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第565話「旧カヌエの町」

 先ほど別れたアマゾネスが一番乗りのはずだから、もうこの先には誰もいない。

 アマゾネスが倒した蜘蛛人間のような魔物が討伐対象で間違いなければ、これでもう正体不明ではなくなった。

 生物学的にどうかはさておき、見た目がわかっただけでもだいぶ違う。


「あれが複数体いたら、いつ出てきてもおかしくないな」

「うむ」


 もはや魔法の使用にも遠慮がない。

 俺たちは旧街道を堂々と進みながら、左右の森林にサーチライト顔負けの明かりを放っている。

 植物の精霊に土の精霊、風の精霊にも語りかけているから、そうそう網の目を抜けて来ることはないだろう。

 この地形で一番索敵範囲が広いと感じるのは、やはり植物の精霊だ。

 間伐かんばつされていない森林の中は風通しが悪いようで、風の精霊は調子が振るわない様子。


「精霊魔法に比べて、魔術師の精霊力感知は範囲が狭いわね」

「精霊力だけを感知する魔法だからね」

「奥の木が邪魔だの。目で見つけるのは無理だわい」


 こうなると植物の精霊頼みか。

 あのアマゾネスは良く見つけられたな。

 人間の足で移動したわりには驚異的な移動距離だったし、魔術師に色々と仕込まれた風だから、何らかの魔法が使えるのかもな。


「反応はあるかの?」

「いや、今のところない……というか、なんか気持ち悪くなってきた」


 ある所を境にして、精霊の質が悪くなったような気がする。

 乗り物酔いみたいな気分だ。

 ちょっと、精霊に語りかけるのは中断しよう。


「何か立札があるわよ」


 街道の先に何かを見つけたティナは、丸太の速度を落として立札に横付けした。


「ここから先は危険地帯って書いてあるわね」


 あまり詳しい内容までは書いてないが、要は立ち入り禁止区域のようだ。

 元々は大きめの立札なんだろうが、誰かのいたずらか、立札の半分が木目にそって割れている。

 危険地帯と書いてはいるものの、ロープや柵のような物は一切ない。

 いくら目立つ場所に立札が設置されていても、街道に一つだけでは迷い込む冒険者もいるだろうな。


「周りの空気が変わったの」

「それ、気のせいじゃないぞ。精霊が病んだか弱っていると思う」


 この辺りから急にしおれた植物が目立ち始め、いやおうでも不気味な空気を感じさせる。

 勘の鋭い奴なら、精霊が見えなくても空気の異変に気付くだろう。


「ティナ、ここから先は少し高度を上げてくれ」

「そうね……」


 俺たちを乗せた丸太は、周囲の木々よりも一段高い場所まで高度を上げた。


「悪い気にあてられそうだから、暫く精霊はなしにする」

「この辺りは旧カヌエの町だと思うよ。ある日突然、一夜にして泥の沼に沈んだらしいけど、それ以降は良い噂を聞かない土地でね」


 ロロの話では、昔は焼き物が盛んな町だったらしい。

 良い土が取れるとかで、オルステイン王国の名産の一つではあったけど、今ではその名残りも全て沼の底。

 ろくな調査もできないから、こうなった原因は未だに良くわかっていないようだ。


「じきに大きな沼以外、何も無くなるんじゃないかな?」


 ロロの言う通り、暫く移動すると何もない場所に出た。

 何もないというか、辺り一帯が泥の色をした沼地に見える。

 魔法の明かりが届く範囲は全て、茶色く濁った泥の沼が広がっていた。





 沼の上空を飛んでいると、沼の水面からうごめくような波紋が広がった。

 最初、大きなナマズが泳いでいるのかと思ったが、少し様子が違うようだ。

 水面から何かが盛り上がって来ているように見える……。


「本当に町一つ飲み込まれているんだね。やっぱり現地調査はするべきだよ」


 そう言ってロロは、盛り上がってくる「何か」の正体を見極めることなく魔法の一撃を放った。


『………………』


 暫くして波紋は消えたが、何かが浮かんでくることもなかった。


「絶対にろくでもない存在だよ」

「だろうの」


 ロロ曰く、好奇心だけで見ていたら取り返しのつかない失敗も起こるらしい。

 全く、その通りだな。


「これも古代の魔法の暴走なの?」

「古代エスタモル王国が滅びた後の話だから、魔法の暴走には巻き込まれていないはずだよ」


 掘り当てたらいけない何かを掘り当てたとか、大方そんな所だろうな。

 町全体が沈んだものだから、旧街道はとんでもない迂回ルートを新たに作らざるを得なくなった。

 それがマシン村の北側まで不自然に南下している旧街道の正体なんだろう。





 俺たちは沼を迂回しながら、引き続き討伐対象を探した。

 全てが沼と化した旧カヌエの町を一周する頃には、空の色も明るみ始めている。

 結局、徹夜になってしまったか……。


「止まらずに、少し速度を落としてくれ」

「何かいたの?」


 沼を一周して元の場所まで戻ってきた辺りから、何かが俺たちの後を付けているような気がする。

 精霊の力を借りている意識はないが、精霊の方から力を貸してくれているのかもしれない。

 はっきりとはしないが、嫌な空気が伝わってくる。


「いまいちわからんの」

「待て、前からも同じのが来てる」


 俺はティナに進路変更を指示したが、相手もこちらに向かって進路を変えた。

 明確に俺たちを獲物として認識していると思う。

 このまま挟み撃ちにされるのは面白くない。

 ここは前から来るやつをやり過ごして、そこから反転攻勢だな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます!! 的確で素早い判断。ロロは頼りになるなあ。 どこかの大食い魔導士とはえらい違い・・・。 全然関係ありませんが、ロロというとオーバーロードに出て来る、リザードマン…
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