第546話「各自報告」
この日の晩のことだ。
俺たちに加えてエミリアとレレを入れた六人で食事を取り囲んでいるときに、俺は今日の出来事をみんなに話した。
「キマイラ……以前依頼書に書いてあった魔物ね」
「相性が悪いとワイバーンよりも苦戦するんですよね。相手のパーティーはどうでした?」
俺がユナにパーティーの特徴を簡単に説明していると──。
『……ブッファッ!』
エミリアとレレがなぜか同時に噴き出した。
「ちょっと、レレまで。きたないわね……」
「イグレス殿は強かったかの?」
ゲホゲホとむせ返る二人を無視して、サキさんの方は食いつきがいい。
「あの面子の中だと独特のオーラが出てたな。他の護衛役とは格の違いがはっきりとわかった」
「だろうの。イグレス殿は騎馬試合四位の実力であるが、上位二名が皇太子と王族ゆえ、事実上は二位である。おぬしが手を出さずとも何とかしておったろうの」
むか。そんな言われ方をすると流石に気分が悪い。
しかし事実上の二位か……。
こういっては何だが、正直サキさんとあまり変わらないような気もしたけど。
「まあ何とか姿も見せずに頑張って来たんだから、誰かに聞かれてもバレないように頼む」
「良かろう。次はわしとレレオの報告であるが……」
サキさんの報告だと、一日目の作業は家の土台を作るので精一杯だったらしい。
「資材の搬入は私がやったけどね。一日がかりでもまだ半分。組み立てまではできなかったよ」
いや、一日でそこまでやれたなら大したものだろう。
「だが、ちとの。気になる事があるんだわい」
「魔物でも出るのか?」
「ミナトが作った植物のバリケードでそれらは入って来れぬが、海の生き物よの」
「?」
サキさんの言葉にレレ以外の全員が振り向いた。
「何、気のせいかも知らんがの。あそこの海におるのはわしらが知っとる海の生き物じゃないわい」
「確かに変わった生き物はいましたけど、どういうことですか?」
「貝だと思うて拾い上げたら出来損ないのダンゴムシだったり、素手でも捕れる間抜けな魚は顎もヒレもない不気味な生き物だったりの……ミラルダの海はそんな事は無かったであろう?」
確かに、それは異常だな……。
「わしからの報告はこんなところだの。気になるならミナトが調べに行けい」
これは少し調査した方が良さそうだ。
「それなら是非、私も……」
「いや、その場限りの魔物というわけでも無さそうだから、エミリアは引き続きマルスヘイム帝国に行ってくれ」
この件に関してはエミリアよりもテオ=キラの方が適任だと思う。
「最後に私の方なんですが」
ユナの方はどうなっているのか?
「大分迷ったんですけど……道案内はマリオン・ジャックさんにお願いしました」
「うげえ。あの美術バカにですか?」
自分のことを成層圏の果てにでも置いてきたかのような顔で言うエミリア。
「マルスヘイム帝国に土地勘のある顔見知りにも頼んだんですけど、交易ができなくなったら困ると断られてしまったんです。その点ジャックさんは格が違いますね。まだ見ぬ美術品との邂逅には法律など赤子も当然、必要経費は全額出すと言って二つ返事でしたよ。ちなみにジャックさんもハチャメチャやり過ぎて今は出国禁止だそうです」
大丈夫かこいつら?
変なグループとつるんでユナが非行少女にならないか今から心配でしょうがない。
「私とエミリアさんとジャックさんは、今晩のうちにマラデクの町に入って一泊する予定ですから、すみませんけどテレポートで送ってください」
「わかったわ。エミリアは自分で移動できるとして、ジャックはどうするの?」
「旅の準備をしているから、いい時間になったら直接家まで迎えに来てくれだそうです」
前回は大きな荷馬車を魔術学院の儀式テレポートで飛ばしたっけな……。
「私は食事のあとで一度家に戻ってから、変装してマラデクの町にテレポートする予定です。宿は以前宿泊した所でいいですよね?」
「そうしてください。そこなら探す手間がありません」
意外と手際がいい二人。
マルスヘイム帝国までは乗り合い馬車での移動になるから、旅の前半は安心かな?
レレの用事が済んだ後なら俺たちも合流できるし、今のところは大丈夫だろう。