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第58話「真夜中の襲撃」

「良い湯だったわい。一人で寂しい以外は銭湯よりも良い」


 風呂で温まり直したサキさんは、腰にバスタオルを巻いただけの姿で広間の椅子に座っている。

 サキさんは部屋から酒を持ってきて、先日捕獲した魚の骨を燻製にしていたつまみを容器に漬け込んで飲んでいた。つまみはティナが作っておいたのだろう。


「もう雨が降る日は大人しくうちで入れよ。白髪天狗が可哀想だろ」

「うむ」



 サキさんが一人で飲んでいると、エミリアもうちにやってきた。ちゃんと着替えたようで、エロい女教師風の服を着ている。


「カナンの奥でも激しく降っているそうなので、明日も一日雨でしょうね」

「明日は家で大人しくしている方が良さそうだな。その服はどんな感じだった?」

「似合っていると褒められました。普段話し掛けてこない学院長先生が、何故か私が入学した頃の昔話をしてきたり……」


 学院長先生は良い人そうだな。いつまでも色気付かないこの女を心配していたのかも知れんなあ。


「良かったな。今日はパジャマに着替えて寝ろよ。下着も毎日替えろよ。寝るとき面倒臭いからと言ってブラジャーのホックだけ外して寝るなよ」

「なんでそのことを知ってるんですか!?」

「ティナが言ってた。ちなみに俺は寝るときも付けてるから」

「うううん……」

「そこに洗った服と下着掛けてあるんで忘れずに持って帰れよ」






 全員が揃ったところでティナが夕食を運んで来た。今日はサキさんの要望通り超特大ステーキだった……サキさんだけ。

 他のみんなには普通のサイズのステーキが並んだ。


「サキさんのお肉凄いですね」

「いくらなんでも限度があるだろ。見ているこっちが胸やけしそうだ」

「このくらい男なら普通に食うであろうが」

「食わねえよ」

「私は止めたんだけど、どうしてもこのサイズだと言って聞かないのよ」


 俺たちは酒でステーキを飲み流すように食い続けるサキさんを、なるべく見ないようにして食事を取った。食欲が無くなるので。



「エミリア、今日は王都で見掛けた調味料を片っ端から買ってきたんだが、俺たちでも正体がわかるように手伝ってくれんか?」


 俺は部屋の隅に置いた調味料の山を指さした。


「げぇ多い……相当集めてきたようですね」

「とりあえず名前がわかるようにしてくれ。俺たちでは意味がわからん名前の調味料だけ説明を書いてもらう。あと、体に害があるものは仕分けしてくれ」

「流石に全部は記憶してないので、明日は辞典を持ってきて作業しますね」






 エミリアが忘れずに服と下着を持って帰ったあと、夕食の後片付けも済んだところで俺たち三人は風呂に入った。


 脱いだ服と替えの下着、そしてバスタオルをそれぞれのかごに入れて、使った下着と洗濯物は下の洗濯かごにポイする感じで、脱衣所の使用感はまずまず良かった。

 服を脱いだ俺たち三人は、浴槽の蓋を取って端の方に重ねる。蓋は軽いのでティナでも十分取り回しができる重量だ。


「良い感じだな。あとは上がったときにかごの中が湿ってないかが問題だな」

「そうですね。上手く行くと良いのですけど」


 俺とユナはいつものようにティナを待ってから湯船に浸かった。

 今日は浴槽に蓋をしていたせいか、天井にはあまり水滴が溜まっていないようだ。


「換気の課題はそこまで急がなくても大丈夫そうだ」

「蓋があると違うわね」



 俺たちが小さいせいもあるが、浴槽は三人詰めて入ると横に五人、奥に二人で、十人入っても余裕がありそうだ。大きめに見積もったが、少し大きすぎた。


「足伸ばしても向こうの壁に届かないんだよな」

「そうですね」

「…………」


 俺とユナが湯から足を出して向こうに届かないアピールをしていると、ティナも同じようにしたみたいだが顔まで沈んでいった。


「溺れそうになったわ……」


 うちの風呂は流しっ放しで常に湯が溢れている状態なので、ティナの背だと普通に入っても一杯一杯な感じだ。足を延ばすと俺でも首まで浸かった状態になる。


「座椅子っぽい物が必要だなあ。ちょっと俺の膝に乗ってみる?」


 俺はティナの手を引いて、自分の膝に乗せた。特に抵抗されなかったので俺も気にしなかったが、湯船の中で裸同士が密着してしまい、非常にエロい体勢になった。


「重くない? 落ちないように抱いてみて」

「おう……こうか?」


 ティナの体に両手を回して抱き付くと、まあ安定はした。

 俺のおっぱいはティナの背中に密着して押しつぶされているし、脚は交互に絡んでいるし、目の前にはティナのうなじが数センチのところまで迫っている。


 もう精一杯になっているところでティナが俺の両手に手を添えてきたので、完全に雰囲気に流されてしまった俺は両手でティナの体を強く抱きしめ、きれいな首筋に唇を押し当てながら目を閉じた……。



「あのー。ミナトさーん」

「は!? 俺なんもしてないよ?」


 ジト目のユナに名前を呼ばれて、俺は我に返った。これはちょっと言い訳できない感じだ。何とかして誤魔化すしかない。


「今度は浴槽と同じ素材の座椅子を作ってもらおう」

「それはいいんですけど、ティナさんが固まってるので何とかしてください」


 俺の膝に乗ったままのティナは、真っ赤な顔をして小さく丸まっていた。


「危うく受け入れそうになったわ……」

「俺もなんか変な気分になってた。こういうのは危険だな」

「二人とも気を付けてくださいよ」


 俺たち三人は互いに笑って誤魔化しながら、微妙な空気感が残る風呂を出た。ちなみにかごの中の着替えは湿っていなかった。






「サキさんはもう寝たのかな?」


 風呂から上がった俺たちがバスタオル一枚で広間に出ると、ミシンの前にサキさんは居なかった。

 俺たちは広間の明かりをそのままにして、部屋で髪を乾かしたあと洗濯をして歯を磨いた。開けっ放しの風呂の木窓からは雨の音が響いている。


「部屋干しだから風を当てておきましょう」

「六時間くらい持つ弱駒でいいかな?」

「それでいいわ」


 俺は左右二カ所に解放の駒を置いて、風の精霊石を載せた。


 これはサキさんが言い始めたのだが、強い解放の駒を強駒つよごま、弱い解放の駒を弱駒よわごまと呼ぶのがパーティー内で定着しつつある。

 いまいち駒の呼び方が安定しなかったので、俺は積極的に使い始めていた。


 夜の日課が終わった俺たちは部屋でコロコロをしたりしていたが、良い時間になってきたのでベッドに入って寝ることにした。






 夜中、突然もの凄い音が響いて目が覚めた。

 ドン! ドダダダダ! バン! という感じの物音がして、俺はベッドから飛び起きた。もの凄い音だったので、ティナとユナも目を覚ましたようだ。


「雷でも落ちたんでしょうか?」

「わからないわ。怖いわね……」

「窓の外を見てみるか」


 俺は部屋の木窓を開けて、魔法の明かりで玄関の方を照らしてみた。相変わらず強い雨が降っているが……それ以外は何もない。


「俺が先に部屋を出て、何かあったら石の壁を作る。二人は廊下の奥にある武器を頼む」

「わかりました」

「……行くぞ!」


 俺は解放の駒に光の精霊石を載せて、勢い良く部屋のドアを開けた。



 二階の廊下は何もない。辺りを照らすとサキさんの部屋のドアは開いているようだ。しかし部屋からは光が漏れていない。

 俺は恐る恐るサキさんの部屋を確認するが、中には誰もいないし、荒らされた形跡もなかった。


「下の方を確認しましょう」


 先頭にレイピアを構えたティナ、その後ろに俺、少し離れた後ろに弓を構えたユナの編成で、俺たちはゆっくりと階段を降りた。


「調理場の入り口の衝立が壊されてる。やっぱりなにかあったんだ……」

「ミナトさん、グレアフォルツは壁に掛かったままですよ」

「ミナトの魔法で調理場の奥を照らしてみて」


 俺は魔法を使って調理場の奥を照らした。ティナは調理場の奥へ、ユナは弓を構えたまま風呂場の入り口に立った。



「お風呂は何もないです」

「勝手口が開いてるわ」

「馬小屋の範囲まで一気に照らすから用心して外に出てくれ」


 俺は光の精霊石を掴んで、一気に効果範囲を広げた。ティナは勝手口の左右を確認して、サンダルのまま外に飛び出して行く。


「きゃあ! サキさん、サキさんっ?! ミナト来て!」


 ティナの声に慌てた俺は、魔法が途切れたのもお構いなしにティナの元へ駆け寄った。



 勝手口を抜けて馬小屋の方へと掛けた俺とユナは、トイレのドアから足がはみ出した状態でうずくまっているサキさんを見つけた。


「うわ! 臭い! なんだこれ!?」


 ティナに支えられるようにしてヨロヨロと立ち上がったサキさんは、小さな声で何かを呟いている。


「食い過ぎて吐いた」

「当然だバカ野郎」


 俺はサキさんの頭を叩いた。こいつは吐きそうになって慌ててトイレに駆け込んだのだろう。俺はトイレをチラ見したが、残念ながら間に合わなかったようだ。


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