第557話「光のコースター」
続いて俺たちは、洗濯機くらいの大きさのある白い箱をガレージから運び出した。
数は2個。すでに開封済みだ。
これの中身だが、俺が知っている範囲で例えると3Dプリンターに似た形をした物体。
機械なのか道具なのかもわからないから、とりあえず「物体」としている。
「結局これは何だったの?」
「天界の端末たい。自分の倉庫から好きなものを出し入れ出来るで」
ティナの問いにテオ=キラが答える。
要するに道具を出し入れできる魔法のATMといったところか。
「ちょうど2個あるから、この端末同士で道具の移動は出来ないのか?」
「端末だけおってもゴミにしかならにゃあ。本体はもうおらん。わらわと同じ存在じゃよ」
ダメか。
どのみち動かすエネルギーも無いので本当に粗大ごみらしい。
「……もしかして、さっきの素体と同じ活動力で動くのかな?」
「ご名答だで」
「仮にこの端末を動くようにして、本体の代わりになる魔装置を開発できたとすれば、二つの端末同士で荷物の受け渡しが可能になるんだよね?」
「人生という時間をドブに捨てる覚悟があるなら、やってみりゃあええ」
「……それならこれは魔術学院行きだね」
「うむ。持って行くかの」
レレは白い箱を魔法で浮かせてから、サキさんと一緒に魔術学院へ向かった。
テオ=キラの返答で、自分の能力では無理だと悟ったようだ。
「あとは光のコースターだけか……」
家の裏には未開封の白い箱が100個以上積み重なっている。
箱の大きさは今までの中で一番小さい。
先程の端末が入っていた箱の半分程度の大きさだな。
中身も軽いので持ち運び自体は楽なんだが、いかんせん数が多過ぎるのが問題だ。
「光のコースター以外に何か入っているかも? 一応開けて調べた方が良いだろうな……」
俺はティナと二人掛かりで白い箱を開封しつつ、中身をあらためて行く。
「光ディスクみたいに何か記録されてないの?」
「テオ=キラ、どうなんだ?」
「これは記録媒体じゃにゃあで。物理的に圧縮してこの形にしとるんじゃわ」
わりと意味不明な説明だが、要するにパソコンで扱う圧縮ファイルと同じことを物理的にやっているのだろう。
この物体を解凍する手段なんてもう存在しないから、今となってはゴミでしかない。
「唯一の救いは、破壊すればゴミが出ないってところだな」
俺はティナの目の前で光のコースターを一つ破壊して見せた。
砕けたコースターは光の砂のように広がって、跡形もなく消え去る。
「光を物質化させて固めてあるんだと。ふと思ったが、天界の技術は光のエネルギーしかないのか?」
「それしか無いっちゅーわけでもにゃあが、エネルギーの根源はそれだで」
なんて話をしている横で、ティナは光のコースターを割り続けている。
消え去る時の光がきれいだからハマったのか?
「ミナトは光の精霊力を感じる?」
ティナに言われて意識したが、光のコースターからは、光の精霊はおろか、その精霊力すらも感じ取ることは出来なかった。
普通は火打石の一瞬の光ですら、微細ながらも精霊力の残り香を感じるものなんだが……。
「全く何も微塵も感じないな。なんだろ? 違和感しかない。幻影でも見せられているのか?」
「幻じゃにゃあで。光のエネルギーを別の何かに変換できるほど、神の技術が特異なんよ」
最近何処かで似たような経験をしたな。
…………。
ダレンシア王国からずっと外洋を南下した先に見付けた大陸か……。
あそこで光のコースターを壊したら、何か違う結果になるかもしれない……。
いや、あそこだけは絶対にダメだ。
油断したら魂まで消滅してしまいそうな気がする。
「光のコースターは元あった場所に戻そうか。こんな素材なら気温や経年劣化で壊れる事もないだろう」
「その方が良いかもしれないわね」
俺とティナは学院に向かった二人が帰ってくるまでに、残りの白い箱を全て開封した。
一応中身は確認したが、全て無色透明のコースターだった。
せめて色分けされていないと中身がわからないんじゃないかと思ったが、いわゆる「神の目」をもって見れば、ちゃんと中身がわかる仕組みらしい。
とことん人間に対して不親切な仕様である。




