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第568話「ロソン村」

 再び丸太に乗って移動していると、遠くの空がぼんやり明るくなってきた。

 結局、徹夜になってしまった。

 地形に足を取られない分、馬で走るよりも遥かに早く移動できてはいる。

 だが、道に沿って移動しているおかげで効率は良くない。

 この辺りも雪に覆われているから、一度でも道を見失ったら面倒なことになる。

 暗闇の中でも迷子にならない目印があれば、一直線に飛んでいけるのだが……。


「いい加減、冷えたわい。ロソン村はまだかの?」

「もう少し我慢してくれるかい? この速度なら日が昇るまでには着くと思うよ」


 旧カヌエの町を出てからの時間はそれほど経っていない。

 むしろ、マシン村から旧カヌエの町までの移動時間の方が長いくらいだ。

 とは言え、旧カヌエの町を無駄に一周したり、戦闘で消耗した心労も積み重なって、そろそろ限界といったところ。

 ちなみに俺だけは、魔法の鎧の効果で全く寒さを感じない。

 蜘蛛人間の体液が染み込んだ防寒具はその場で捨てたから、俺が一番寒そうな見た目をしているのだが。


「凍傷になるぞ。一度休憩しよう」

「だの……」


 何の舗装もされてない道。

 人や荷馬車が通らなくなれば、こういう道はすぐに荒れる。

 休憩しようと降り立ったまでは良かったが、どうしたものかな。


「あそこ、何かの小屋かしら?」


 ティナが魔法の明かりを向ける。

 小屋と言っても、木の角材で囲いがあるだけの、あまりにも簡素すぎる建造物だ。

 壁も屋根もないから、雨風は凌げまい。


「まだ朽ちてはいないね」


 小屋の所まで行くと、雪に埋もれた幌のような生地が見える。


「破れた天幕てんまくの一部が落ちただけか……」

「王国軍のテントと同じ型ね。モロハ村で見た事があるわ」


 巨大ミミズの時だな。

 言われてみれば形状が似ている。


「ちょうどいい。生木の枝に天幕てんまくを巻き付けて、松明の代わりにしよう」

「よかろう」


 サキさんは手頃な木の枝を切り落として、引き裂いた天幕てんまくを巻き付けた。

 雨の多いオルステイン王国の軍用テントなら、ろうやオイルで撥水はっすい加工してあるはずだ。

 ただの布切れと違って、そう簡単に焼け落ちる事はないだろう。


「俺のはいらんから、三本ほど作ってくれ」

「うむ」


 手に持てる松明なら、指先を温めるのにも向いているだろう。


「これは良い。気に入ったわい」

「焚き火もするならテントの角材がいいかもな。俺はもうちょっと奥を見てくる」


 三人が暖を取っている間、俺は道の奥まで進んでみたが、感じ取れるのは動物の気配だけだ。

 こちらを遠巻きに見てはいるが、近づけば向こうから逃げる。

 時折、獲物を外した矢が見つかる。

 一本だけならハンターの矢かもしれないが、五本、六本と数えるうちに、この辺りで何らかの戦闘が起きたことを確信させた。

 雪が地面を覆い隠しているから何も見えないが、どこに何が埋まっていてもおかしくない現場だ。


「戻るか……」


 俺は誰に言うでもなく呟いて、崩れたテントの場所まで戻った。


「少し行った先で戦闘の跡を見つけた。ロソン村に近い証拠かもな」

「それならロソン村まで急ぎましょ」


 ここに長居しても仕方がない。

 俺たちは火の後始末をしてから一直線に移動した。

 いい加減、周囲も明るくなってきたことだし、目星の付いた方角に進めば大丈夫だろう。





 暫く丸太移動で一直線に飛んでいると、突然森が開けたような場所に出た。


「ロソン村に入ったかの?」


 道ではない所を飛んできたせいで、中途半端な場所から入村したようだ。

 結構しっかりとした作りの柵もあるから、村の中に入ったのは間違いないと思う。


「とりあえず村の中心まで行ってみよう」

「それなら井戸を探すといいよ」


 初期の集落は水場を中心に広がっていくという理屈だな。

 俺たちは村の井戸を探しながら移動した。


「やっぱり荒れてるね。良く覚えておこう」


 いくら雪に覆い隠された状態でも、焼け落ちた家の残骸までは隠せない。

 日常的に使っていたであろう通路は草や木が伸び放題だから、余計に荒れて見える。


「民家は全部燃えてるみたいね」

「村を出るときに燃やしたのであろう。放っておくと化け物が棲みつくからの」


 もう誰も戻ってこない村だから潰したのか。

 数年後に調査したらゴブリンの村が出来ていたなんて話になったら笑えないからな。

 それにしても、だいぶやられたにしては武器や防具が散乱している様子がない。


「魔物の群れから逃げ帰った訳じゃないからね。王国は勝つまでやるし、遺品も残さないよ」


 流石オルステイン王国、魔物の討伐が国是こくぜだけの事はある。

 国是こくぜにするくらい本気だから、何処の誰かもわからない冒険者への金払いも良くて助かるのだが。

 そんな事を考えながら、ようやく見つけた村の井戸は、石と岩で埋められていた。


「ここが村の中心かの?」

「特に何かが潜んでいる気配もないみたいだ。この辺で地上に降りてみるか」


 大雑把に見た限りでは、ロソン村に残っている建物はないようだ。

 粗末な建物の残骸や、竪穴式たてあなしき住居のような盛り土の跡が目に付く。

 徹底的にやっているおかげか、何かが棲みついている反応もない。


「ティナ、一度地上に降りよう。ロロも、満足したらもう帰るぞ」


 だが、ティナは丸太を地上に降ろさなかった。

 ロロの方も、少し様子がおかしい。


「なんだろうね。魔力感知には引っかかるんだけど。この感じ、なんだったかな……」

「まさか、魔法のトラップでもあるのか?」

「微かに魔法の痕跡こんせきというか……。ダメね、私の魔力でかき消えていくわ……」


 何だったのかよくわからないが、少し待ってから、無事地上に降りた。


「ああ、そうだ。何かの召喚魔法がこんな感じだったね。エミリアなら確実にわかったかも」

「何かおるのか? おらんのか?」

「大丈夫だ。何もいないはずだ」


 とは言ったものの、ちょっと不安になったので辺りを見回してみるが、やはり何もいない。


「もう何もないけど、あまり長居したくない所ね」


 まさか、蜘蛛人間の発生源がここだったら嫌だなと一瞬思ったが、きっと答えは出ないだろうな……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ご丁寧に井戸まで塞いであるのか
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