第537話「箱の中身①」
あれから悪戦苦闘するも、結局箱の開け方はわからないままだ。
機械的な仕掛けは見当たらない。
魔法による封印もない。
継ぎ目すら見つからない。
正直、俺たちの知識と技術では開けられそうにない。
「ええい、もはやぶった切って開けるしかなかろう!」
「まあ待てサキさん」
「真面目な話ですが、これは切り取って開けるのが正解かも知れませんよ」
辛抱堪らず剣を抜きそうになったサキさんをなだめる横で、ユナも箱を斬ることに賛成した。
「箱だから蓋があるとは限らないです。例えば缶詰みたいな保存法もあることですし」
なるほど。確かにそうだ……。
そもそも継ぎ目がなければ物理的にはどうにもならんし、魔力の反応すらないもんな。
「俺が現地で開けたのと同じ方法でやるか? ティナ、武器強化の魔法を頼む」
「強引にこじ開けるなら外でやりなさいよ」
もはやぶった切るしかないという答えに辿り着いた俺たちに、ティナは外での作業を要求する。
まあ、俺も家の中ではやりたくないぞ。
缶詰なんて言葉を聞いてしまったら、想像できる最悪の中身は発酵した汁物のイメージしかない。
シュールな缶詰だけは勘弁して欲しいからな。
「では外に運ぶかの」
サキさんは魔法のアシストなしに大きな箱を持ち上げた。
その後ろを、浮遊の魔法で箱を浮かせたティナが続く。
俺たちは玄関を出ると、雪の少ない家の表側に箱を移動させた。
目の前にあるのは、大きな箱と長方形の箱。
大きな箱は大型の洗濯機くらいのサイズで、長方形の箱は何とも言えない大きさだが、あえて言うなら棺桶のイメージに近いサイズ感だ。
「なるべく中身を壊さないようにやってくれ」
「任せておけい」
まずは大きな正方形の箱からだ。
ティナの魔法で強化された剣を片手に、サキさんは思い切りよく箱に刃を突き立てた。
「なるほどの。鉄を切るよりも抵抗があるわい。粘り方は岩に近いんかの?」
サキさんのわりとどうでもいい感想を聞き流していると、箱はすぐに開いた。
「さて、御開帳だわい」
「気を付けて覗けよ」
警戒はしていたが、特に何かが飛び出してくることはなかった。
「何が入ってるの?」
「……むう?」
「ちょっと見せてください」
俺たちは押し問答をするように箱の中を覗く。
箱の中には、また別の箱が入っている。
「なんだろ? 小型の冷蔵庫か?」
「サキさん、ちょっと取り出してください。汚したくないので蓋の上に置いてください」
「うむ……これは持ちにくいのうわぁぅっ!」
箱の中から箱を取り出そうとしたサキさんだが、取り出そうとした箱の一部が外れて落下させた。
「大丈夫?」
「うむ」
「サキさんじゃなくて落とした方」
「うむぅ?」
結構重量のある物を落としたから、壊れていないか心配だ。
「これなんですかね? かき氷機? ウォーターサーバー?」
「小型の冷蔵庫じゃなかったのね……」
サイズ的には1ドアの小型冷蔵庫に近い大きさの物体だが、サキさんが持ち上げた時に外れたカバーの奥には、見たこともない機械が入っていた。
いや、機械かどうかなんてわからないが、何となく、機械だと直感するものがある。
「俺が知ってる物の中で一番近いのは3Dプリンタとか、そんな感じのやつだな。動きそうな部品は見当たらないけど」
「ボタンもスイッチも無いですよね?」
「何かに接続できそうなコネクタやケーブルもないわよ」
「違うか。ヘッドが動くアームもフィラメントを通す穴もないしな……」
仕方がない。空箱は家の裏に移動させて、中身は家の中にしまっておこう。
「家の裏に同じサイズの箱がもう一つありましたよね? あれも開けてみませんか?」
「ついでだから開けてみるか」
──開けてはみたが、中身は全く同じ物だった。
ちなみに同じ物だったので、今度は落としたりせずに箱から取り出すことができた。
「謎の機械が二つになってしまった」
「やっぱり何の魔力も感じないわね。魔道具でも魔装置でもないわよ」
「参ったな……」
ちなみに精霊力も感じられない。
こうなると魔術学院やエミリア達でも調べようがないんじゃないか?
「今は考えてもわからないですし、とりあえず長方形の箱を開けてみませんか?」
「仕方ないな。長方形の箱は何個あったっけ?」
「これは五つあるわい」
「どうせ中身は同じものだと仮定しよう。開けるのは一つで十分だ」
今回も同じようにサキさんが箱を開ける。
「おい。なんか煙みたいなの出てないか?」
「……ガスではなさそうだがの」
「いいから早く離れろ! ティナは障壁を!!」
俺は飛び退くように退避するサキさんを無理やり引っ張って、魔法の障壁を盾にした。