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第67話「エミリア君」

 今日はテーブルに朝食が並んで少し経ってからエミリアが家に来た。


「遅れてすみません。荷馬車と儀式テレポートの準備に手間取りました」

「今日は朝食いらないのかと思った」

「そんなことはありません! それとティナさんはこれを使ってください」


 エミリアはティナに細めのドラムスティックのような杖を渡していた。


「正式な杖はそんな感じなのか?」

「このタイプが取り回しのしやすさで一番人気があるんですよ。学院を卒業してもずっと愛用する魔術師が多いです」

「どうだ?」

「私は指輪よりも杖の方が向いてると思うわ」


 ティナは杖を軽くスイングさせながら言った。俺は千切りにしてバターで炒めたキャベツがいっぱい詰まったホットドッグを頬張りながらそれを見ている。



 今日は時間を掛けずに朝食を終えて、俺とティナとユナは調理場を片付けていた。

 サキさんは馬に荷物を載せて自分も武装したあと、西正門まで行ってジャックを魔術学院の前まで移動させる手筈だ。


 エミリアも一足先に魔術学院に帰ったので、俺は念入りに家の戸締りを確認してから馬に乗った。今日はティナと俺がハヤウマテイオウに乗り、現地で使う調味料と一緒にユナがリヤカーに乗っている状態だ。






 俺たち三人が魔術学院の正門まで来ると、いつもの門番はそのまま俺たちを中に通した。エミリアが話を通していたのだろう。


「前回のグラウンドみたいな場所に行くらしいな」

「そうみたいね」


 学院内を暫く移動すると、前回と同じグラウンドのような場所に出た。前回来た時は暗くて良く見えない部分も多かったが、晴れた下で見ると芝生のない競技場のような場所であることが判明した。

 数名の魔術師が控えた場所に、エミリアが持ってきた四頭引きの荷馬車も見える。



「荷馬車二台は無理なので、二回に分けてテレポートさせます。場所はカナンの町近くの草原辺りです」

「わかった。手順はエミリアに任せるので指示してくれ」


 俺が背負い袋と毛布とリヤカーに積んでいる調味料をエミリアの荷馬車に移していると、奥の方からサキさんと大きな荷馬車の姿が迫ってきた。


 ジャックが借りて来た荷馬車は六頭引きで巨大だ。どれだけ持ち帰る算段だよ……。



「冒険者の諸君! 確かに経費は私が持つ契約だが、儀式テレポートまで依頼するなどという話は聞いておらんよ!!」

「お主には請求せぬから黙らんか!」


 面倒臭いことを言い出しそうなジャックをサキさんが一喝した。

 ジャックはシルクハットに闘牛士のような派手な服を着て、荷馬車の脇にはステッキのような杖を立て掛けている。あれがジャックの魔法の杖かな?



「随分大きな荷馬車ですね……まずミナトさんたちが私の荷馬車ごと先行してください。こっちの六頭引きは単体で後追いしますから、テレポートしたらすぐにその場を離れてくださいね」

「わかった。白髪天狗のサキさんはそのまま、ハヤウマテイオウはティナで、俺とユナは荷馬車に乗ろう。サキさん、馬の荷物を荷馬車に移しておけ。槍も邪魔だから荷馬車に入れておけよ」

「うむ」


 俺とユナがエミリアの荷馬車に乗り込んで所定の位置まで移動すると、それに合わせてサキさんとティナが左右を固めてくる。

 それを見計らうようにして、儀式テレポートの魔法陣が発動した。






 俺たちがテレポートした先では、もの凄い雨が降っていた──。


「ミナト、雨が振っとる!」

「言わんでもわかる! まずこの場から移動するぞ。少し我慢してくれ!!」


 俺は荷馬車を街道側に50メートルほど動かしてから止めた。

 エミリアの荷馬車は幌が大きく御者席の先まで迫り出した構造なので雨が降っても平気だが、そのまま馬に乗っているティナとサキさんは悲惨な状態だ。


「荷馬車の後ろに馬を繋げて中に入ってくれ」


 サキさんが馬を繋いでいる中、ティナはリヤカーの幌を広げてから、二人は荷馬車に滑り込んだ。


「二人とも大丈夫か? 風邪引いたらかなわんし、すぐ着替えた方がいいぞ」

「そうさせてもらうわね」

「酷い雨である。荷物を移動させておいて正解であった」


 身軽な方がすぐに移動できると思って荷物を移動させていたのだが、危うく全員の荷物までズブ濡れになる所だった。



 俺がサキさんの鎧を外してやっていると、ジャックの荷馬車もテレポートしてきた。

 あっちは御者席まで幌がないタイプなので最悪だな。


「向こうは悲惨ですね」


 俺とユナはジャックの荷馬車を眺めていたが、二人で何かを言い争ったあと、荷台の幌に避難しようとするエミリアのローブの裾をジャックが引っ張って御者席に引きずり出し、自分が幌の中へ引っ込んでしまった。


「今の見ました?」

「見た」


 ジャックは荷台から御者席のエミリアに何か言っているようだが、観念したエミリアは荷馬車を動かしてこちらに向かってくる。






 雨でぐちゃぐちゃになったエミリアをこっちの荷馬車に回収していると、雨具の外套を被ったジャックが荷台から顔を出した。


「エミリア君、酷いではないか! 予め天候を調べておかなかった君の責任だよ!!」


 そういえばエミリアはかなり正確な雨情報を持ってきたことがあったな。なるほど、準備を怠ったエミリアを責めている訳か。


「ジャックさん、さっきのはあんまりですよ。外套があるなら一度二人で幌に入れば良かったのに!」

「諸君らは知らないだろうから教えておいてあげよう。その女が出入りした研究室は必ずゴミ部屋になるのだよ。荷馬車がゴミぐるまになったら荷物が運べなくなるじゃないか」

「やっぱりそうなのか?」

「そうだとも。私も酷い方だがその女はもっと酷い。諸君らも気を付けるように。それから、ゴミリ……エミリアを連れて来るのは聞いていなかったぞ」

「こいつもパーティーの一員だからな。俺たちの事は調べたのだろう?」

「う、そう返されると何も言えん……だがその女を遺跡に入れるのだけは依頼主の権限として許可しないので、そのつもりでいて欲しい!」


 ううむ。ジャックがここまで嫌がるってことは、やっぱりエミリアは相当酷いのかもしれない……。

 俺は着替え終わったサキさんと一緒に雨具の外套を被って馬に乗り、カナンの町まで移動した。






 現在は俺が先頭、エミリアの四頭引きの荷馬車、ジャックの六頭引きの荷馬車、最後尾にサキさんという隊列でカナンの町の中心部まで移動している。


「ティナ、食材の買い出しも必要だが、この調子じゃ夜は冷えるしタオルも足りん。初日に買ったボロい外套もいつまで持つかわからん」

「わかったわ。私とサキさんで買い出しに行くから、みんなはここで待機してて」


 ティナは外套を被ると、サキさんと買い出しに出かけた。ユナはトイレを借りに近くの宿まで歩いて行ってしまった。


「ジャック、この雨だがどうするんだ?」

「この時期は仕方ない。エミリア君が確認を怠ったので何時止むかも見当が付かないから、私としてはこのまま進むことを希望するよ。遺跡に入ってしまえば問題ない」

「わかった。ジャックの外套は大丈夫か? 一応予備を買わせに行っている」

「何? それは有り難いことだ。エミリア君もこのくらい気が回ればいいのだがね」



 暫くしてユナがトイレから戻ってきた。


「鶏の足の美味しそうなのが売ってたので人数分買って来ちゃいました」


 葉を敷いた小さな木箱に、美味そうな鶏が詰まっている。良く見つけてきたな。朝は食ったはずだが美味そうだったので、俺はそのまま食うことにした。


「ジャックもこっちに来て食わんか?」

「ほほう、カナンの町の名物ではないか。是非頂こう」


 俺とユナ、エミリアとジャックの四人で鶏をかじり終えて、残りの二つがすっかり冷えてしまった頃になって、ティナとサキさんが大荷物を持って帰ってきた。






 必要な物を補給した俺たちは、ティナとサキさんを荷馬車で休ませて、俺とエミリアが馬に乗った状態でカナンの町を後にした。

 ここから先の行き先はジャックしか知らないので、六頭引きが先頭になっている。

 カナンの町にいたときは一時弱まっていた雨だが、町を出て三時間ほど過ぎた辺りから次第に激しさを増してきた。

 風が無いので横殴りの雨じゃないのが唯一の救いだ。


「ジャック、まだか?」

「目の前に薄く山岳が見えるだろう? その辺りのはずだよ。ここはもう街道から外れた場所なんでね、諸君らも足を取られないよう気を付けて進んでくれたまえ」


 ジャックの言う通り、カナンの町から西へ延びる街道を北に逸れているので道が悪い。

 俺は後ろの荷馬車に横付けして、警戒を指示した。


「街道を逸れたら何が出るかわからん。特にサキさんはすぐ飛び出せるようにしておいてくれ」

「できておる。ミナト、そろそろ交代せい」

「こっちのリヤカーじゃだめだろ。エミリアと交代しろ」


 完全武装に外套を被ったサキさんがエミリアと交代するので、俺たちは一度休憩を取ることにした。各自その辺でトイレを済ませたり、雨が浸みてきた外套を交換したりしている。

 俺も鞍に溜まった雨水が下着まで浸透して気持ちが悪かったので着替えをした。替えのズボンがないので、今は久しぶりに普段着のハーフパンツが活躍している。


「ミナトも交代する?」

「いや、荷馬車だと状況がわからなくなるから、山岳に入るまでこのまま行く」


 俺は精霊力を充填する前の魔法の矢を矢筒に3本ほど入れて、自分のカスタムロングボウを背負った。






 山岳に近付いてくると、道中に生えていた大きな木の姿も次第に減ってくる。俺たちが緩い上り坂を登りきったところで、先頭のジャックが足を止めた。


「どうした?」

「ここを下った先に遺跡が隠されているはずなんだがね、どうやら先客がいるようだ。諸君らの活躍を期待するよ」


 ジャックが指差した方を見ると、下り坂の先にある巨大な岩が転がった場所に大きな鳥のような生き物が止まっている。ざっと数えただけでも八体は確認できた。


「遠すぎて良くわからんな。向こうも気付いてないみたいだ。みんなを集めて来るから馬が鳴かないように気を付けてくれ」


 俺は後ろの荷馬車に合図を送って、この場に全員を集めた。


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