マシン・ブレイク
暇潰しです。思い付いたものを書き足した結果こうなりました。
拙い部分も多々あると思いますがそれでもいい方はどうぞ。
──青年"黒戸 時雨"は同じ夢を見ていた。
ジワジワと蝉が鳴き、照り付ける暑い日差しの中で子供の時雨が神社の前に立っていた。そして目の前の神社がガラスが割れるような音と共に光の欠片になって天辺から徐々に消えていく。欠片一つ一つが淡い光を放っており、光彩陸離とはまさにこの事だろう。その光景は恐ろしくも綺麗であった。
その粒となって消えた神社の中心にある人影を見つけた。
いや、人ではない。そこには人の形をした何かが立っていた。
『ァアアアアアアァアアアアァァ!!!』
男声の雄叫びと女声の悲鳴が織り交ざったような独特な叫声をあげるそいつの姿を捉える。
腕や脚の関節が変な方向に曲がり、身体の数箇所から歯車の様なものが飛び出していた。壊れた機械のようにカクカクと動くそれと目が合う。獲物を見つけた目と言うより、近くにいるものを排除するという機械的な目をしていた。
そんなことを思っていると、カクカクした動きからは想像出来ないくらい素早い動きで距離を詰められ、横薙ぎに腕を振るう。瞬間、時の流れが遅くなったかのように周りの時間がゆっくり動く。そして目前に迫る腕が自分にあたるであろうタイミングでいつも夢は終わる。
目が覚めると視界に最近見慣れできた天井が飛び込んでくる。自分の荒い息と心臓の音が頭に響く。嫌な汗をかいたせいでシャツが張り付いて気持ち悪い。
「またあの夢か…」
これで何度目かも知れぬ悪夢。
中学の頃はこんなこと無かったのにと愚痴をこぼしつつ嫌な汗を流しにシャワーを浴びる。
(いったい何なんだ、あれ…)
子供の自分がいるのだから昔体験した事なのだろうがイマイチ思いだせない。とりあえず悪夢のことは記憶の隅に追いやり、制服に着替えテレビを見ながら朝食をとる。
一人暮らしし始めて一ヶ月程経ち、こっちの生活にもだいぶ慣れてきたかな、と自分の順応力を自画自賛する。
この国、"マキナ"はその名の通り機械で発展した国である。発展したとは言ったものの田舎の方は昔より便利になっているが"元日本時代"の頃と大して変わりない。それも時雨達"機巧時代"に移り変わったのが最近で、あまり年月が経っていないのも理由の一つだろう。
だがそれでも発展していると言われるのは、周辺地域に比べ異様に発達した都市『新東京』のせいである。
初めて都市を目にした時は茫然自失となった。
幾重にも煌びやかな鉄の塔が連なり、大通りにはその場で立ち止まれないほど大勢の人々が行き交っていた。(都市の見た目は宛ら某人気アニメに出てくる学園都市である。)
田舎とは違う人の量や景色に目を回して初日は「これが田舎者への洗礼か…!」と四苦八苦していたのは記憶に新しい。
「あ、やべっ!!!」
腕時計を見て時間があまりないことに気づき朝食を急いで食べ終え、カバンを引っ張り玄関を出た。
駅までの道を全力疾走してなんとか機殻車の出発に間に合った。
機殻車は重厚な見た目であるのに対し車内は広々として意外とスッキリしており、内装はSLにちかい。外も内もなかなかカッコイイ。実は機殻車に乗るのは密かな楽しみになってたりする。
空いている席を見つけ座る。
走ったことで滲む額の汗を拭いながら窓をみると、見慣れたはずの景色に感嘆の吐息を洩らしてしまう。
(一ヶ月経っても見慣れないなぁ…)
外の景色に感心しているうちに目的の駅に着いた。
駅から出てまた少しばかり歩いたところに時雨の通う学校"機巧科高等学校"がある。名前の通り機械の専門学校である。
(はぁ、入学前から覚悟はしてたけどココの授業はレベル高いよなぁ…。)
成績の伸びが芳しくないこともあり、これからの事を考えていると後から明るい声が掛かる。
「ようクロ。こんな朝っぱらから難しい顔してどうした?」
声を掛けてきたのは身長2mに届くかと思える長身に少し細いが筋肉質な体躯と印象的なドレッドヘア、額に白のターバンを巻いた褐色肌の青年アイザック・ラインだ。
同じクラスで時雨の高校初めての友達だ。
そんな友人の問に肩を竦めながら答えた。
「あぁザック、おはよう。これからの人生について考えてたとこだよ」
「はっはっ、お前たまにそういうとこあるよなぁ。まぁ俺なんかより頭良いんだ。自信持てよ?」
む、なんとも察しのいいヤツ。
「ところでよ、クロ。今日も行くのか?」
「まぁなー、自分の問題だしな」
「すまねぇな力になれなくて」
「よせよせ、仕方ねぇって」
何気に親切なザックに苦笑交じりに応えた。
ここ数週間時雨は都市を動き回っていた。
近頃いきなり建物が消失すると言う噂が出回っており、噂があった付近を話を聞いて回っているのだ。自分の夢と何らかの関わりがあるのではと思い始めたのだがデマが多いのか殆ど失敗に終わっている。
しかし収穫がなかった訳では無い。
前にあった建物はきちんと消えているのだ。だがその付近の住民に話を聞くと『そんな建物あったか?』『そんなもの知らない』と言う答えばかり返ってくる。ザックの知っている場所も消えており、もしかしたらとザックに聞いてみると、やはり答えは『知らない』であった。他の消えた場所も聞いてみたが答えは全て同じだった。これは流石におかしい。
(なら誰も知らないのに何故噂が?)
と、疑問を抱いて考えにふけっていると、不意にあのガラスを割ったような音が耳に突き刺さる。
妙な既視感を覚え急いで音のなる方向、真正面を見据えた。
「「なっ…!?」」
驚愕の声が見事に被り、時雨とザックは目を見開いた。
そこにはあの悪夢と同じ光景が広がっている。
学校が音を立て天辺から光の粒になり消えていく。漸く見つけたと言う思い、それと同時にもう一つの途轍もない不安に駆られる。夢に出てきたあの人型のバケモノの存在だ。
いない事を願い消えていく校舎を凝視すると、
────いた。
いてしまった。両腕の先が鋭く尖っている以外夢とほとんど変わらない。
体が焼けるように熱い。呼吸が荒くなるのがわかる。
『ァアアアアアアァアアアアァァ!!!』
あの奇妙な叫声の余波が周りに広がる。
「…ぅぐっ!?」
不意に頭痛が襲う。隣でドサッと倒れる音が聞こえ横を向くとそこには気絶したザックの姿があった。
「おい!どうした!大丈夫か!?誰か救急車を……………え?」
周りをよく見ると生徒全員が同じように倒れていた。
「なんなんだよ、コレ…!?」
混乱していると、こちらに向かってくる一つの足音に気がつく。
そこには女の子がいた。歳は同じくらいだろう。だが、その球体関節人形のように整った顔と背中まで伸びる漆黒の髪をハーフアップで結わえており、お淑やか雰囲気があり普通の女の子とは一線を駕している。身長は時雨より5cmほど下の170cmくらいに見え、女の子にしてはなかなかの高身長だ。
お淑やかな雰囲気とは裏腹にオフショルダーにワイドパンツという意外に大胆な服装であったが、肩まで開いた服から見える白く小さい肩や鎖骨などの華奢な身体は少し強く触れば壊れてしまうのではないかと思うほど繊細で綺麗であった。大き過ぎず小さ過ぎない胸も全体のバランスが取れていて、控えめに言ってスタイル抜群だ。
頬を赤く染めボーッと彼女を見つめる時雨の目とその当の本人と目が合った。その時、時雨ははっと我に帰り、見蕩れて赤面した顔を両手で覆い『ぬぅおおお!!』と悶絶する。妙な奇声をあげる時雨を見るなり疑問を顔に浮かべたが、その次には微笑を投げかけられた。
( 笑われた…!?穴があったら入りたいってこういう事かぁ…!!)
そんな羞恥の中で忘れかけていた状況をとっさに思い出し、変な考えを捨て助けを求める。
「お、おねがいします!救急車を呼んでください!皆が…!!」
そんな願いに対し、凛とした声で告げられる。
「大丈夫です。私が皆さんを助けます」
「…へ?」
思考が止まり間抜けな声が出た。
何言ってんのこの子?もしかして天然なんだろうか。それとも電波なんだろうか。
心の中で様々な憶測が飛び交うさなか、彼女は未だ動き出さず物珍しそうに周りを見回すバケモノに視線を向け、表情を真剣なものにする。すると途端に彼女の黒髪の色が頭のてっぺんから淡く発光する赤銅色に変わる。それは昔見たあの綺麗な赤銅色の月によく似ている。
同時に彼女の纏う雰囲気が変わった。
さっきまでのお淑やかな雰囲気が消え、鋭く艶美な雰囲気を纏う。一気に大人びた感じだ。
また違った雰囲気の彼女に再度見惚れていると、声が掛かる
「?なにかしら?」
「あ、い、いえ…!別に何でもありません!!」
彼女の話し方や声にも艶っぽさが出ているせいかつい敬語になってしまう。彼女の醸し出す色気に時雨は無意識に頬を赤く染める。
「ふふ…可愛いのね」
「!?」
その言葉に羞恥から時雨は耳まで真っ赤になりまるでトマトだ。
「とりあえず巻き込まれないようにココにいてちょうだいね?」
「は、はい…」
彼女は惚けている僕に少し艶美になった微笑を投げかけ、消えた。いや、消えたと見紛うほどのスピードで動いたのだ。
そして次に彼女がいたのはバケモノの目の前だった。
微笑を投げかけた後、彼女は光の速さで駆けていた。比喩ではなく文字通り光の速さで。
彼女は紅色の一筋の光となり、バケモノとの距離を一瞬で詰め、切りかかる。
「はあっ!!」
『グゥおオおおぉ!?』
バケモノ驚きながらもなんとか紅の光刃に対応したが完全には避けきれず浅く袈裟に切られ血が飛び散る──ことは無く切られた部分は一瞬で焼け、煙をあげる。
驚愕したものの、痛みですぐに怒りに顔を歪めたバケモノが反撃に出る。
そしてどちらともバケモノと呼べる戦いが始まった。
2つの鈍い鉛色の刃と1つの紅の光刃が交わる。
───ズガガガガガガガガガガッ!!!
普通の人間では視認できないスピードで刃を振るう2つの影。
「ほらほらどうしたのぉ?こんなモノなのぉ〜?」
『グゥアアアアアアァァァ!!!』
「ホントにあれ人間なのか…?」
本当のバケモノは彼女なのではないかと思いだした。何故ならバケモノは両腕の刃を全力で振るっているのにも関わらず彼女は一筋の光刃のみ。どこにそんな力があるのか、激しい斬撃の嵐を生み出す彼女の顔には余裕すらある始末だ。というか笑顔だ。とてつもなくウットリとした。
まさかとは思っていたが、彼女の表情を見て時雨は確信した。アレは敵を嬲っている。。。
その証拠にバケモノの致命傷を避けて刃の跡が無数についているのに対して彼女は無傷である。
無意識にゾクッと背筋に冷たいものが走る。
彼女に少しばかりの恐怖を感じているうちに戦闘に変化が訪れる。
このままじゃやられると思ったのか地面を叩きつけ砂埃をあげ、バケモノはその場を離脱した。
「あらら、ちょっと遊びすぎちゃったかしら?」
やっぱりか…と顔を引き攣らせている時雨に離脱した敵はなんと一瞬で目の前にきた。
視認できない動きで迫ってきた相手に回避行動など取れるはずもなかった。
───マズ…っ!?
だが、それと同時に、いや、それよりもコンマ数秒速く彼女の姿があった。
「私のことを無視するなんてヒド過ぎるんじゃない??」
次の瞬間バケモノが細切れになり、崩れ落ちた肉片や歯車の欠片が灰になる。
「ふぅ〜、イマイチ物足りなかったけどとりあえず任務完了ね」
色っぽい吐息を吐き、彼女は身体の力を抜く。
すると髪の色がスウッと元の色に戻り雰囲気も和らぐ。そして再び凛とした声で呼びかけられる。
「あの、大丈夫でしたか?」
「へ…?あっ、は、はい!」
また見蕩れて間抜けな声が出てしまった。
だって仕方ないじゃん!?変わりすぎだもん!?なんて言い訳をしながらもとりあえず感謝の言葉を送る。
「えっと…その、色々聞きたいこともあるけどまずはありがとう…助けてくれて」
「いえ、当然のことですから。それと宜しければお名前を伺っても?」
「黒戸時雨。クロって呼んでくれ」
「クロ様ですか。私は光翼沙羅と言います」
「…あー、様はやめてくれないか?俺は大した身分でもないし」
そう言うと、沙羅は少し考える素振りを見せると再びこちらに向き直る。
「えっと、クロ…ちゃん?」
「どうしてそうなった。」
「ダメですか?可愛くてすごく似合ってると思うんですけど…」
「おねがいします。やめてください」
恥ずかしい!!! 死にたいくらい恥ずかしい!!!この人無意識でやってるの!?
「ふふっ、冗談ですよ?ではクロさん。宜しくお願いします」
「お、おう、よろしく」
そして沙羅からあの笑顔が向けられる。
やはり彼女の笑顔は魅力的であり、また頬を染め上げる自分に対してなんとも複雑な気分になるのだった。後に沙羅のこのような言動によって時雨が振り回されるのだが、それはまだ先の話しである。
今回は初投稿なので試しにパパッと書いたんですが、次何か書くとしたらもっとちゃんと設定考えてから書くべきだと言うことと、自分の語彙力の無さに1人涙しました(泣)
本当に表現の仕方や文章の構成など拙さが滲み出てる作品ですが、誤字脱字等はもちろん、アドバイスなどもお願いします。
最後まで読んでいただいた方には感謝しています。ありがとうございました。