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第74話「駆け出し冒険者」

「ミナト、こっちの方は酷い。早く治してやれい」


 膝を付いた戦士風の男の肩を掴んだサキさんが俺を急かした。しかし傷の状況がわからないとどうにも出来ない。

 俺は強駒に生命の精霊石を載せると、三人ともパンツマンにするようサキさんに言った。


 この冒険者たちは、俺たちと同い年くらいの男三人組だ。がっしりとした戦士風と、少し背が低い剣士風、そして痩せ形で背の高い狩人風だ。

 それぞれの装備は斧、剣、弓といった感じで、防具は最低限の革鎧までといった具合。


「エミリアも来てくれ。簡単な傷くらい治せるだろ?」


 エミリアはユナに手綱を渡して、こっちに歩いてきた。



「回復魔法はあまり得意ではありませんが一応導師ですからね。任せてください」


 パンツマンにされて恥ずかし気に俯く三人の中から一番傷の浅い剣士をエミリアに、一番傷の深い戦士をティナに、残りの狩人は俺が受け持つ感じで回復魔法を使った。

 そういえばエミリアが魔法を使っているのを見るのは、テレポート以外だとこれが初めてかも知れないな。横目でチラッと確認したが、浅い傷なら一瞬で治していた。


「まだ痛む?」

「いえ……全く……大丈夫です……」


 さっそく古代竜の角の杖を使ったティナは、問答無用で戦士の傷を治したようだ。サキさんがワイバーン戦で負った傷といい勝負だったはずだが、俺が癒すよりも随分早い。

 エミリアといい、この辺りは純粋な魔力量の差かもな。俺の魔法だと一度に使えるのは精霊石の容量までなので、効率の悪い魔法は力も小さくなる。



「後で痛い所が出てくることもあるから、ちゃんと治ってるかサキさんが調べてやれ」


 俺たちは三人に魔法の水でシャワーをかけながら血を洗い流して、サキさんに全身を調べさせた。サキさんは喜び勇んであんまり関係ない所まで観察しているので、俺とティナの二人でサキさんの頭に強烈な水を浴びせてやる一幕もあった。


「大丈夫であろう。わしも水浸しになったがの……」


 俺はエミリアの荷馬車から昨日買っておいた予備のタオルを三人に渡して、彼らが無言で服を着るのをずっと眺めている。



「随分大人しいパーティーなんだな……」

「全く君は……余計な気だけは回すくせに肝心なことがわかっていないのだね」


 いつの間にか荷馬車を引き戻してきたジャックが、御者席の上からそんなことを言った。


「ジャック、どういう意味だ?」

「年端も行かない少年たちが裸同然で女性の前に立たされた挙句、三人掛かりの回復魔法で全快したのだよ? 恥ずかしいやら何とやら、これから何を請求されたものか……そう考えると言葉すら出ないものだ。少しは自重したまえ!」

「人聞きの悪い! 俺は何も請求せんぞ!!」

「世間の常識は違うのだよ。親切以上は毒にもなる。君はもう少し勉強したまえ」


 ジャックは俺たちを置いて、そのままカナンの町へ向かって荷馬車を動かした。

 こいつらもカナンの町まで帰るんだろうから乗せて行ってやれば良いのにと思ったが、ティナもサキさんもエミリアも出発の準備を始めたので、俺も仕方なくそうした。






「あのまま放置して良かったのかなあ」

「ジャックさんが言ったことは一理ありますよ。何も要求しないことを伝えるにはあの場所から立ち去るのが一番わかりやすかったんじゃないでしょうか?」


 俺はエミリアの荷馬車の中で、ユナにやんわりと諭されていた。

 しかしゴブリン四体であの傷か……特に戦士の子は放って置いたら町まで持たなかったはずだ。本来なら俺もああなっていたのかも知れない。やっぱりサキさんは凄いなあ。


 俺たちがカナンの町に着いた頃には夜になっていた。この調子だとあの三人が町に入るのは夜中になるだろう。



「荷馬車は確実に管理された宿に預けたい。少々高いがこの町で一番高価な宿に部屋を取ろう。それで良いかね?」

「宿をケチって盗まれたら元も子もない。一番安全な宿に泊まろう」

「では諸君、付いてきたまえ」


 ジャックが案内してくれたのは、三階建ての大きな宿だ。一階の部分は石造りになっていて……この宿はレスターに連れられて俺とティナが歌った場所だ。


 ジャックはユナに荷馬車を任せて、宿のカウンターで部屋と馬小屋を手配してきた。


「持てない荷物は宿の倉庫を借りた。馬の世話も荷物の運搬も全てやってくれる。ただ時間が遅いので、申し訳ないが三部屋しか取れなかった」

「十分だ。二人ずつに別れよう」

「では私とサキ君でツインを貰おう。残りのツインとダブルは女性陣で別けたまえ」


 ユナはツインとダブルの鍵を渡され、ツインの部屋をエミリアに、ダブルの部屋をティナに渡した。賢明な判断だ。


「私はどちらでもいいです」


 俺は無言でティナの手を握った……。


「決まったようだね? 部屋で準備を済ませたら宿の入り口で落ち合おう。この宿には浴場があるので、町の酒場が閉まる前に夕食を済ませるのが賢明だ」



 俺たちは各部屋で荷物を置いて、宿の入り口に集合した。


「ジャックはカナンの町に詳しいのか? おすすめの酒場があったら案内してくれ」

「いいとも」


 ジャックはシルクハットを被り直し、魔法のステッキを振り回しながらカナンの町を歩いた。闘牛士のような派手な衣装も手伝って、どこからどう見てもただの遊び人だ。






「ここがおすすめの一つだ。いくつか良い店があるのではしごして回るつもりだ」


 ジャックは小さな焼き鳥屋のような場所に案内してくれた。そういえばカナンの町は鶏が名物だと出発前に言っていたな。

 狭い店内はモクモクと煙が立っていて、客は全員カウンターですし詰めになりながら焼き鳥と酒を飲んでいる。

 俺は勝手がわからないのでジャックに全部お任せコースで注文して貰ったが、ジャックとサキさんとエミリアの三人はいきなり酒を飲み始めた。


 店の主人は注文があろうがなかろうが次々に焼き鳥を焼いているようだが、焼けば売れるといった感じで、俺たちの所にもすぐに皿が来た。


「あら美味しいわね……」

「ほんとだ。初めて食ったが軟骨が美味い」


 カナンの町の焼き鳥は美味かった。俺はもう一本欲しかったのだが、ジャックに急かされて次の店へ行くことになった。



 続いて案内されたのはステーキの店だ。ここも良くわからないので注文はジャックに任せたが、ジャックとサキさんとエミリアはここでも酒を注文した。

 この店は空いていたので四人テーブルを二つ繋げて料理を待っていると、アサ村で食べたような懐かしい味の小さなステーキが出てきた。


「ユナ、この味はアサ村で食った肉の味に似てるぞ」

「前に教えてくれた丸焼きですね。なるほど……美味しいですね」

「では次の店に行こうではないか」

「まだ行くのか?」


 俺はパンでも一緒にかじりたかったのだが、ジャックは許してくれなかった。



 今度は定食屋のような店に案内された。客層はおっさんばかりの店だ。ジャックとサキさんとエミリアはここでも酒を注文している。

 この店はカナンの町に伝わる家庭料理を出す店らしい。俺たちは大皿をいくつか頼んでみんなでつついた。


「なるほどなあ。冒険者の宿みたいに雑なとこじゃ無ければ普通の料理もあるんだな」

「参考になるわね。壁に手書きのレシピがいっぱい書いてあるわ」

「メモるか?」

「そうね」

「サキさん魔法のペン貸せよ」

「うむ」


 サキさんから魔法のペンと羊皮紙を受け取ったティナは、壁のレシピをメモし始めた。


「そろそろ次の店へ行こう」

「すまんが俺とティナはここでリタイヤだ。もう食い切れんしティナがあんな感じなんで」

「それは残念。ではここで別れるとしよう」

「ユナも行ってきてくれ。サキさんでは何処を回ったのか覚えてないだろうからな」

「わかりました」


 ジャックはサキさんとエミリアとユナを連れて次の店に行ってしまった。

 俺はティナが満足するまで待ってから、一緒に宿まで戻った。あの四人はいつまで回るのか知らないが、二日酔いでダウンなんてことにならなければ良いが……。






 宿に戻った俺とティナは、着替えと風呂用具を持って宿の浴場に向かった。カナンの町の銭湯はもう怖いので、宿に浴場があるのは有り難い。

 次からカナンに立ち寄ったときはずっとこの宿を使おうと思う。


 この宿の浴場は一階にある。俺とティナは脱衣所で服を脱いでから、さっそく浴場に入った。もう夜も遅いので俺たち以外には誰もいない。

 俺は体と髪を洗い終わったあと、いつものようにティナが洗い終わるまで隣で待っている。

 こうして二人だけで風呂に入ったのはいつ振りだろう? あの頃の俺は自分が洗い終わったらさっさと湯船に浸かっていたっけ……。


 今日の俺はおかしいな。昼間に会った三人組の冒険者の時もそうだが、何かと付けて最初の頃を思い出してしまう。

 ティナが洗い終わって大きな浴槽に並んで入っているときも、俺はずっと無言だった。



 風呂から上がった俺とティナは、バスタオル一枚のまま脱衣所の洗面台で歯を磨いて、汗が引っ込んでから服を着て部屋に戻った。

 家のようにバスタオル一枚でうろうろ出来ないのはこういう時に不便だな。サキさんならタオル一枚でも平気なんだろうけど……。


「今日は色々と疲れてしまったな」

「そうね。まさか遺跡探索の後でここまで戻るなんて思わなかったわ」


 俺とティナは魔法の風で髪を乾かしたあと、魔法の櫛を通してからネグリジェに着替えた。宿に泊まる時は使おうと思って持ってきたのだ。


「今日はもう寝ましょう」

「そうだな。明かりを消そう」


 解放の駒から光の精霊石を外してティナと同じベッドに寄り添った瞬間、俺は遺跡の魔術師二人の姿を思い出して、自分でもわからないうちに泣いていた。


 あの老魔術師の寂しさとか執念のようなものが、未来の自分と重なってしまったからだ。

 もしもティナを失ったら、俺も同じ道を辿るのだろう。そう考えると感極まった。


「どうしたの?」

「……抱っこして」


 ティナに抱っこしてもらうと気分が和らいで安心してくる。俺はティナに頭を撫でられながら、やがて眠りに落ちた。


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