第556話「灰色のマネキン」
謎の白い箱も、孤島の斜塔も、テオ=キラがまだ本体を有していた頃の遺物だった。
テオ=キラの話では、白い箱の中見は全て魔術学院に譲渡しても構わないらしい。
人間では到達できない技術で作られた神の遺物なので、研究なんてするだけ時間の無駄、活用もできない、人間にとっては本当にただの粗大ごみだと言われたのだが……。
でもまあ、何かの拍子に解明できたりする可能性もあるからな。
一応、未開封の白い箱も全部開けてみて、何か変わった物が入っていないかを確認してから、レレかエミリア経由で順次魔術学院に納める形にしよう。
家の裏に積んである箱は相当な数があるし、放置すればするほど雪が積もって取り出せなくなる。やるなら早い方がいいな。
俺は白い砂浜に移動して、レレとサキさんを家に連れ帰った。
家の大広間にいるのは、俺とティナとレレとサキさん、そしてテオ=キラの五人だ。
「事情は説明した通りで、箱の中身は有効活用できるようなシロモノじゃあないらしい。一度は中身をあらためるけど、雪が固まる前に処分したい」
「ユナとエミリアには言わなくていいの?」
「売るアテも使い道もにゃあで」
銅像の姿とはいえ当人でもあるテオ=キラが言うと説得力がある。
結局、白い箱の材質は傷が入ると脆くなるから防具に利用する価値もないというテオ=キラの一言が決め手となって、開封作業が開始された。
「まずは棺桶サイズの箱だの」
「ティナの浮遊魔法で家の外に運んでくれ、またガスが噴き出したら困るからな」
棺桶サイズの白い箱は全部で3個。そのうち1個は開けたから残りは2個だ。
俺たちは棺桶みたいな長方形の白い箱を家の外まで運び出して、ティナの魔法で強化したダガーを使い、箱の蓋を切り裂いた。
「ただのエンチャントでそれを切るかや……」
「気を付けろ、ガスが出るぞ」
俺が注意を促すと、ティナが風の魔法で白い煙を吹き飛ばした。
流石に二度目となれば手慣れたものだ。
「中身はやっぱりマネキンかな?」
「だの。前回より肉付きの良いマネキンだわい」
マネキンの体型はともかく、前回と全く同じ灰色の人型が収まっている。
「本当に何なんだろうねこれは。少なくともゴーレムの素体ではないと思うし、古代の魔法で作られた物でもないと思うよ」
なんて事を言いながらも、興味津々にマネキンの肌触りを確かめるレレ。
触る手つきが何ともいやらしいが、突っ込まないでおいた。
「……では、次の箱に行くかの」
「ちょっと思ったけど、テオ=キラは箱の開け方を知らないの?」
「知っちょるが鍵がにゃあ。壊せ壊せー!」
そんな訳で、引き続き魔法で強化したダガーを使って開封した。
今度は二つ同時に開けてみたが、二つとも女性型のマネキンが入っていた。
『……………………』
特に深い意味はないんだけど、妙にリアルな肉感のあるマネキンだけに、全員の手が自然とおっぱいに伸びた。
「もちもちなのに重力で潰れないのは違和感があるな」
「作り物だしね」
しかし、体格的に男女の区別はあっても下のアレは付いてないんだよな。
ここまでリアルに造形するなら、ちゃんと下まで造ればいいのに。
棺桶型の白い箱、最後の一つに入っていたのも灰色のマネキンだ。
「随分小さいのが出てきたな」
性別は良くわからないが、小学生サイズのマネキンが出てきた。
「テオ=キラはこの人形に移れないの?」
「無理だで。これに必要なエネルギーはもう作れんからの」
「他のエネルギーで賄えんのか? 魔力とか精霊力とか……」
「無理だで」
魔力や精霊力とは根本的に違うので、代替エネルギーにはできないらしい。
ということは、エネルギーさえあれば動くってことでいいのか?
「それじゃあ、この素体は全部私が貰ってもいいのかい!?」
「よかたい。解剖して遊んでみんしゃあ」
こんな生々しいマネキン、気味が悪くて解剖なんてしたくないが、新たな研究材料を手に入れたレレは雪の上を飛び跳ねて喜んだ。
これではエミリア2号ではないか。魔術師はみんなこんな感じなのか?
「早速屋敷の方に運ぶから手伝って!」
「うむ」
とりあえず棺桶サイズの白い箱は全て開封できた。
箱のサイズ的に神剣の一振りでも入っていれば良かったのだが、そんなに甘くはないらしい。
幸いなことに、灰色のマネキン5体は全てレレが自分の屋敷に持って帰るようだ。
こんな不気味なマネキンは処分に困るので、引き取ってくれるのなら有難い。
これを家に仕舞っておいて夜中に動き回ったりされたら、軽く気絶する自信がある。