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第87話「賑やかなひと時」

 そろそろ焼き始めるかという時になって、シオンとハルが馬小屋の方から河原に歩いて来るのが見えた。何やら二人で大きな木箱を運んでいるようだ。

 その後ろからジャックも姿を現した。相変わらずのシルクハットを被って魔法のステッキを振り回しながら悠々とこちらへ歩いて来る。


「家の近くでこの若者らと会ったのでね。丁度良い、荷馬車から酒を運んで貰ったのだよ」


 木箱の中には焼き物に入った酒がいくつも収まっていた。容器も凝っているし高そうな酒だ。安酒は悪酔いすると言って、わざわざ買ってきたようだ。



 かまどの上の鉄板と金網には、イカや貝や伊勢海老などが豪快に焼かれている。

 あとは焼くだけの状態にされているのを良いことに、ナカミチとサキさんが屋台のおっさんとバイトの兄ちゃんに扮して焼いているのだ。


「こういうのは豪快にやった方がうめーんだよ」

「わしらに任せておけ」


 二人は調理台から乱暴に食材をわし掴んで、金網からタレがボタボタと流れ落ちるのも全く気にしないワイルドクッキングを披露して見せた。

 その様子を見ているティナは俺の浴衣の袖を掴んだ。これは後で掃除が大変そうだ。俺でも目まいがしてくる。



「さて諸君、本日はお集り頂いて大変ご苦労であった」


 ユナが全員に行き渡らせた酒と飲み物を手にして、ジャックが勝手に挨拶を始めやがった。


「……何やら不服そうな顔だね? よろしい、君が挨拶をしたまえ」

「えー、あー、便所はそこの馬小屋にあるんで自由に使ってください……」

「……大変困った主催者の挨拶であったが、今宵は楽しんでくれたまえ!」


『おーー!』


 この場の全員に注目された俺は緊張のあまりろくな挨拶ができず、代わりにジャックがこの場を上手くまとめてくれた……。






 俺たちは焼き上がった物から好き勝手に食って、食欲を満たしている。空はもう夜の時間になり、俺は解放の駒を数カ所に設置して辺りを照らしている。

 こういう時に蚊がいないのは本当に助かるな。


「この良くわからん貝とイカ焼きは美味いな」

「見た目に惑わされてはいけませんね。勉強になります」


 エミリアは指の間に何本もイカ焼きを挟んで食っている。イカ焼きのタレで手がベタベタになっているがもう気にしてない様子だ。


 汗だくで食材を焼き続けるサキさんの隣にいるハルは、あれが欲しいこれが食いたいとリクエストに夢中になっているようで、節操がないとシオンに注意されている。

 三人並んでいると良くわかるが、シオンはサキさんと同じくらいの背丈……175センチくらい、ハルはエミリアよりもちょっとだけ低くて160センチくらいだ。

 そういえば、二人とも16歳で成人してすぐに村を出て冒険者になったらしいな。



「ここも随分賑やかになったわね」

「そうだなあ」


 もう十分に腹の膨れた俺とティナは、少し離れた場所からみんなの姿を見守っていた。


 川風でゆらゆらと揺れ始めたポニーテールを見ている俺に気付いたティナは、揺れる後ろ髪を胸の横に回しながら俺に笑いかけてくる。

 浴衣姿でそんな仕草をするティナの色気に負けそうになった俺は、ティナの手を取ってみんなの所まで戻ることにした。






 皆が皆好き勝手に食い散らかした河原で、すっかり出来上がったジャックが一番乗りで花火を決めた。


「そろそろ始めようではないかね!?」


 生まれて初めて見る花火に驚いたのは、シオンとハルとサーラだ。

 ジャックは得意げにシルクハットを被り直し、相変わらず正確無比な魔法で解放の駒を弾き飛ばした。弾いた駒から光の精霊石が外れ、かまどの炎だけが辺りを照らす。


 俺は今日のために用意した風の精霊石をいくつも取り出して、次の花火が上がるのを待つ。平気な顔できつい酒をラッパ飲みしていたエミリアが、二発目を打ち上げた。


 ドンッ!!


 辺りに響く音に、今度はエミリアとジャックも驚く。ナカミチとユナは手を叩いた。


「やっぱり音がしないと花火じゃないよな」

「今の音、どうやったんですか?」

「一応空気の振動だし、スピーカーみたいなイメージでいけると思ったんだよ」


 俺は風の精霊石を見せて、ユナに説明した。

 音の説明を求めるジャックには、本来の花火は光と音を出して大爆発する使い捨ての魔道具を景気よく打ち上げる物だと説明してやった。


「驚いた。そんな魔道具を国の至る所で何千何万も消費するのか……毎年かね? いやはや……」



 俺の説明を聞いたジャックは、本家に負けじと次々に花火を打ち上げた。エミリアも本気になったのか、一度に複数の花火を打ち上げる離れ業を披露している。

 俺は風の精霊石の消費の速さが気になって、合間合間に精霊力を集めるのに必死だ。


「ちょっと大きめの行くわよー!」


 ティナは古代竜の角の杖を振りかざして、全力の花火を咲かせた。

 天空に咲いた花火の光は俺たちがいる河原の足元まで降り注ぎ、見上げた花火はまるで空から星が降り注いでいるようだった。


『うわあ……』


 俺たちは降り注いできた魔法の光に驚嘆して声を漏らす。俺は音を鳴らすことなどすっかり忘れて、空から降り注ぐ光の欠片を浴び続けた。



「はあぁ……魂を奪われる程の美しさだった! 流石は伝説級の杖といった所か……しかし魔法の精度なら私も負けておらんよ! 諸君、注目したまえ!」


 ジャックのただならぬ気合に、俺たちは括目して夜空を見上げた。

 夜空にはドヤ顔のジャックが大きくホログラムで投影され、その周りから七色の光のシャワーが溢れ出している……。


 確かに凄い魔法なんだろう……しかし周りの空気は一気に冷めてしまった。


「ジャックさん酷いです! せっかく幻想的な雰囲気だったのに!!」

「……おかしいな? かなり高度な魔法を使ったはずなのだがね」


 ユナの抗議に、ジャックは不思議そうな顔で眉をひそめた。まあ汚い花火だったけど、光の魔法でホログラムまで作れるのを知ったので、いい勉強になった。






「あーすまん。サーラが寝ちまったんで、俺はそろそろ帰るわー」


 俺たちがどうやって口直しするかを話し合っていると、ナカミチはサーラを抱きかかえて帰り支度を始めた。


「おぶって帰るのも大変だろう。サーラはリヤカーに乗せて、今日は馬で帰るといい」

「じゃあ私が送って行きます」


 リトナ村の地酒と葉に包んだ残り物をぶら下げたナカミチは、サーラを背負ってユナと一緒に馬小屋の方へ歩いて行った。



「それじゃあ僕たちも帰るとするよ。ミナト、今日は誘ってくれてありがとう」

「もう帰るのか?」

「俺たちは明日の朝から依頼があるんだ。街外れの空き家で起こる謎の物音の正体を探るっていうな。面白そうだろ?」


 王都の中での冒険っていうのも、確かに面白そうではあるな。


「そうかあ、依頼が終わったらまた遊びにきてくれ」

「わかった。また遊びに来るよ」

「じゃあまたな! お土産も貰っていくぜ」


 今日は遅くまでダラダラしているのかと思っていたが、シオンとハルも帰ってしまった。



「仕方ないな。サキさん、調理台だけ家に運んでくれんか? あとは俺とティナでやるから広間で飲み直してていいぞ」

「うむ。そうさせて貰おう」


 サキさんは調理台に酒と残った食い物を乗せて、ジャックとエミリアと一緒に家の中へ戻っていった。






 河原に残った俺とティナは、二人で後片付けをしている。

 ジャックがそこら辺に弾き飛ばした光の精霊石と解放の駒をティナが回収して、俺は辺りのゴミを拾って、鉄板と網を洗っている。

 魚介類の生ごみは腐ると酷そうなので、ゴミと一緒に今晩のうちに魔法で燃やした。


「あれだけ賑やかだったのに……終わったあとはこんなに寂しい気分になるんだな」

「ミナト、ここに座って」


 俺はティナに誘われるままその隣にしゃがみ込んだ。

 小さな木の枝を渡されて、隣のティナと同じように枝を垂らすと、枝の先が明るく光る。


「線香花火かあ……」


 今までろくに友達がいなかった俺は、生まれて初めての賑やかさと寂しさを経験した。

 ティナと一緒に線香花火を見ていると、次第に周囲の静けさにも慣れてきた。


「落ちた。芸が細かいな」

「今日はもう打ち止めね。家に戻って調理台も拭かないといけないわ」

「サキさんとナカミチが好き勝手やってたからな」


 俺とティナは鉄板と金網を持って調理場に戻ると、ベトベトになった調理台を磨いた。






 俺たち二人が食器まで洗い終わって広間に戻る頃には、ジャックとエミリアは帰った後だった。広間ではサキさんが一人でミシンを掛けている所だ。


「サキさん汗かいてたでしょ? その浴衣も洗うからザブンしてきなさい」

「うむ」


 サキさんはティナに言われて浴槽へザブンしに行った。ザブンしたサキさんはすぐに風呂から出てきて、今日は腰にタオルを巻いてから、着替えを取りに部屋へと戻った。


「昨日のエミリアの一件で反省したのかな?」

「そうみたいね」


 俺たちも自分の部屋で浴衣を脱いで、新しく買ってきたパジャマに着替えることにした。



「このパジャマは最悪に恥ずかしい……」


 俺はいつものように駄々をこねて、少女趣味全開の恥ずかしいパジャマをティナに着せてもらった。


「ほら鏡見て。可愛く映ってるでしょ?」

「うん!」


 俺はティナとお揃いのパジャマを着れていることが嬉しくて仕方なかった。


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