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第72話「遺跡探索④」

 黒い骸骨が居たと思われる部屋から再び十字路に戻ってきた俺たちは、さらに奥へと進んだ。

 すると今度は丁字路に突き当たった。


「十字路じゃなくて良かった……今回も右の方から探索しよう」


 俺たちが右の通路を進んで行くと、その通路は途中から大きくUの字を描くようにカーブしていた。カーブした通路が終わって再び直進すると、目の前に二つの扉がある。

 扉の一つは正面に、もう一つは左の壁側だ。


「ジャック、この扉は大丈夫か?」

「……正面の扉は大丈夫そうだ。左の扉は若干魔力を感じる。後回しにしようかね?」


 そう言うと、ジャックは相変わらず迷いもなく正面の扉を開いた。



 扉の先にはサキさんの部屋と同じくらいか少し狭い部屋になっていて、部屋の左側は一面がガラス張りのようになっている。

 ガラスのように透ける壁から見えるのは、ガーゴイルが居た部屋よりもさらに大きな空間で、この空間は全てが明るく部屋の奥まで見渡せるようになっていた。


「左の扉はここから見える大きな空間に入るための出入り口なんだろうな」

「ミナトさん、一番奥の方は牢屋みたいになってますよ」


 透明な壁越しに見える大きな空間の一番奥は、一面が全て独房のような牢屋になっていた。俺には何の為の空間なのか見当も付かない感じだ。


「この部屋は木の椅子しかないのだな。扉を開くようなスイッチもなさそうだし……」

「このガラス割れんかの?」


 サキさんが蹴りを入れたりしてみるが、全く割れるような気配はなかった。






「左の扉を開けてみるかね……」

「若干の魔力とやらは大丈夫なのか?」

「空間を満たしている明かりの魔力だったみたいだ。心配いらんよ」


 ジャックは全く緊張感の欠片もない笑顔を見せながら左の扉を開く。


「もう慣れて来たな。でも俺はクサビで扉が閉まるのを防ぐぞ。何でも慣れてきた頃が一番危ないからな」


 扉の先は正面の部屋から見えていた大きな空間で、光源の位置は不明だが明かりもある。

 部屋の奥は一面が全て鉄格子になっていて、鉄格子の奥は壁で仕切られていた。


「奥の牢屋は五部屋ありますね。見たところ何もないみたいですけど」

「真っ暗い遺跡なのにこの空間だけ明かりがあって不気味なんだよ。俺は入りたくないな」

「では私が軽く見て来よう。戦士の君、付いてきてくれるかね?」


 サキさんが俺の顔を見るので、俺は頷いて見せた。


「何かあったら、例え落とし物をしても無視して戻って来るんだぞ」

「うむ」


 サキさんは俺に魔槍グレアフォルツを渡してからジャックの後を追った。サキさん、実はグレアフォルツのことが気に入っているのかな?

 俺とティナとユナは、扉の入り口で待機している状態だ。



 ジャックとサキさんは鉄格子の奥を覗きながら何かないかと探しているようだったが、牢屋の端から端までを確認すると、俺たちの所まで戻ってきた。


「何もなかったわい」

「そうか。何事もなくて良かった」


 全員が扉の外に出たので、俺はクサビを外そうと扉を少し押してみたのだが、扉は頑として動かない。


「あれ? 強く押し込み過ぎたかな?」

「外れんのか? 貸してみい」


 サキさんが扉を押してみるが、やはり動かなかった。ムキになったサキさんがクサビを足で蹴り飛ばすと、クサビが外れた扉は物凄い力で閉じてしまった……。



「危なかったわい……」

「クサビ打っといて良かったな。サキさんでも動かせないんじゃ閉じ込められていたぞ」

「遺跡は怖いわね……」


 俺たちは扉の向こうが気になって正面の部屋から覗いてみたのだが、先程まであったガラスのように透明な壁はただの石畳の壁に変わっていて、もう二度と扉の向こうを確認することはできなかった。


「引き返そう……」

「ああ……私も以後気を付けることにしよう。また一つ勉強になったよ」






 俺たちはカーブした道を引き返して丁字路まで戻ってきた。


「このまま直進だな。さっきのこともあるから十分警戒して行こう」

「そうですね……」


 こちらの通路はカーブを描くことなく、ずっと直進の通路だ。この通路に入ってから、石畳だった材質がコンクリートのような材質に切り替わる。


 少し歩くと右手に扉が現れた。


 扉は遺跡の最初にあった書斎のような部屋と同じようにスライドして開ける扉のようだが、扉全体が内側から膨らんでいて今にも外れてしまいそうだ。

 この状態ではスライドして開けるのは無理だろう。壊して開けるしかなさそうだ。


「これは開けても大丈夫そうか?」

「……なんだこれは? 本能的に開けたくない気がしてならない」

「トラップの扉か?」

「違うわ。この扉は絶対に開けてはだめ……」

「残念だがこの扉は無視しよう。私の手に負える代物ではないよ……」


 恐らく魔力感知なのだろうが、俺にはサッパリわからない。ただ、ジャックがあっさり引き下がるという事は相当ヤバい代物なのだろう。

 逆に興味が沸いてきてしまったが、俺も無視することに決めた……。



 俺たちはさらに通路の奥へ進むが、右手に扉があるものの通路はここで終わっている。


「ここが最後の扉かな? ここから先は床も壁も天井も土が剥き出しだ」

「この扉は大丈夫そうだ。色んな魔力を感じるが、恐らく大丈夫だ」

「ねえ、何だか人の気配のようなものを感じるんだけど……」


 ティナが怖いことを言い出したので、俺も精霊力感知をしてみたが、特に人の気配のようなものは感じ取れない……。


「だが開けてみないとわからないだろう? 私は開けるぞ!」


 言葉の勢いとは裏腹に、ジャックはそろりそろりとスライドする扉を開いた。






 扉の奥は小さな小部屋になっていて、部屋の左右には本棚と机、部屋の突き当りにはカーテンが掛けられている。


 そして、カーテンの手前には魔術師のローブを着た何者かが倒れていた──。


「……生きているのか?」

「そんなはずはない……この遺跡を作った魔術師だろう」


 ジャックが部屋に入ったので、俺はサキさんに倒れている魔術師を警戒するように指示して部屋の外に待機している。

 現在部屋に入っているのは、ジャック、ユナ、サキさんの三人で、魔術師を警戒するサキさん以外は本棚の本を調べている。俺とティナは扉の前で待機している状態だ。



「ここの本は大丈夫そうか?」

「殆ど崩れているがね、いくつかは保護の魔法が掛けられていて大丈夫そうだ……これは魔装置関連の資料だろう……見たところあまり感心できる内容の物ではない……」


 ジャックは保護の魔法が掛けられている本と資料を机に移動させていたが、あまり数は多くないようで、全て合わせても両手で運べる程度しかない。


 本棚を調べ終わったジャックは、今度は机の引き出しを開けて中を調べている。

 一応使えそうな物は全て机の上に出したようだが、ペンとメモのようなものが数枚、それからダガーと魔法の杖のような物が一本ずつ、宝石の入った革袋が一つ出てきた。

 革袋の革は崩れてしまったので、ジャックは手持ちの麻袋に宝石を移し替えている。


「終わったのか?」

「あとはそこの魔術師からローブを剥がすくらいだよ。恐らく魔法のローブだから高く売れる。諸君らの取り分にすると良い。戦士の君、中身の解体を手伝ってくれたまえ」


 ジャックに言われたサキさんが俺の方を見たが、俺は首を横に振った。



「ジャック、待ってくれ」


 俺も部屋に入って、この遺跡の主だったであろう魔術師の姿を見た。

 ただの亡骸だと思う……は、白骨化することなくミイラのようになっているが、まるで地面を這うような格好で倒れている。伸ばした腕の先は、部屋の奥のカーテンに向かっているようだ。


「その魔術師は大丈夫だろう……サキさん、このカーテンを開けてみてくれ」

「うむ」


 サキさんは暗幕のような分厚いカーテンをゆっくりと開けて行き、途中で手が止まった。


「どうした?」

「人が寝とる……」


 俺とジャックがサキさんの脇からカーテンの奥を覗くと、そこにはベッドがあり人が寝ているようだった。


「ふむ……」


 ジャックがステッキを振って魔法の明かりを灯す。ベッドで寝ているのは魔術師のローブを着た青い髪の女性だ。見た目は20代半ばくらいじゃないだろうか?



「これは珍しい。古代の魔術師が保存の魔法で原型を留めているのは初めて見た。これは死んだ直後に処理されたのだろうね……諸君らも触ってみたまえ」

「死んでおるのか? 生きているようにしか見えぬが……」

「今の魔術師が使える保護や保存の魔法とは、魔力も技術も桁違いなのだよ。君が持っている魔法の槍も傷一つ付かないだろう?」


 確かにそうだ。不思議に思っていた謎が一つ解けたな。


 俺とジャックとサキさんがカーテンを開けて話し合っていると、ティナとユナもその場に集まってきた。


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