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第94話「障壁の腕輪」

 ユナが出している魔法の障壁は透明で目には見えない。魔術師なら魔力探知で丸わかりなんだろうが、ともかく手で触ったりしてサイズや厚みを調べた。

 手で叩いた感触は何とも言えない感じだ。鉄のように硬いのだが、音が反響しない。コンコンとか、コツコツといった音もしないのだ。

 何とも不思議なことだが、障壁は空間に固定されているのか、押しても引いても微動だにしない。


「障壁の大きさは横2メートルくらいだな。縦は手が届かんから木剣で叩いてみたが、横幅と同じ2メートルくらいだと感じる。厚みは薄いベニヤ板みたいなイメージだ。形は……ほぼ平面の正方形だと思う」

「ふう……そのサイズなら自分以外の味方も守れそうですね」

「だな。ちょっとした通路なら塞ぐこともできるだろう。これは色を付けたりサイズを変えたりできないのか?」

「出来ないみたいですね。障壁の展開だけみたいです。集中しているときしか展開されないので、障壁の解除は集中を解く感じで使います」

「なるほどな。そうなると障壁の強度も固定されているだろうな」

「だと思います。一応コントロール的なことが出来るのは、障壁を出す方向と角度くらいですね。無意識だと正面ですが、意識すると真上に出したりもできますよ」


 ユナが障壁の腕輪をはめた腕を天に掲げて頷いたので、俺は水の精霊石を使ってユナの頭上に雨を降らせてみた。

 雨となって降り注ぐ魔法の水は、障壁の形に添ってきれいに遮られてユナには一滴の水もかからない。


「頭上に出しても障壁が落ちてくる気配はないな。やはり展開した空間に固定されているのか? 物理的な物なら魔法で出した物でも防げそうだな」

「そのようですね」



 その後も俺とユナは、反発力のテストで石や矢を当ててみたが、音もなく弾かれたのでショックを吸収するような能力はない事がわかった。ちなみに強く叩くと障壁の反対側にも衝撃が響く。特に空間を遮断しているわけではなさそうだった。


「障壁を展開するときに障害物があると、それを避ける感じで展開されますね」

「障害物を排除すると、障壁を再展開するまで穴が開いたままだな」

「周りが草で覆われていたり、水の中では全く使い物にならないですね」


 俺は目の前にバリア的な物が張られるだけの魔道具だと思っていたが、ユナが検証すると色々なことがわかってきた。


「ちょっと置きバリアを試してみたいです」

「なんだそれは?」

「障壁を展開したまま横に移動したり後ろに下がったりしてみるので、障壁が私に追従するのか、最初に展開された場所に留まるのか、その場に留まるならどこまで離れても有効なのかを調べてください。前進しても障壁は動かないので置きバリアできるはずなんです」



 俺はユナに言われた通り、障壁に手を付いたままユナが移動していくのを見守った。

 ユナが言った通り、多少移動しても障壁はその場所に留まったままだ。これが置きバリアか……。


「あ、消えた。3メートルくらいだと思うぞ。消えるときは一瞬で消えるな」

「じゃあ一歩戻った位置で同じ場所に障壁を出してみますね」

「出てきたな。魔道具の有効範囲内ならわりと自由に出せるっぽいな」

「これなら遺跡の最後尾からでも何とか使えそうですね。次は水平に障壁を出すのでその上を歩いてみてください」

「わかった」


 俺はユナの合図を見てから、目の前に展開されているであろう障壁の上に乗って少し歩いてみた。


「他人が見ると宙に浮いたような感じだろうな。でも透明なせいで足場がわからなくて怖い。あと、下からパンツ覗かれたら嫌だな」


 俺は土の精霊石で足場になった障壁に砂を撒いてみた。これなら安全に歩いたり飛び降りたりできるだろう。



「さっきの砂を撒く方法はいいですね。落とし穴にも使えそうです。空中に足場を作ったり、屋内なら待ち伏せにも使えますね」

「うーん、足場や落とし穴は集中し続けるのが辛そうだぞ。必要なときはティナに頼む方がいいな。しかし防御用の魔法一つでここまで使い道を考えるとはなあ」


 一通りのテストを終えて満足したユナと一緒に、俺は家の中へと戻った。






 俺とユナが家の広間に戻ると、買い物から帰ってきていたティナが調理場から顔を覗かせた。


「裏の河原で何してたの?」

「障壁の腕輪の効果を検証していたんです」


 ユナは得意げに検証の結果をティナに報告している。もしもユナが魔術師なんかになったら末恐ろしいことだ。


「良く調べたわね。障壁の魔法を落とし穴の蓋にするなんて、エミリアの持ってきた本にも載ってなかったわよ」

「だろうな」


 エミリアの本で思い出したが、あの野郎、暖炉の隅に本を積み上げたまま持ち帰っていない。というか持ち帰る気配すらない。

 このまま貰ってしまっても良いのか? 先日のゴミ部屋大掃除の時に判明したが、ここに投げてある本の山の殆どは図書館から持ち出されたものだと思う。


 扱いに困りそうなものを放置しやがって……。



「結局この本の山どうするんです?」


 俺が本の山を見ているのに気付いたユナが聞いてきた。


「わからんな。どうせ図書館の蔵書だろうから、借りパクは駄目だろう」

「そうですよね」

「後々面倒なことになっても困るし、そろそろ返却したいところね」

「恐らくテレポートで直接持ってきただろうから、誰が持ち出したのかもわかってないはずだ。俺たちで返却しに行ったら逆に問題になるだろう」

「困りましたね」


 一応ティナに確認をしたが、必要な部分はエミリアがまとめた資料と合わせて自前で書き取ってあり、ここにある本はすでに必要ないらしい。


「魚獲りから帰ってきたら、少しずつでも持って帰らせよう。暇だしハンコが押してある本だけでも分けておくか……」


 俺は本の仕分け、ユナは検証結果をまとめに自室へ、ティナは調理場に戻ってそれぞれの作業を始めた。

 結局、エミリアが持ってきた本の八割近くにはハンコが押してあった。

 それ以外の本には印やメモが書き込まれていたり、偉人の肖像画に変な落書きがされているのでエミリアの私物だろう。






 本の仕分けが終わった後、エミリアの私物の本を何気なく捲っていた俺は、年代が進むごとに熱心な補足メモが段々と減っていき、偉人の顔に落書きが始まってから暫くすると、今度は本の内容とは全く関係のない独自のテーマの走り書きが増えていくことを発見して、エミリアの遍歴を垣間見たような気がしていた。

 ある意味俺と共通する部分もあって、妙な親近感を覚えてしまう。


「懐かしいですね。私が初めて研究したテーマですよ」

「もーお! 変な登場すんなって今朝も言ったのに!!」


 俺がエミリアの本を見てニヤニヤしていると、背後から突然エミリアが現れた。

 気配なく忍び寄るスキルはもはや忍者だ。気持ち悪い!



「もう来てたの?」

「はい。早かったでしょうか?」

「お鍋だから向こうで火に掛けておけばいいわよ」


 そう言えば今晩はいつもより来るのが早いな。エミリアは調理場に行くと、煮えかけの鍋を持って即テレポートしてしまったようだ。

 いつも朝晩必ず俺とグダグダ話をしているエミリアだが、今日は食い物だけを受け取ると即座に現地に戻ってしまう。そんなに忙しいのだろうか?


 明日の朝にでも状況を聞いてみよう。


 その後暫くしてから俺たち三人も鍋をつついて、風呂、洗濯、歯磨きと続けた。



「三人だけの夕食も久しぶりな気がするな」

「準待機じゃなかったら、どこか静かなレストランにでも行けたんですけどね」

「あら? なんだか空が怪しいわよ」

「曇ってるのか? 真っ暗だな。早速オーニングテントを張っておくか」


 俺は歯ブラシをくわえたまま勝手口を出てオーニングテントを広げた。テントは洗濯物を完全に覆うくらい余裕の大きさがある。

 見事に雨を凌いでいる所が見たくなった俺は、サキさんたちの事などすっかり忘れて雨が降るよう天に祈った。


 俺たちがベッドに潜って少し経った頃だろうか? 屋根を叩く雨音が天井から聞こえ始める……。

 俺は内心わくわくしながら、もぞもぞとティナの体に抱き付いて寝た。






 翌朝、ユナと一緒に広間に下りた俺は、風呂場には行かずに勝手口から顔を出した。もちろんオーニングテントの雄姿を確認するためである。


「おー。ちゃんと屋根になってるな。洗濯物も濡れてないみたいだ」

「広がってるとこ初めて見たけど、想像以上に広いのね」

「どうなってます?」


 俺とティナでテントを見ていると、気になったのかユナも顔を出してくる。

 ティナはすぐに朝食の準備に戻ってしまったが、俺とユナは暫くテントを眺めて納得してから、朝の支度を終えた。



 広間に行くと、全身ずぶ濡れのエミリアが幽霊のように立っていた。


「あーあ、床がぐちゃぐちゃだ。風呂場で脱いで来いよ」

「はい……」


 エミリアは風呂場にテレポートした。まあ、家の中をベチャベチャと歩かれなかったのは幸いだ。

 俺も風呂場に行って湯沸かし器を動かしてやった。どうせ濡れてるんだから掛け湯くらいはした方が良いだろう。この調子では風呂にも入ってなさそうだし。


「すみません。野宿してたら明け方突然降って来まして……」

「こっちは夜のうちに降ってきたぞ。エミリアはこのまま自分の部屋に戻ればいいが、他の連中は着替え持って行ってるのかな?」

「着替えはテントにあるのですが、なにせ焚き木が消えてしまうので、今は魔法の火で無理やり燃やしてる感じになっています」


 何だかその光景が目に浮かぶな。


「そんなエミリアに最新情報を教えよう。昨日ユナが発見した方法だが、頭上に障壁の魔法を展開すれば雨なんか余裕で防げる」

「!!」


 しおらしく掛け湯をしていたエミリアは、まるで火を発見した原始人のような顔をして俺の方を向いて立ち上がった。

 初めてエミリアの素っ裸を見たが、おっぱいヤバイな……。

 ブラジャー着けても垂れるくらいデカいから興味はあったが、なんかもう風船がくっ付いているような感じのおっぱいだ。良く肩が凝らんものだ。

 あとちょっと、下の毛ボーボー過ぎるからもう少し何とかした方が良いと思う。


 まあそれはいいんだけど、エミリアの裸を見ても特に何も感じなかった。



「向こうで着替えたのはこっちで洗って乾かしておくから、飯の前に向こうの連中を着替えさせて、雨を凌いでから飯にしろよー」

「そうですね……そうします」


 エミリアは適当に体を拭くと、着替えを取りにテレポートで学院の自室に戻った。






 再びエミリアが風呂場に現れたのは、三十分ほどしてからだ。

 サキさんとナカミチのずぶ濡れの服と下着を持ってきたので直接風呂場に出現したようだが、そのまま調理場で朝食を受け取って現地に戻ったらしい。


「向こうの現状報告を聞きたかったが、ずぶ濡れで来るものだから聞きそびれてしまった」

「目当ての魚よりも大トカゲの方が多くて大変らしいわよ。一匹持ってくるって言うから、いらないと答えたわ」

「いらんのか?」

「ミナトとユナで捌いてくれるなら貰うわよ」


『いらないです』


 俺は朝食のエッグバーガーを食いながら、向こうの心配をしていた。恐らく道が険しくて、いつもの大きな荷馬車は持ち出していないのだろう。


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