは動きが決まり次第、ご報告できると思います。

1巻発売からもう5か月になりますが、こちら、もう少し待っていてくださいね!

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