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第6話「カナンの町」

 昨晩遅くまで騒いでいた者があまりにも多かったので、サジルさんの判断で朝の出発を四時間ほど遅らせることになってしまった。

 だからカナンの町に着くのは昼を大きく過ぎた頃である。

 この遅延は俺たちにとっては少し困った問題だ。カナンに到着後、そのままアサ村に移動しようと考えていたのだが、四時間も遅れると道中で夜になる可能性が高いので、今日はカナンの町に一泊する必要が出てきたのだ。


 朝の身支度を終えた俺とティナは、朝食をハムと野菜で挟んだパン一つで軽く済ませたが、足元に転がっているサキさんは二日酔いで死んでいた。

 あ……定刻通りに到着してもこれじゃあアサ村へは移動できなかったな。

 唸るサキさんを荷馬車に突っ込んで、乗合馬車はカナンへ向けて再出発する。どうせ途中で暑くなるだろうから最初からパンツマンにしておいてあげた。


 今日は朝からずっとパンツ詩人の練習が続いている。一曲でも多くのレパートリーを増やしたいと言って、メロディーを覚えているようだ。

 俺は今日も荷馬車の先頭席に腰掛けていた。使用人の男たちとの会話も弾んで、この世界の知識も少しは身に付いた気がする。

 退屈しない時間はあっという間に過ぎて、乗合馬車はカナンの町に到着した。



「ニートブレイカーズのみなさん、護衛の依頼ありがとうございました。少し予定が狂ってしまいましたが、特にティナさんのおかげで酒や食料が飛ぶように売れましたので……少しばかりのお礼として報酬額は上乗せさせて頂いております」


 手渡された報酬を確認すると金貨が7枚あった。本来の報酬額は銀貨250枚なので、銀貨100枚分が上乗せされたことになるわけだ。

 総資産は銀貨367枚であるが、銀貨100枚はティナの取り分だと思ったので、俺はリーダー権限で金貨2枚をティナに渡した。



 サジルさんにお礼を言って別れたあと、使用人の男から聞いておいたおすすめの宿で部屋を取ることにした。

 カナンの町は王都に比べると圧倒的に小さい町だが、そこそこ大きな町になるらしく、品揃えもある程度充実していて、宿などは王都よりも安いらしい。

 何とか自分で歩けるくらいには回復したサキさんの荷物をいくつか持ってやり、とりあえず宿を取った。

 この宿も一階部分は食堂兼酒場になっていて、二階の部屋を一つ手配する。一部屋銀貨12枚。王都の半額近いが、ランプや水は別料金だと言われたので色々なオプション料金を払うと、合計で銀貨16枚になった。

 隣接する銭湯は一人銀貨6枚。町の周りは全部森なので、王都に比べて薪の入手が容易いのだろう。


 宿に全ての荷物を置いて出るわけにもいかないが、まだ復活しないサキさんが留守番してくれるというので、俺とティナは着替えと風呂用品を持って先に銭湯へ行くことにした。






 銭湯に入るまで気が付かなかったが、俺は女湯に入らないといけないのだな……。

 カウンターで金を払って挙動不審になりながら脱衣所に入る。現実世界にいた頃の俺なら喜んでいたかも知れないが、今となっては男湯ののれんが恋しい。

 まだ日が高いうちに来たのが幸いしたか、俺たち以外に客はいない。

 女湯というから全面ピンクタイルだったらどうしようかと思っていたが、木と石造りの落ち着いた風呂場であった。


 俺は掛け湯と同時に石鹸で髪をワシャワシャっと洗い、そのまま顔をゴシゴシっと洗い、適当に体をサクサクっと洗い、頭から適当にばさばさーっと何度か湯を被って湯船にざぶーんしたのだが、ティナはまだ顔を洗っていた……。



 俺は湯船に浸かりながらティナの動きを観察している。あまりにとろくさいので何時までやるのか興味が沸いてきたためだ。

 洗顔のあとは丁寧に体を洗っているが、なんか足の指の間まで洗ってるようだ。こまけえな……もうこの時点で二十分は経ってる気がするんだが。


 髪は石鹸をワシワシと泡立ててから、頭皮をゆっくり揉むように洗って、髪の部分は軽く洗うだけで済ませている。

 石鹸を良く洗い流したあと、俺も持ってきたはずだが結局何に使うのかわからなかった謎の液体を風呂桶の水に垂らして、良くかき混ぜた湯を髪の毛全体に流している。

 それからもう一度湯で洗い流して……終わったのかな? もう三十分以上経っているぞ。

 俺が半分のぼせて、湯から上がろうと大股で湯船を跨いだとき、ティナにちょいちょいと手招きされた。


 はい、そうですよね……。



「ここ、座って」

「いやもう面倒くせーし……」

「座って」


 俺は渋々ティナの前に座った。

 このあとは、くんずほぐれつキャッキャウフフになるのかと少し期待する側面もあったが、謎の液体を薄めた湯を髪に掛けられただけで済んだ。

 頭をすすがれると、石鹸でキシキシいっていた髪がサラサラに戻る。リンスみたいなものだったのか?


「なんだこれすげえな!」

「この世界のお酢かも。使わないと髪が痛むわよ」


 すっかり湯にのぼせた俺は、ティナを置いて脱衣所で涼むことにした。

 ティナが体を洗っているさまを観察していてわかったが、ティナのおっぱいは小振りで、俺の方が三倍くらい大きい。


(良し勝った……!!)


 俺は脱衣所でガッツポーズを決めようとした所で正気に戻り、自己嫌悪するのであった。






 その後汗が引くまで暫くティナと脱衣所でくつろいでいたのだが、良い頃合いになったので服を着ることにした。

 俺がパンツとズボンを穿いて、インナーシャツに頭を潜らせたとき、ティナがシャツを引っ張る。


「一昨日買ったでしょ? ちゃんとブラ付けなさい」


 そいや買うには買ったが、特にいらんのでどうでも良いと思ったのだが。


「ここ」

「あ……」


 ティナに指さされた所を見ると、ペラペラのインナーシャツから乳首の形がクッキリと浮いていた。


 これは恥ずかしい。どうしよう。俺はどうすればいい?



「荷馬車のおじさん達がずっとそれ見てたの気付かなかった?」

「──────!!」


 確かに昨日上着を脱いだ時に、ティナが何かを言いたそうにこっちを見ていたのを、俺は無視して……そう、汗でべちゃべちゃに張り付いた……。

 俺は適当に持ってきた袋の中から自分のブラジャーを取り出して、ティナに渡した。


「先生お願いします」


 俺は乳バンドで締められた複雑な男心を抱いて銭湯を出た。

 もう宿に戻って引き籠りたかったので寄り道しないと言うと、サキさんが銭湯に行くときは、俺が持っていた予備の部屋着を着て出るように伝えろと言われる。

 どういうことか良くわからなかったが、俺はそのまま宿の部屋に戻った。






 部屋に戻ると復活したサキさんが起きていた。俺はティナの言い付け通りにサキさんを着替えさせる。

 サキさんが着替えている途中、やり場のない今の気持ちを話してみた。風呂場での出来事を話すと、サキさんは窒息しそうなくらい笑って床を転げまわって、ヒィヒィ言っている。うぜえ。


「女子力5のわしが言うのも何だが、ティナの女子力はわしのオカンより高い」

「まじかよ」

「お主らも満喫してきたようだから、わしも満喫してくる。遅くなるかも知れんが……ハァハァ、気にせんでくれ!!」


 俺から銭湯代を受け取ったサキさんは、タコのようにヌルヌルとした動きで銭湯に向かって行った。



 一人で部屋にいると暇で仕方なく、俺は窓のそばに椅子を置いて町の様子を観察していた。

 ティナが戻って来たのは二時間ほどしてからだった。


「何してたん?」

「着替えを買ってきたの。ほら、これよ」


 そう言ってさっさと着替えはじめる。やたらかわいいノースリーブのブラウスと、フリルの付いたひざ丈のスカートに新しいエプロンを掛けると、俺にも着替えを渡してきた。


「ミナトの服も買って来たから、早く脱いで」

「なんでまた?」

「今着ているのは洗濯するからよ。古い下着もここに出して」


 腰の下まである長い髪をまとめながら言うティナ。

 女子力5のサキさんが脱ぎ散らかした服もまとめて折りたたむと、自分の服と一緒に洗濯板の上へ乗せる。

 俺も自分の脱いだ服をくるくるとまとめて重ねたあと、風呂用品の袋から下着を取り出して、その上にほいと投げた。



「使った下着は見えないように、服に挟んで出しなさい」

「ハイ……スミマセン……」


 俺は言われた通りにした。何だかどんどん躾けられているような気がする。


 ティナが洗い場に向かったあと、手渡された服を恐る恐る手に取った。

 物凄くかわいい服だったらどうしようと思って警戒していたが、風通しの良い半袖の上着と、カッチリとしたハーフパンツの二点だった。

 ちゃんと俺が抵抗無く着られるようなのを選んできたな。


 着替えた俺は部屋をウロウロした。やっぱり姿見がないと落ち着かないな。ちゃんと似合っているのかどうかも自分で確認できないのはとても不安だ。

 ティナの手鏡をテーブルに置いて下がってみるが、小さくて良くわからなかった。


 とりあえず着替えたので、俺も洗濯を手伝おうと洗い場へ向かった。もう二時間以上経つがサキさんは帰って来ないし。






 洗い場は宿の裏だ。

 井戸の横に水路があって、そこを伝った水が少し離れた場所に貯まるようになっている。他の利用客もいるようだ。俺は洗濯しているティナに声を掛けた。


「暇なんで手伝いにきた」

「助かるわ。洗うのは私がするから、ミナトは脱水してちょうだい」

「絞るのか? どうすんだ?」


 すすいだ服を手渡されて困っている俺に、隣にいたおばちゃんがやり方を教えてくれた。


「お嬢ちゃん洗濯も出来ないのかい? やだねえ、これはこの板に挟んで……こうやって押したり踏んだりするんだよ! フン! フンッ!」

「絞らないんですか?」

「あたしゃ旦那の服なら親の仇のように絞るけど、女物はシワになるからダメだね」

「そっすか……」


 どこの世界も同じようなものなんだな。



 おばちゃんのサポートもあって、洗濯は二十分くらいで終わった。物干し竿はサキさんのロングスピアにした。3メートルもあるので丁度よい長さだ。

 パタパタと振るって干していくが、下着も普通に干しているので、隠さなくても良いのかとティナに聞くと、洗ったあとならOKらしい。


「洗う前のは汚れているから、気を使わないとダメよ」


 そういうもんかね。ティナに聞いたら教育されそうなので、また今度サキさんに聞いてみよう。女子力5だけど。



 洗濯が済んだので部屋に戻ってきたが、サキさんはまだ銭湯らしい。あのバカ何時間いるつもりなんだ?

 俺たち二人はちゃんと働いたので、リーダー権限で甘い飲み物を注文した。


 コン、コン、コン。


 部屋でドリンクを飲んでいると、誰かが訪ねて来た。


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