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第542話「朝の出来事②」

 エミリアが魔術学院に戻って暫く経った頃、レレがこんな事を言い出した。


「魔術学院の導師だけで薬草を見付けに行く恒例行事があるんだけど、暇なら君たちも来るかい?」


 何の事だろうと頭をひねること数秒、魔術学院の導師だけで珍しい薬草を採りに行く話は、まだ暑かった頃にエミリアから聞いた話だ。

 確か冬の一番寒い時期に未開の土地までテレポートしたり、変な化け物が出ても戦うことなくテレポートで即逃げ帰る。確かそんな話だったな。

 寒くて面倒臭そうなイベントだったので、当時は行きたくないと思ったものだが。


「エミリアが担当していた場所は常温の魔道具がないと凍死するくらいハードだったけど、私が担当する場所はそんなに危なくないよ。雪なんて一度も降ったことないしね」

「お?」

「むむっ?」

「いいですね。今の時期は冒険者の宿も除雪の依頼ばかりですし、なによりも──」


『雪がないのがいい!』


 みんな考えることは同じだ。

 俺たちは一冬超す前から雪が嫌いになってしまったらしい。

 初めての雪が積もった日には、雪だるまを作ったりして遊んだものだが、もはや遠い昔の出来事のように思えてしまう。

 そして俺たちは、雪の厳しさを思い知った。

 雪に埋もれて家のドアが開かないとか、昼夜問わずに屋根の雪が落ちるせいで馬も怯えるし、家から魔術学院までの私道は自分で除雪しないと家に居ながら遭難してしまう。

 しかもそれが現在進行形であったりする……。

 こんなのグレンじゃなくても嫌になるわ。


「王都の冬は想像以上だったかな? 実は王国内で一番積雪が多いのは王都なんだよ」


 もう少し雪の少ない場所に城を建てれば良かったのに──。

 そう言いかけて、冬の魔物の少なさを思い出す。

 なるほど、建国時の状況でマラデクの町や公都エルレトラのような積雪の少ない土地に建城すると、一年を通して魔物と戦うことになってしまうもんな。


「で、どうするの? どちらにしてもサキには護衛として来てもらうけど」

「……まあよかろう」


 どちらにしてもサキさんは強制参加か。


「それはいつから行くんですか?」

「準備ができ次第、いつでもいいよ」

「それなら明日にでも行ってみる? 暇だし」


 薬草の採取自体は、運が良ければ日帰りで、どれだけ遅くても三日目には終わるらしい。

 特に注意点はないけど、それなりに寒いので防寒着は必要と……。

 普段は戦闘を避けるらしいが、さすがに丸腰はないだろう。

 弓くらいは持って行こうか──。


「夜は帰ってくるのよね?」

「もちろん。野宿とかはしないからね」

「うん、なら私は今回留守番でもいいかしら?」


 あれ? ティナは来ないのか?


「テレパシーの護符を作るんですね?」

「ちゃんと作れるかわからないけど、できれば早めに用意したいわ」


 仕方がない。グレンの方はまだ何も解決してないからな。

 魔法の護符は魔術師にしか作れないものだから、ここはティナに任せておこう。


「話は終わりかの? わしはちとシアンフィまで行きたいわい」

「ダレンシア王国で何するんだ?」

「家の材料を調達するのだ。白の入り江に掘っ立て小屋でも建てようと思うての」


 現地の材料で家を作るのか。

 悪くないな。


「どうせならグレンのところにテントを持って行ってやれ。夏場にサキさんが使ってた小さいのが一つあったはずだ」

「うむ」

「あー、私も行っていいかな? 実はオルステインから出たことがない」

「良かろう。来るなら薄着に着替えて参れ」

「ああ、そうか、ちょっと着替えてくるよ」


 こんな感じでレレが着替えに戻るのと入れ違うようにして、今度はエミリアが現れた。


「これが今朝言っていた本の写しです。……え? レレと薬草採取に行くんですか? いや、あの、今度は東のマルスヘイム帝国に密入国しようと思ったので一緒に来て欲しかったのですが……」

「ごく自然な流れで犯罪に誘うなよ」


 ここオルステイン王国では、導師クラスの強い魔術師の出国には制限がかかる。

 まあ国の許可が下りるような要件なら、そんなに厳しくはないと思うのだが……。

 例えば今回のように、国外に未知の生物を調査する名目なら魔術学院の要請もあるだろうからまず普通に通るはずだ。

 しかしそれも過去の話……。

 今のエミリアは導師よりも位の高い称号──、大魔導の称号を頂いているので、こうなったが最後。もはや有事でもない限り国外へは出られないのだ。

 空を飛んだりテレポートしたりする魔術師にそんな制限が効くのかと言えば、あまり効かないような気もするけど……。


 ちなみに導師のレレは頭がデート気分に切り替わってしまったので忘れているようだが、好きな男と国外デートがしたいなどと言う理由での出国は確実に却下されると思う。


「仕方ありませんね。止めて止まるものならそれはエミリアさんじゃなくて別の生き物ですし、私もマラデクの町から東は見たことがないので、今回も二人で行きますか?」

「はい、是非!」


 あれれ? ユナはユナでエミリアと二人旅するのか?

 ユナは結構エミリアに対して風当たりが強い気がするんだけど、こういう所は趣味が合うのかな?

 ちょっと良くわかんないな。


 サキさんはレレとシアンフィでデートだし、ティナは護符作りで、ユナはエミリアと二人旅の算段。

 やばいな。

 何だかよくわからないうちに、一人だけやることが無くなってしまった。

 まあ、こういう日もある。

 どうせフリーなら、ちょっと街をブラついてみようか?


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― 新着の感想 ―
[一言] ナチュラルに別の生き物扱いは流石に草
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