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第91話「俺のセーラー服①」

 日の出過ぎに目が覚めた俺たち三人は、朝の支度をしてから朝食の準備を始めた。

 なぜか普段よりも早起きしてきたサキさんは、自分の支度が終わると勝手口の外で薪割りを始めている。

 ティナとユナは朝食を作っているが、今日は混ぜる物もなく暇になった俺はサキさんの薪割りを手伝っているところだ。


「魔法があるのに窯の火だけは薪だよな」

「薪の方が美味いらしいの。なに、朝稽古のつもりでやれば良い運動になるわい」


 俺は開けっ放しの勝手口からティナに聞いてみた。


「水は味までイメージできるけど、薪の良し悪しなんてわからないのよ。ミナトはわかる?」


 まあ確かにそうだ。俺も水だけはそこそこいいのが出せる。水道水やペットボトルの水を知っているので、その味をイメージすれば大きく外すことはない。


「薪は良くわからんな。遠赤外線とかそんな感じか?」

「結構難しいわよー。でも魔法なら火力調整が簡単だし、最近は使い分けてるわね。ガスコンロみたいに一瞬で使えるのも便利だわ」


 適材適所というやつか。しかしまあ、普段家事でしか魔法を使わない魔術師っていうのも珍しい気がするな。

 何だかんだで一日中魔法を使っているので、下手な魔術師の修行よりも効果的かもしれないが……。






 そろそろエミリアが来る時間だと思ったので、俺はサキさんの手伝いを切り上げて広間に移動した。

 ……エミリアは広間のテーブルで一人放置プレイを楽しんでいるようだ。最初の頃はパーティー水入らずを邪魔されているような気がして正直ウザかったが、今ではこの光景が日常になっている。


「あの部屋で合格点は貰えたのか?」

「はい、ミナトさんたちのお陰で助かりました。早速なんですが依頼の報酬は……」

「誰も友人の部屋掃除で金を取るつもりは無かったと思うから、報酬はなくていいぞ。あーでも、昨日の経費は全部ユナが立て替えてるので、それは後で払ってやってくれ」

「……わかりました。後でユナさんと相談してみますね」


 エミリアもだいぶ俺の性格がわかってきたのか、特に報酬の押し付けはしてこなかった。


「それはそうと……服や下着を洗濯せずにずっとローテしてたようだな? それについて何か言いたいことはあるか?」

「その、えーとですね……まだいける、まだ大丈夫と思いながら、ミナトさんにバレる限界の所を探していたというか……」


 俺がわざとらしく頬杖から頭を落としたところで朝食が運ばれてきた。

 確かエミリアは、洗濯物は実家に持って帰って洗って貰うと以前聞いたような記憶があるのだが、そんなことすら普通にできないのかな?



 今日の朝食はフルーツタルトの一品攻めだった。これでもかと言わんばかりに色んなカットフルーツを乗せたタルトはまさに至高の一品だ。

 六等分に切ったタルトはそれぞれに配り、余った一切れはさらに半分に切られてサキさんとエミリアの胃袋に収まった。


「クリームっぽいのが入ってたけど、混ぜ混ぜしなくて良かったのか?」

「保存の魔法で作り置きしてたのよ。凄い方の杖ならまず傷まないみたいよ」


 花火の時にジャックも言ってたが、ティナが使っている古代竜の角の杖は伝説級の杖らしい。いわゆるレジェンドアイテムなのに「凄い方の杖」と呼ばれて、花火を出したりクリームの保存に使われたりしている……。


「エミリア、昔の人は古代竜を倒してこの杖を作ったのかな?」

「む。わしも気になっておった」


 俺はふと気になってエミリアに聞いた。杖の威力を良く知っているサキさんも興味があるらしい。


「古代竜と何らかの交渉をして角の一部を削らせて貰ったんじゃないでしょうか? 古代竜は神と同格なので普通は死にませんし、人間では倒せませんよ」

「もしかしたら今も何処かで生きてるってことか」

「そうです。寿命が無く人間よりも遥かに賢くて魔力も高いので、暇潰しに人間に化けてその辺りで暮らしているかも知れません」

「冒険を続けていたら角の持ち主に出会えたりするかもですね!」

「今の用途を聞いたら泣くかもしれないわね」

「随分夢のある話だな。案外、ティナの手に渡っている事を気に入るかもしれんぞ?」






 朝食を済ませて古代竜の話で盛り上がっていた俺たちは、一息入れながら今日の予定を話し合っていた。


「わしは武器屋で稽古用の木剣を買うてくる。真剣で人と打ち合う訳にはいかんでのう」

「そうだな。サキさんと練習できる人間が居るのか怪しいが好きにしろ」

「それ以外にも寄る所があるから、朝のうちは一人で行動するわい」


「私は離れの通路にテラス屋根を追加できるか街の大工さんに聞いてきます。ついでにナカミチさんにお茶と精霊石を渡してきますね」

「テラス屋根は上手く出来そうならそのまま発注してくれ。あと、エミリア用に洗濯かご買って来てくれんか? 使った服を別けられるようにすれば、ちゃんと洗濯に回せるのかもしれん……」

「そうですね……わかりました。なるべく持ち運びしやすいのを選んできますね」

「便乗して悪いが、部屋の床の間に掛け軸を飾りたいから、それらしいのを見つけて来てくれんかの? 何も書いてない物が欲しい」

「確か街の画材屋さんにあったと思うので買ってきますね」


 ユナは街の散策を続けているだけあって、こういう時には頼りになる。サキさんが頼むってことは、自分では見つけられなかったんだろうな。


「私は家の掃除でもしてるわね」

「俺も家の手伝いして時間を潰すか……」


 サキさんは白髪天狗で武器屋へ、ユナはハヤウマテイオウに乗って大工さんの所へ相談しに行った。






 家に残った俺とティナは、自分たちの部屋から二階の廊下と階段、サキさんの部屋には手を付けずに……今は一階の広間の掃き掃除をしている。


「ミシンの下は相変わらずサキさんの抜け毛が多いなあ」

「いつもここで適当に手櫛してるものね……」

「魔法の櫛とか使ってくれそうにないしな。ある程度はしょうがないか」


 サキさんはいつも石鹸で洗っただけの髪をキシキシさせながらミシンの椅子に座っていることが多い。

 見ているこっちが辛いので、魔法の櫛の一つは広間に置いておくべきだろうか?


「家の中はもういいわね」



 広間の掃除が終わると、ティナは玄関から花壇の方に移動して、魔法のシャワーで水やりを始めた。そんなティナを、俺は広間の木窓から眺めている。

 今日のティナは長いツインテールにふりふり少な目のワンピースを着て、いつものエプロンを掛けている。こうして花壇の花に水をやっている姿だけを見れば、見た目相応の女の子なんだが、家を手に入れて以来、ずっと家事に追われているんだよな。


 この家は、名目上はパーティー全員が安全に冬越しをするためにどうしても手に入れておきたかったものだ。しかし当時の俺は、ティナの手料理食いたさに自分のわがままを押し通していた部分がかなり大きかったと思う。


 その結果、家事の大部分はティナの負担になってしまった……。


 以前ティナは今の生活に満足していると言っていたが、本当にそうなんだろうか?

 魔法や魔道具のお陰でかなり快適にはなったが、俺やサキさんやユナのように毎日好き勝手ができる時間は取れていない。

 すっかりお母さん役が板についてしまっているが、本当にこのままで良いのだろうか?


「まだ午前中だし、どこか二人で遊びに行こうか?」

「あら、いいわね。どこに行くの?」

「何となく思い付いただけなんで、適当に歩きながら考えよう」


 俺の誘いに応じたティナは、エプロンを調理場へ戻しに行った。






 家を空けるので一階の戸締りをしていると、白髪天狗に乗ったサキさんが帰ってきた。

 両腕に木剣と木槍を抱えているが、木製とはいえ剣四本に槍二本は重そうだ。

 そんなに買って来て置き場所はどうするんだろうと思ったが、とりあえず暖炉の横に置いておくらしい。


「また暖炉の回りに物が増えるのか……」

「そう言うな。後日勝手口の方に置く方法を考えるわい。む……戸締りしとるのか?」

「ティナと二人で街へ遊びに行こうと思ってたんだよ」


 俺が遊びに行くと言うと、サキさんは脇に抱えていた麻袋を俺に差し出してきた。


「ならば着て行くが良い。お主の希望通りの物が出来ておる。セーラー服は上着だけを縫うて、スカートは先程街で買ってきたのだ」

「まじか!? ありがとうサキさん! ティナーっ! 着替えてから遊びに行こう!」


 サキさんから麻袋を受け取った俺は、勝手口の戸締りをしていたティナの手を引いて自分たちの部屋に戻った。



「突然部屋まで連れてきて、一体どうしたのよ?」

「以前サキさんに頼んでいた服があるんだが、何も言わずに着てほしい」


 俺はサキさんから貰った麻袋をティナに手渡した。


「凄いわね……良く出来てるじゃない。これもサキさんが作ったの?」

「うん。俺はまともな学生時代を過ごせんかったからな。せめて一度でいいからセーラー服着た女の子と一緒に遊んだり手を繋いで歩いたりしてみたかったんだ……」

「そうだったの……私も学生時代に着られなかったから着てみたいわ」


 ティナはセーラー服を広げてまじまじと観察したあと、俺の要求に突っ込みを入れることもなく上機嫌で着替え始めた。


「ほら、ミナトも着替えて」

「え?」


 俺がティナの着替えを見ていると、ティナは麻袋からもう一着セーラー服を取り出した。



「……これはどういうことかな?」

「はい、手を上げて」

「こ、こうか?」


 状況が理解できないまま俺は下着姿にされて、もう一着あったセーラー服を頭から着せられて、脇と胸元の隠しボタンを閉じられて、白いスカーフを襟に通されてから、プリーツスカートを穿かされてしまった……。


「ほら見て、髪の色はありえないけど普通に学生っぽいわよ」

「はい。そうっすね……」


 俺は大きな三面鏡に映ったセーラー服姿の自分を見て深々とため息を付いた。ティナは小柄なせいもあって、ひざ丈のスカートが実に清楚な雰囲気を出している。

 俺の方は太もも丸出しのミニスカートと隠しきれないおっぱいのせいで清楚感はゼロだ。


 ううむ。確かに良く似合っていると思うのだが、俺の方は学ランにしてくれんと意味がないじゃないか。ちょっとサキさんに文句言ってくる!


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