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第566話「戦闘」

 俺たちを追いかけてくる正体不明の敵。

 その数は二体。

 このままでは前後から挟み撃ちにされてしまうが、空中にいる理を生かして、前方から来る一体を飛び越すことにした。


「すれ違いざまに魔法の一つでもお見舞いしてやれ!」


 俺はすれ違う敵の前面に、闇の精霊シェイドを飛ばす。

 木々の隙間から見える敵は、例の蜘蛛人間のような魔物で間違いない。

 だがそいつは、俺が飛ばしたシェイドをかいさず、体当たりでそれを消滅させた。


「魚のようにはいかんの?」

「人間並みの知能があるかもしれん。油断するな」


 そう言ったのもつかの間、今度は蜘蛛人間が炎の球体に包まれた。

 ロロの攻撃魔法だ。

 魔術師の攻撃魔法と言えば、必中で遅延もないいかづちの魔法が最も効果的とされているが……。


「障壁魔法の中に魔物を閉じ込めたの?」

「ご名答。障壁魔法の内側に攻撃魔法を打ち込むことで、効果時間を延ばしているんだ。魔力効率も考えないとね」


 魔力効率なんて言葉は初めて聞いたと思うが、確かにその通りだ。

 ティナやエミリアは底なしの魔力お化けだから魔法の一発が力任せだけど、普通はロロみたいに考えながら使うんだろうな。


「あの障壁はいつまで持つ?」

「炎の魔法でどんどん削られているから、すぐに消えるよ」


 ロロの言った通り、魔法の障壁はすぐに壊れた。

 それと同時に魔法の炎も四散する。


「……どうかの?」


 残念ながら、蜘蛛人間は健在だ。

 全身から白い煙を噴いているから相当なダメージが入っていると思うのだが、火傷やけどのような外傷は見当たらない。


「魔法耐性がありそうだね。その辺で買える魔剣だと厳しいかもよ?」

「ならば腕力で叩っ斬るまでだわい!」


 サキさんは魔剣のロングソードを引き抜くと、空を飛ぶ丸太から飛び降りた。


「また勢いで突っ込みやがって! 俺も降りる」

「勢いなら仕方ない。私も降りるからね!」

「全員で地上戦は不味い。ティナは空から辺りを警戒してくれ」

「そうするわ」


 俺とロロは適度な高さから飛び降りて、蜘蛛人間に向かうサキさんに続いた。





 正体不明の魔物は、その姿形すがたかたちから蜘蛛人間と呼んでいる。

 身長約2メートル。横幅は3メートル超。

 体毛は無く、全身が白色。

 蜘蛛のような胴体から人間の上半身が生えているが、その上半身には腕も首も頭もない。

 肋骨の辺りからムカデのような腕が何本も生えていて、鎖骨の辺りに両の目がある。

 正常進化ではありえない化け物だが、魔法で生み出された感じでもない。

 悪魔でもなさそうだから、まさに正体不明の魔物だ。


「身体強化の魔法を使うよ」

「わかった」


 返事はしたが、身体強化なんて魔法は聞いたことがない。

 しかし、効果はすぐに表れた。

 地面を蹴る脚の力がまるで違う。自分の体ではないみたいな速度が出る。


「サキさん! そのまま蜘蛛人間に斬りかかれ!!」

「そのつもりよ!」


 俺はサキさんを追い越して、まだ白い煙を上げ続ける蜘蛛人間の上半身に毛皮のコートを投げつけた。

 蜘蛛人間には人型の腕がない。

 ムカデのような腕で藻掻もがいても、毛皮のコートを振り払うのは難しいだろう。


「とりゃあーーっ!!」


 一瞬遅れてサキさんが蜘蛛人間を斬り払った。

 腕力にものを言わせた一撃は、蜘蛛の部分と上半身を泣き別れにする。


「分離しても動く可能性がある!」

「わかっとるわい!」


 倒したつもりになって後ろからやられたなんてヘマは絶対にさせない。

 いつも言っていることだから、さすがに忘れてはいないか。


「せい! せい!」


 蜘蛛の部分にとどめの一振り、上半身にとどめの一刺し。


「俺のコートごと突き刺すな!!」

「一体で金貨2千枚であろう? 好きなだけ新しいのを買えばよかろうが!」


 男らしさをはき違えた残念な男の笑い声が響く。


「ミナト! 北の方からもう一体来るわよ!」


 上空から見下ろしていたティナが、新たに一体見付けたらしい。

 ……北ってどっちだ?


「わしが行く」

「ティナはサキさんの誘導! ロロは俺と目の前の敵!」


 すでに目の前まで迫っている最初の二体のうちの一体。

 地上からだと方角がいまいち掴めないが、ティナが見つけた追加の一体。

 下手に退しりぞいても迎撃の機会を逃すだけだから、ここは戦力を分ける。


「植物の精霊よ、迫りくる敵の足にからめ!」


 俺とロロに狙いを定めた蜘蛛人間の足に、つたのような植物が絡みつく。

 が、蜘蛛人間の自重と勢いに負けた足はその場で引きちぎれた。


「足はもろそうだね」


 ロロが魔剣を振り下ろすと、目に見えない風の刃が発生する。

 その刃は、追い打ちをかけるように蜘蛛人間の別の足を切り裂いた。

 だが、蜘蛛人間の勢いは止まらない。


「障壁の魔法だ!」


 俺が叫ぶと同時に、目の前に現れた魔法の障壁。

 それに気付かない蜘蛛人間は、ロロが出した見えない壁に激突した。

 全身がバウンドして吹き飛ぶ蜘蛛人間。

 あまりの衝撃の強さに、魔法の障壁も砕け散った。


「追撃する」


 俺はミスリル銀の大剣を抜きながら、蜘蛛人間との距離を詰める。


「それっ!」


 バランスを崩している今がチャンスと思ったが、蜘蛛人間は軽く飛び退いて攻撃をかわす。


「思った通り、目がいい」


 振り下ろした大剣を、大きく振り上げてけん制の一撃。

 今度は真横に飛び退いた蜘蛛人間。だが、着地の瞬間を狙った風の刃に胴体を切り裂かれる。


「もう一回!」


 身体強化の魔法で鋭く踏み込んだ俺は、ミスリル銀の大剣をフルスイングで蜘蛛人間に叩き込んだ。

 サキさんのようには行かないまでも、蜘蛛人間の活動を終わらせるには十分な一撃だ。

 無論、確実にとどめを刺すまでは攻撃の手を緩めないが……。


「もう大丈夫じゃないかな? 早くサキたちと合流しないかい?」

「そうだな」


 俺とロロは、ティナが作った魔法の明かりを頼りに次の現場へと急ぐ。

 サキさんのやかましい声が聞こえてくるから、別に急がなくても平気だと思うが。


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