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第540話「白の入り江での話」

 海に沈んだテオ=キラを見つけた俺たちは、白の砂浜にシートを敷いて少し早めの夕食を始めた。


「別荘でもセーフハウスでも何でもいいんだが、オルステインが冬の間はこっちに生活の拠点を移すのもアリかもな。あれだけ雪に埋もれていたら、まともな冒険も無さそうだし」

「確かにそうですけど、雪の処理からは逃げられませんよ」

「最悪、管理してくれる人を雇う手もあるわ」

「問題はこっちでわりのいい仕事があるかどうかだな」


 基本的に俺たちが得意とするのはモンスターとの切った貼ったに限られる。

 人間同士のトラブルとか、なにかの捜索とか、そういうのには向いてない。

 その点で言えば、魔物の討伐に力を入れているオルステインの国策は有難いのだが。

 いかんせん冬の厳しさよ……。

 しかも買い物に出掛けるだけでも雪山に臨むのかというくらいの装備になる。


 ちなみに王都での一般的な冬着についてだが、男物はよくわからんので女物で説明すると、まずインナーには長袖かつ生地厚めのロングチュニックを着込むのが一般的だ。

 ボトムにはジャージみたいな丈のドロワースを穿いて、靴下の代わりに毛布素材や小動物の毛皮で作った巻きゲートルを二重に巻く。長時間外で活動するときは三重に巻くのが一般的だ。

 そこから厚手の服を着た状態が室内着。

 服はワンピースではなく、必ずトップスと丈の長いスカートで分ける。家の外に出れば大抵雪でスカートの裾が濡れてしまうので、その都度乾いている物と取り替えるためだ。

 そして好みで帯を巻くこともある。これは男女共通だが、下手な厚着よりも内臓の冷え防止には効果的だ。

 そして外出時には毛皮のコートなどを着込む。

 このとき重要なのは、なるべく顔を出さないこと。

 防寒着や毛皮のフードに付いているネックウォーマーなどで耳と口を隠しておかないと、焼けたり割れたりで大変痛い思いをすることになる。


 ……それに引き換え、この入り江ときたらどうだ?

 日差しは暑いが日陰に入れば涼しいそよ風が吹き、不快なジメジメもない。

 確かにオルステイン王国よりも圧倒的に虫の数は多いが特に刺されたりはないし。

 今のところはオルステイン王国の夏よりも快適である。


「でもシアンフィの街並みを見る限り、こっちの家はいろんな意味で開放的ですよ」

「できれば人里から遠く離れた未開の土地を開拓して、気兼ねなくひっそりと過ごしたい気分なんだが」

「発想が世捨て人みたいになってるわね」

「わしはオルステインの方が好みだわい。向こうの寒さには堪えるが、こっちには銭湯がないんでの」


 言われてみればシアンフィに銭湯らしき店は無いな。

 外国の硬貨でも泊まれる宿なら風呂場もあるが、それ以外では無かったように思う。

 こうなってくるとテレポーターがもう一つ欲しい所だ。


「俺ハモウ、寒イ家ニハ帰ラナイゾ。暖炉ノ中ニ居テモ寒イ。気ガ狂ットル!」

「あれ? 暖炉の中でも寒かったの? それは悪いことしたな」

「しゃあなあて。元は火山やらで生活しとる悪魔だからの。温度の問題じゃなか。冷気の精霊が強いと焚き木ぐらいじゃ効かんのじゃわ」


 なるほど。

 冷気の精霊の支配力が強すぎるせいで、スポット的に火の精霊が発生しても打ち負けてしまうのか。

 今までずっと快適な暖炉の中で足りないエネルギーを補給しているんだと思っていたが、実は全然快適じゃなかったんだな。


「帰りとうないならそれでも構わんが、適度に雨風凌げる家はいろう」


 などとサキさんが言う。

 家といっても犬小屋の設置じゃないんだから、まさか自分たちで建てるつもりか?


「ご飯とかはどうするの?」

「火デモ起コシテ、ソレヲ食ウ」


 うーむ。

 せめて緊急時の連絡手段があれば、グレンには暖かい土地で過ごして貰うことも……。


「以前エミリアから貰ったテレパシーの護符があったよな。あれと同じものを作ってグレンに持たせておけば少しは安心できるかも?」

「わかったわ。なるべく早く用意するわね」


 こうなっては仕方がない。

 俺たちは引き続きテオ=キラにグレンを頼んでから、とりあえずオルステインの家に戻った。


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