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第88話「エミリアが来ない夜」

 俺とティナはサキさんを誘って、風呂場で四人分の浴衣を洗っている。ユナは浴衣を着替えて出て行ったようで、脱衣所の洗濯かごにちゃんと入れてあった。


「布が多い分、洗うのも濯ぐのも結構大変だな」

「そうね……」


 いつもの洗濯より多少手間は掛かったが、何とか外に干したあと三人で広間に戻りユナの帰りを待つことにした。



「ただいまー」


 サキさんのミシンの音を聞きながら待っていると、そのうちユナも帰ってきた。

 俺たちは四人並んで歯磨きをしたあと、もう暫く作業すると言ったサキさんを置いて三人で部屋に戻った。


「今日は楽しかったですね」

「楽しかったな。最後のジャックは最悪だったけど」


 俺たちはドヤ顔のホログラムを思い出して噴き出してしまった。ベッドに潜った後も、当分の間はそれを思い出してなかなか寝付けなかった。






 翌朝目覚めると、ベッドには俺とユナしか居なかった。おかしな話だが、ようやく日常が戻ったような気がしてしまう。

 俺はユナを起こして寝癖を直すと、適当に着替えてから風呂場で歯を磨いて顔を洗って、いつの間にかセルフ放置プレイをしているエミリアの相手をしている。


「エミリアって全然酔わんよな」

「酔いますよ。いくら飲んでも平気なときと、少しでもフラフラになるときがあります」

「変な体質だな」

「そう言えば今日は午後から雨になるので、やることがあれば朝のうちに済ませた方がいいですよ」

「またか……あ、エミリアの荷馬車の幌って全然雨漏れしなかったよな。中から触っても完全に水弾いてたし。ああいう素材の雨具って売ってないのか?」

「売ってますよ。もの凄く目が細かく編んであって、表面に専用の蝋を刷り込んで使うんです。高価で手間も掛かるので普通の人は使いませんけど」

「そうなのか……」


 エミリアの荷馬車の幌は、毎回専門の職人が手入れをしているらしい。高価なのは平気だが、そんなに手間が掛かるようなら今のままで我慢するしかなさそうだ。






 俺とエミリアが話をしていると、頭を抱えたサキさんも起きてきて、ティナとユナが朝食を運んで来た。

 今日の朝食はバターとベーコンを練り込んで焼いたパンと、柿のような食感でメロンのような味がする不思議な果物、若干渋みのある熱いハーブティーだった。


「美味いけど変な果物だなあ」

「まだまだヘンテコな果物がいっぱいあると思いますよ」


 果物はユナに任せているので、これからも色んな物が食えるだろう。



 俺はパンをちぎりながら、今日の予定をみんなに伝えた。


「昼から雨らしいので、やることは朝のうちに済ませようと思う。俺は特に用事もないので家の中で精霊石のストックを増やす予定だ」

「わしはミシンでもしておくかの。二日酔いで頭も痛い」

「お前はいつも二日酔いだな。笊だと思ってたのに良く吐いてるし」

「私も特にないわね」

「私は弓を引き取りに行ってきます。細部の確認もしたいので一人で大丈夫です」

「じゃあ、弓の方はユナに頼んだ」


 朝食が終わった俺たちは、各自が宣言した通りに行動している。

 ユナはハヤウマテイオウにリヤカーを付けて弓を取りに行き、俺とティナは食後の後片付けをしたあと、俺は広間で精霊石を、ティナは部屋に籠り、サキさんはミシンを掛ける。






 俺は精霊石を作るついでに、炎の矢、風の矢、氷の矢、そして雷の矢を各4本ずつ作っておいた。この四種類は実績があるので咄嗟の時でも使えるようにしておきたい。

 水や土だとどうなるのか興味もあるが、何となく周囲が滅茶苦茶になるような気がして実験するのは躊躇っている。


 精霊石を作り終えた俺は不思議電池を洗って片付けると、我が家の家計簿を付け始めた。


 まずサキさんの最高品質の装備は、古い装備の下取りを差し引いて銀貨4620枚掛かった。ユナに持たせた障壁効果の腕輪は銀貨8000枚だ。

 ハンドアックスやカスタムロングボウの改造費、魔法の杖のホルダーに、リトナ村へ向かう時に買った予備の弓などの合計が銀貨1160枚。

 三人分の冒険用の服とパジャマの予備で銀貨1120枚、花壇の花や日用品、食糧費とサキさんの銭湯代で銀貨560枚。


 収入はエミリアが処分した服の代金が銀貨1万2750枚で、リトナ村での報酬が銀貨2800枚となっている。現在の総資産は銀貨32万8680枚だ。


「ふう……」


 やることが済んだ俺は、広間にサキさんを残して自分の部屋に戻った。






 俺が部屋に戻ると、ティナはテーブルの上で股に挟むやつを量産していた……。


「うぅ……こういうの、サンプルを渡して何処かで作って貰えんのかなあ」

「もう少し改良してコレっていうのができたら考えるわ」


 自分でも使うやつなんで、俺は手に取ってまじまじと観察した。前回作っていたやつより改良が進んでいる……ように思う。

 まあ、前回の時は意味もわからず使ってたので良し悪しなんて全く覚えてないが。


 俺は暇だったが、ティナの前で変態行為をする訳にも行かず、テーブルのクッションに寝そべってティナのスカートから覗いている脚を眺めたり、木窓の外を見たり、下着姿になって鏡の前でコロコロをしたり、ドレッサーの椅子の小物入れから髪留めを出してそろそろ新しいのが欲しいなあと考えたりしていた。


 そんなことをしているとユナも帰ってきて、そのユナも股に挟むやつを作り始めた。



 暇星人になった俺がブラジャーのホックを外してベッドでぐたーっとしていると、部屋のドアをノックしたサキさんが顔を覗かしてくる。


「石材工房の者が訪ねて来たが、折り入って話があると言うておる」

「ガーゴイルの石像のことだと思うが……なんだろう?」

「私が行ってきますね」

「うん。あれはユナのだから、自分でいいようにしてほしい」


 ユナは部屋を出ていった。俺も付いて行こうと思ったが、ブラジャーのホックを留めておっぱいの形を整えるまでが微妙に面倒臭かったので全部ユナに任せた。



 玄関の方から所々話し声が聞こえてきたが、ユナはすぐ部屋に戻ってくる。


「何だった?」

「石像を見たお客さんがどうしても欲しいと言うから、売ってくれっていう話でした」

「あそこまで変な石像だと逆に魅力を感じるからなあ」

「はい。なので売りました」

「そうかあ……まあユナの持ち物だし、売った代金はユナが持ってればいいよ」


 好事家の人かなあ……いくらで売れたのかは知らんけど。ユナはちょいちょい散策で金が必要になるから、ある程度は持っていないと困るだろう。

 ユナが王都に詳しくなってくれれば、そのうち街中での依頼を受けられるようになるかも知れんしな。


 木窓の外を見ると雲行きが怪しくなっていたので、俺たちは慌てて洗濯物を取り込みに勝手口まで移動した。






 俺とティナとユナの三人で洗濯物を取り込んでいると、ポツリポツリと雨が降ってきた。


「間一髪だったな。まだ昼前だが、さっき来た石屋の人は雨に降られるだろうな」

「ちょっと可哀想ね」


 俺は物干し竿を薪置き場の方へ立て掛けてから家の中に入った。


「やっぱり薪置き場の所、屋根の部分を延長させたいよな」

「家の屋根を延長させるのは難しいですよ。離れまでの通路側にテラス屋根を追加するのが簡単で安上がりだと思います」

「なるほど……今度そういう方向で工房に頼んでみてくれ。雨が降っても作業できる場所があると便利そうだ」

「わかりました」


 俺たちは雨の音を聞きながら洗濯物を畳んでいる。

 タオルやサキさんの服を畳むのは大体俺の仕事だ。俺たちの下着はどれが誰のか良くわからないので、そういうのはティナとユナに任せている。



 ティナがコロコロを始めたので、暇になった俺とユナは、羊皮紙にマスを描いて銀貨を裏表にひっくり返すゲームで遊んでいた。


「だめだ。何度やっても勝てん……」

「端っこから一つ内側のマスに相手が銀貨を置くように仕向けて行くといいですよ」

「ううー。それはやってるんだけど、何故か最終的に四隅を取られてボロボロにされてしまう……」


 ユナはコンピューターのように強い。試しにティナも対戦してみたが、ティナは四隅を全て取っているにも関わらず負けてしまった。


「強いわね……」

「ティナさんは四隅に拘りすぎているんですよ」

「四隅だけでは勝てないのか。では俺とティナがやったらどうなるかな?」


 途中まではいい勝負だったが、俺は終盤、銀貨を置ける場所が無くなって負けた……。






 いよいよ雨も本降りになり、薄暗くなった部屋で俺たちは思い思いに過ごしている。

 俺は雨音を聞きながらずっと木窓の外を見ていて、ユナは股に挟むやつをちまちまと量産しているし、ティナは念入りにコロコロをし続けている。


「そろそろ晩ご飯の用意しないといけないわ」


 納得するまでコロコロをしたティナは調理場に向かった。ユナもそれに続いて部屋を出ていく。俺は部屋で一人になるとろくなことをしないので、広間のテーブルに移動した。


「そろそろ夜になると冷えるよな。サキさんは今の布団で寒くないのか?」

「冒険に持って行く毛布を出せば問題ないわい」


 本格的に秋になったら冬用の布団を揃えないといけないな。家の中で凍死したらかなわん。広間には暖炉があるが、部屋の暖はどうやって取ろうか?

 王都オルステインの冬事情はエミリアから聞いて、またみんなと相談しよう……。



 俺はサキさんと他愛のない話をしながらエミリアが来るのを待っていたが、この日はティナが夕食を運んでくる時間になってもエミリアは現れなかった。


「まあ……魔術学院の研究で忙しい日もあるだろう」

「残念ね」


 今日の夕食は、昨日の夜に使い切れなかった海の幸を使った贅沢なパエリアだ。

 確かに五人分の量はあったが、あんまり美味いので腹いっぱいに食っていたら少し足りないくらいだった。



 今日はサキさんも家の風呂に入ると言うので、サキさんが風呂に入っている間に洗い物を済ませて、俺たち三人はその後で風呂に入った。

 洗濯物は特にないし、四人で歯磨きをした後はまた部屋で適当に暇を潰して、今日は早めに寝ることにした。


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