第63話「サキさん指名!?」
昨日は早めに寝たこともあって、俺とユナは日が昇る直前に目が覚めた。
「こんなに早く起きるのも久しぶりな気がしますね」
「ティナはもう起きてるのかな?」
俺は寝癖を直して洗顔用のヘアバンドを片手に部屋を出た。
二階の廊下から広間を見下ろすと、テーブルの上には本や巻物のような物が山積みにされ、今もエミリアの講義が続いているようだった。
山積みの本を見る限り、エミリアは何度もテレポートを繰り返してここに持ち込んだのだろう。
「二人とも徹夜だったのか?」
「おはようミナト。あれからずっとやっているのよ……」
「おはようございます。もう朝になっていたんですね」
ティナの方は随分疲れた感じになっているが、エミリアの方は元気だった。エミリアは自分が楽しいと気力が充実するタイプなんだろうか?
「今どこまで進んでるんだ?」
「ティナさんはすでに魔霊石を作れる段階なので、このままやれば今日中に終わります」
「そんなに詰め込んで覚えられるのか?」
「数学的なものじゃないから殆ど理解できたわ。あとは実習くらいね……」
「そうなんです! 普通は何カ月も掛けて理解する話をその場で理解して貰えるので、教えるのが面白くて仕方ありません!!」
大丈夫なんだろうか……この調子だとエミリアの講義は当分続きそうだ。
俺とユナは朝の支度をして、布団を干したあとは簡単な朝食を作り、今日はサキさんを呼んで女子部屋のテーブルで食べている。
広間に居るティナとエミリアには、軽くつまめる食事とお茶を出しておいた。
「ティナとエミリアは見ての通りだし、今日は三人で冒険者の宿に行ってみるか?」
「仕方あるまい」
「今回は情報収集だけですし、それでいいと思います」
俺とユナが食器を片付けている間にサキさんが馬の準備をして、朝のうちに冒険者の宿まで行くことになった。
王都内では服を買うときとか、サキさん不在で行動することが意外にも多い。この組み合わせで街に出るのは、実は今日が初めてかもしれないな。
俺とユナとサキさんは、宿の前に馬を繋いでから一階の酒場へ入った。
強面親父と会うのも十日振りだ。サキさんの一人凱旋パレードが噂になってなければ良いのだが……。
「なんだお前らか。先日は派手に振る舞ってくれたようじゃねえか」
やべえ……何とかしてサキさん一人のせいにしたいところだ。
「このバカが一人でやったので俺は関係ないです」
「結構噂になってるぜ」
「嫌だなあ。おいサキさん、お前のせいだぞ!」
俺は自分の肘をサキさんの脇腹に押し付けながら抗議した。サキさんは自分が噂になっているのが嬉しかったのか、俺を見下ろしながらニンマリ笑う。この顔、むかつく!
「まあいいけどよぉ、お前らが派手に宣伝したおかげで指名の依頼がいくつか入ってきてんだ」
宿の親父はカウンターの下にある書類箱のような物をゴソゴソとかき回して、俺の手元に四枚の依頼書を置いた。
「中には意味不明な依頼もあるから無視していいぜ。受ける受けないも自由だ」
「こういうのは断ると評判下がったりするのか?」
「いんや。条件が合わずに断る奴も結構いる」
俺は依頼書を手に取って、一枚ずつ内容を確認した。
「えーと、ニートブレイカーズの歌姫に歌って欲しいうんぬん……報酬銀貨4000枚」
「なんですかそれ?」
ユナは知らないか。俺はユナにカナンの町での一件を手短に説明した。
「この依頼を受けるにはレスターっていう変な吟遊詩人が演奏しないと無理だ。レスターを見つけてきたら引き受けると依頼主に伝えてくれんか?」
「いいだろう」
俺はレスターの特徴を伝えて、一枚目の依頼書を強面親父に返した。
懐かしいな。変な奴だったけど楽しかったし、是非もう一度会ってみたい男だ。
「二枚目は……ほう、これはサキさん個人の指名だな」
「なんと! はよう読み上げてくれ!!」
「美少女を三人も連れ回すハーレムパーティーの秘訣を教えてください。報酬銀貨500枚」
「………………」
「サキさん受けろよ。いつものように男らしく胸を張って教えて来い」
「わしはそんな風に見られておったのか……」
「はぁ? 違うってのかい? 初めて見たときはとんだ色物パーティーだと思ったぜ」
カウンター越しの親父がとどめを刺した。
「この依頼はサキさんが適当に話をするだけでもいいみたいだから受けてやれよ」
「わかった……」
「親父、サキさんが引き受けるみたいだから処理してくれ」
「いいだろう……意味不明すぎて断ると思ったんだがな……こいつは毎晩ここの馬小屋で寝起きしてるから、また夜にでも来てくれ」
「三枚目は護衛の依頼だな。遺跡探索の護衛依頼だ……報酬は必要経費のみか? なんだこれ?」
「遺跡!?」
ユナが目を輝かせて食い付いてきた。いや、遺跡っぽいところを見学しに行くのも良いだろうとは思っていたが、この依頼はちょっとキナ臭いだろう。却下だ。
俺は三枚目の依頼書をユナに手渡して、四枚目の依頼書を読んだ。
「最後の依頼書もサキさん指名だ。もう有名人だな」
「良いことではないか」
「サキさんが愛用している武器を買い取りたいだって……親父、この依頼主ってどんな奴なんだ?」
「依頼主は武器マニアの好事家だ。たまに指名で来やがる。意地の悪い奴は適当な武器を買って愛用品だと渡しに行くみたいだが……」
「どうするのだ?」
「数日前まで愛用してたロングソードあったろ? ボロボロになるまで使い込んでる剣だし、金なんか貰わんでも譲ってやれよ」
「愛着はあったがの。まあ良かろう」
「親父、この依頼も受けるので、依頼主の場所を教えてくれ」
「その依頼書は持ち帰っていい。そこに書いてある場所まで直接行け」
変な依頼ばかりだったが、個人を指名した依頼まで来るっていうのは良いものだな。
「さて俺たちは帰るか。サキさんは今日中に二つの依頼をこなして来いよ」
「待ってください。この依頼は受けないんですか?」
ユナは三枚目の依頼書……遺跡探索の護衛依頼を俺に突き出してきた。
「確かに遺跡には行ってみたいが、その依頼は駄目だろう。護衛付けなきゃいかん場所なのに報酬が必要経費のみって……人助けでもないのに無報酬だと、俺はリーダーとしての責任を果たせなくなる」
「うー……」
「ご主人、わしらは遺跡を見てみたいのであるが、近くにそういった場所はないか?」
「遺跡なら王都にもあるぜ。街の中にいくつか公園があるだろ? 観光用に保存された遺跡があるんだよ。入場料は取られるがな。王立の博物館もあるぜ」
それは知らんかったな。公園なら何度か通り抜けたが、出店や芸人のパフォーマンスしか見てなかった。
「王国が管理してる安全なのじゃなくて、馬で日帰りできるような遺跡はないのか?」
「そんな手軽なのが見つかったら、冒険者どもでごった返しちまう。それにウチは古代遺跡の依頼は専門じゃねえ。他所で見つけな」
「え? 冒険者の宿ってここだけじゃないのか?」
「もちろんだ。王都には駆け出し専門の宿から、街の揉め事専門、古代遺跡専門てな具合にいろんな宿がある。遺跡専門の宿に行くこったな」
「俺は親父に面倒見て貰いたいんだがなあ……」
「うるせえよぉ!!」
強面親父は顔を真っ赤にして鼻をつまんだ。
「ねえミナトさん、この依頼どうしても駄目ですか?」
「うーん……」
参ったな。ここで却下するのは簡単だが、あまり不満を溜め込ませても良い事はない。
特に昨日の今日で遺跡探索の依頼ともなれば、ここで無下に扱うのもしこりが残りそうだしなあ……。
「親父的にはこの依頼どうなんだよ?」
「こいつは交渉次第だ。遺跡探索で見つかったお宝の分配方法とか、そういうのを最初に決めておくんだな。魔物ばかりのハズレもあれば財宝の山もある。古代遺跡はそういう場所だぜ」
「じゃあ依頼主と話だけでもしてみよう。直接交渉に行くから場所を教えてくれ」
「依頼書に書いてあるだろ。パーティーや個人を指名した依頼は本人にしか見せねえから、依頼主の名前や所在は依頼書に直接書いてある。覚えときな」
「そうだったのか。覚えておこう」
俺は親父から三枚の依頼書を受け取って、そのうちの二枚をサキさんに、遺跡探索の依頼書はユナの手に持たせてやった。
サキさんは早速一つ目の依頼をこなすため、白髪天狗に乗ってボロボロのロングソードを取りに帰った。サキさんのはタダ働き同然だが、宣伝くらいにはなるだろう。
「そういえばサキさんがぶっ壊した調理場の衝立どうしようか?」
「そうですね……衝立を迂回して出入りするのが微妙に面倒だと思ってたので、サキさんにのれんを縫って貰いませんか?」
「いいアイデアだな。あいつがぶっ壊したんだから責任もって縫わせよう」
「それと、ゴミ箱代わりのバケツをいくつか買いませんか?」
ユナに言われるまで忘れていたが、我が家にはゴミ箱がなかった。
生ごみとかは適当に河原で焼いているのだが、元いた世界のようにゴミ箱行きの梱包材に囲まれた世界ではないため、本当に不思議なくらいゴミが出ない。
発砲スチロールの箱もなく、いらない木箱は崩して窯の燃料にする。そんな世界だ。
これが一人だと文明から隔離された不便で寂しい生活に感じるんだろうが、毎日仲間とやっているせいか楽しくて仕方がない。
この日、俺とユナはのれんの生地、ゴミ箱代わりのバケツを三個、浴槽で使うティナ用の座椅子を一つ作って貰ってから家に帰った。




