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第77話「ナカミチが拾った少女」

 魔法の花火にはしゃいで随分疲れてしまった俺たちは、すっかり日の出を過ぎた頃に目が覚めた。


「あれほど思い切り魔法を使ったのは人生で初めてだ。在学中にティナ君と出会えていたら、私も真面目に魔法の修行をしていたかも知れないね」

「そうなのか?」

「学院で教わる魔法は私の琴線には響かなかったのだよ。だが花火は美しかった。私はああいう魔法の方が好きだ……」


 俺の隣で歯を磨いていたジャックは、その手を止めてしみじみと呟いた。



 朝の歯磨きと洗顔を終えた俺たちは、朝食を作っているティナ以外の全員でテントを納めたり馬を繋いだりしている。

 ようやく最後の馬を繋ぎ終わった時、一足先に出発した乗合馬車の一団が俺たちの横を通り過ぎた。先頭馬車の御者席に乗ったロブが特徴的な背の高い帽子を持ち上げて俺に会釈したので俺も軽く手を振って答えた。

 なぜか馬車の乗客たちも俺たちの方に向かってそれぞれに手を振っていたが、俺には何の事だかさっぱりわからない。


 最後尾の荷馬車が通り過ぎた時、荷馬車の後ろから外の景色を眺めていたハルと目が合ったので互いに手を振り合ったが、大きく乗り出したハルが荷馬車から落ちそうになってシオンに引っ張られる間抜けな様子を見せつけながら、一団は走り去って行く。



「シオンとハルは一足先に王都に到着するだろうな。俺たちも早く帰ろう」


 俺はキャンプ場のテーブルで朝食のサンドイッチをかじりながらみんなに言ったが、食後の後片付けや調理道具を荷馬車に収める作業をしていると、出発は随分先の話になってしまった。






 道中は何事もなく過ぎて、俺たちが王都に戻ってきたのは昼を大幅に過ぎた頃だ。

 俺たちは王都の西正門でジャックの荷馬車からガーゴイルの石像をエミリアの荷馬車に移し、ジャックとはここで別れることになった。


「ではニートブレイカーズの諸君、今回の遺跡探索は有意義であった。私も随分勉強になったが諸君らも更に励みたまえ!」

「ミナトよ、わしとユナは積み下ろしの作業を手伝いに同行する」

「白髪天狗にリヤカー付けて行けよ。買い取り分の金貨を持ち運ばないといかんからな」

「そうしますね」

「帰りに蹄の手入れもして来るから少し遅くなるやもしれん」

「わかった」


 ユナはリヤカーをハヤウマテイオウから移して、サキさんと一緒にジャックの家まで同行した。あっちはユナが付いていてくれるから安心だろう。



 ジャックと別れた俺とティナとエミリアの三人は、まず家の前の森まで行き、そこからハヤウマテイオウで何往復かして家に荷物を運び、最後に残ったガーゴイルの石像をどうするかで悩んでいた。


「荷馬車から降ろせないわね……」

「サキさんいないからな。これは女の子の力じゃ無理だなあ」

「どのみち後で補修するなら工房まで運んでみませんか?」

「エミリアには悪いがもう少しだけ付き合って貰うか。俺たちも市場に食材買いに行かないとだめだし、どうせ一度は街まで行くもんな……」


 俺たちは石材工房まで行ってガーゴイルの石像を荷馬車から運び出して貰った。あまりにも変なポーズの石像なので工房の職人たちは大笑いしている。



「私は一度実家に戻って荷馬車を返してきますね。いらない服も売って来ます」

「ありがとうエミリア。服は良さそうなのあった?」

「魔法の服とドレスを二着頂きました」

「うん、うん。じゃあ後は頼む」


 エミリアとはそのまま石材工房で別れて、俺とティナはハヤウマテイオウの蹄の手入れをして貰うことにした。


「サキさんもやるって言ってたからな。どの頻度でやるのか良くわからんが同じ日にやった方が管理もしやすいだろう」

「そうね」

「仕上がるまで暇だからナカミチの工房で仕事の邪魔でもしてやろう」


 俺は馬の看板の工房でハヤウマテイオウを預けて、新しい蹄鉄も引き続きナカミチが作ったやつをお願いした。






 馬を預けた俺とティナはナカミチの工房の扉を叩いた。


「ナカミチおるかー?」

「おるぞー……ミナトとティナちゃんか。こっちに来るのは珍しいな。まあ入ってきなよ」


 ナカミチはサキさんが作った作務衣を着て頭に黄色いバンダナを巻いていた。もの凄く決まっていると思う。本人も気に入ってるみたいだ。


「まあ。凄く似合ってるわね。渋いわ……」

「やっぱコレだよな。サキさんに礼言っといてくれよ。そんで今日はなんか用か?」

「馬の蹄鉄交換するのに暇だったんで寄ったんだけど」

「そうか。まあゆっくりして行け。おいサーラ! こいつらに茶でも入れてやれー!」

「はーい」


 ナカミチは工房の奥の方に声を掛けると、なんだか可愛らしい返事が聞こえてきた。



 俺は不思議に思いながら何だか良くわからない物を作っているナカミチの作業を見ていたのだが、奥から湯飲みを持った小さな女の子が出てきたので焦ってしまった。


「はいどうぞ」

「ありがとう……」

「どうぞ」

「ありがとう。頂くわね」


 俺とティナに湯飲みを渡してくれたのは身長130センチくらいの小さな緑髪の女の子だ。ティナと違って声が幼いので本気でヤバい年齢だと思う。


「ナカミチおまえ……いつかやると思ってたが誘拐してきたのか?」

「バカ言え! お得意先に納入した帰りに拾ったんだよ。身寄りが無くなって裏路地で生活してるっていうじゃねーか。どうしても放って置けんかった。可愛かったし!」

「こういうの勝手に拾ってきて大丈夫なのか?」

「流石の俺もやべえと思って役所の兵士に聞いたら好きにしろっつーから、好きにさせてもらったんだよ」


 この子はサーラと言う名前で二日前に拾ったらしい。ううむ……真正ロリコンのナカミチなんかと一緒にいて大丈夫なのか?



「まあ……当人同士が幸せならそれが一番だろう。サーラだっけ? 俺はニートブレイカーズのミナトだ。ナカミチとは故郷が同じなんでよろしく頼む」

「ティナよ。困ったことがあったら何でも相談してね」

「はい! サーラです。よろしくお願いします!」


 サーラはボロいスカートの端を持ってお辞儀をした。


「おいナカミチ、着る物くらいちゃんとしてやれよ。まさかと思うが替えの下着も無いとか言うふざけた事になってないだろうな?」

「………………」


 ナカミチは口をあんぐりしたまま忘れてたポーズを顔芸で取った。



「バカか。服屋の場所くらい知ってるだろ? 今日は店じまいして買って来いよ」

「いいんです。拾って頂いただけでも幸せなのに、そこまでして貰うわけには……」


 慌ててフォローするサーラの言葉を遮って、ナカミチが立ち上がった。


「すまんミナト、今日は店じまいにするわ……」

「今なら銭湯も空いてるだろ? 石鹸も買ってちゃんと風呂にも入れてやれよ」


 俺はナカミチに金貨50枚を渡した。ユナの時もそうだったが、最初は金が掛かるんだよな……。


「おい、いいのかこれ?」

「服とか下着とか靴とか、全部一つじゃ足りないだろ? 日用品も寝床も食い物も二人分になるんだぞ。鏡と湯沸かし器の工賃だと思って取っておいてくれ」

「なんかわりぃな……」

「いいのよ。それよりも早く街を回らないと日が暮れてしまうわ」

「おう! じゃあ行ってくるわ。サーラ、こっちだ」


 サーラは俺たちに頭を下げてから、ナカミチの後を駆けて行った。



「ナカミチはあんな性格だから、はっきり言えない子だと苦労しそうだな」

「案外尻に敷かれたようになるかも知れないわよ」


 ティナは面白そうに笑っている。それはそれで見てみたい気もするな。

 俺たちは馬印の工房に戻って、ハヤウマテイオウの蹄の手入れが終わるのを待ってから市場に向かい食材を買った。






 俺とティナが家に帰ると、玄関の中に置きっ放しの荷物はそのままだった。ユナとサキさんはまだ帰ってないみたいだ。


「やっぱり自分の家は落ち着くな」

「そうね。でも、今晩は洗濯物が大変よ?」


 ティナが夕食の準備を始めて、準備の合間に勝手口の通路を魔法の水で洗い流していたので、俺の方は浴槽の埃を魔法の水で流したり、荷物を各部屋に運んだりしていた。

 テントとかは広間の隅に置いてあるが、そろそろ棚のようなものが欲しいところだ。

 俺はカスタムロングボウを二階の廊下に収めて、ようやく一段落ついた。



 俺が広間のテーブルで消耗した精霊石の補充を行っていると、ユナとサキさんも帰ってきた。サキさんは珍しく銭湯には行かずにミシンを始めている。

 ユナはジャックが買い取った魔道具の代金を俺に報告してきた。適正価格はカナンの町で自由行動をした時にエミリアが調べておいたらしい。


「まず必要経費ですが銀貨2万枚頂きました」

「えらい多いな」

「魔法の矢の代金とか色々含めてこれで良いかと聞かれたので了承しました」

「ネタばらしは出来ないから仕方ないか……」

「買い取りについては魔法のペンが銀貨1万2000枚、魔法の指輪が銀貨8000枚、魔法の甲冑が銀貨13万4000枚、魔法のダガーが銀貨3万9000枚です」

「もの凄い金額だな。ジャックの方もバカでかい宝石とか持って帰ってたが、そんな現金良く家にあったな」


 俺は頭が痛くなってきた。これが外周一区の経済力なのか……。



 今日はナカミチに渡した分を含めて、蹄の手入れに石像の補修、食材を買って銀貨2950枚を使った。それを差し引いて今回の冒険で得たのは銀貨21万50枚、手持ちの資金と合わせると総資金は銀貨32万8590枚だ。


 資金ではなく資産と言った方が良いだろうな……。

 ギャンブルやマネーゲームにだけは手を出さないように気を付けよう。俺がそう宣言するとみんなもそれに同意した。






 夕食の準備ができるまで時間があるので、俺はユナとサキさんを連れて風呂場で洗濯をすることにした。何せ雨や泥が跳ねたりと、外套も含めてかなりの洗濯物がある。


「俺とユナで洗っていくからサキさんは脱水頼む。これだけ多いと一仕事だ」

「物干し竿が足りなくなりそうですね」

「足りなくなったら携帯用の物干し竿も使おう」


 携帯用の物干し竿は家の購入と共にお役御免かと思われたが、意外にもエミリアの荷馬車の中で活躍している。特に今回は大活躍した。

 ユナの予感は的中し、結局物干し竿が足りなくなって、最後は魔槍グレアフォルツまで物干し竿になった。槍を物干し竿にするのは久しぶりだ。


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