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第532話「小魚の処理」

 一時はどうなるかと思った怪物魚の大暴れも静まって、俺たちは無事に村まで戻る事ができた。

 村ではサムクラを仕留めたという騒ぎが起こり、カルカスと兵士たちがその混乱を鎮めるという一幕もあったが、村長や村の長老様、それにサムクラの目撃者などの証言により、この怪物魚がサムクラで間違いないという確証を得た。


「私とレレとティナさんで学院から人を集めて来ますから、ミナトさんたちは村で休んでいてください」

「言いたい事は多々あるが領地内の脅威が一つ去ったからの。ここは私も同行する」


 こんな感じでティナとエミリア、レレとカルカスのおっさんは魔術学院にテレポートしてしまった。

 サムクラは死んだ訳ではなく単に気絶しているだけだから、いつまた暴れ出すかわからない。

 生け捕りなら尚のこと良い、悠長にはしていられないと、エミリアは興奮気味に消えていったが……。

 まあ、あっちは魔術師チームに任せるとしよう。


「闇の精霊一つでアレを仕留めたんですか?」

「いや、気絶させただけだ。いつ暴れ出すかわからんから近寄らない方がいいぞ」


 カルカスが引き連れてきた兵士たちには、興味本位で村人がサムクラに近付かないように見張ってもらっている。


「まいったな……」


 俺は誰に聞こえるでもなく呟いた。

 結局あの場にいた全員、俺が精霊魔法で簡単にサムクラの意識を奪ったと思っているようだが、それは少し違うのだ。

 闇の精霊シェイドは「暗闇」と同時に「精神」を司る精霊でもある。

 あの時はサムクラの頭にシェイドをぶつけることで、奴のそれほど大きくないであろう脳幹のうかんに直接働きかけたにすぎない。

 つまり、どれだけ図体がデカかろうとも、脳が小さく強い精神を持ち合わせていない生き物であれば、今回のような戦い方も有効な手段になるのだ。

 だが人間相手に同じことをしても、少し気分が悪くなる程度の効果しか出ないだろう。

 俺は闇の精霊と相性が良くないので、人間を気絶させるほどの力はない。

 だから魔法の矢のように、問答無用で効果があると誤解して頼られるのは結構危険だ。

 これは魔術師チームにも後でしっかり説明しておかないとな。


「何はともかくせっかく用意して貰った酒だ。大物釣りの祝杯といこうじゃねーか」

「そうだの。今宵の酒はうまそうだわい」

「あれ? サーラはどこ行ったんだ?」

「サーラには小魚の下処理をして貰ってるわ。ここの連中、天ぷらなんか食ったことねーだろうから、酒の返しに振る舞ってやろうと思ってよ」


 既にいくらかの酒が入っているナカミチは、サキさんと一緒にサムクラを釣り上げた英雄として村の男たちに連れて行かれてしまった。

 ナカミチやサキさんのように声がデカくてノリの良い男は、すっかり男衆の人気者だ。

 俺とユナは取り残されてしまったが、水場の横で健気に小魚の処理をしているサーラの所に行って、手伝うことにした。


「ここにワタがあるらしいですから、親指の爪で引き千切るんです」

「じゃあさっそく手伝おう」


 俺は照明代わりにウィル・オー・ウィスプを一つ出して、小魚の処理を手伝った。

 何気に自前で明かりを用意できるのは便利だな。

 偽りの指輪で明かりを灯していた時は、魔法に集中している間しか光らなかったから、何気に凄い進歩だと思う。

 ちなみにサーラは、魚を見るのは今日が初めてだと言う。

 なので魚の骨格も身の付き方も知らない。

 王都オルステインには街中に水路や川があるんだけど、何故か不気味なくらいに魚がいないんだよな……。

 王都から少し離れると大きめの魚もいるんだけど、それらは大抵、大トカゲに食われてしまうみたいだし。


「これ、リュウちゃんが良く話していた魚ですよね? あってますよね?」

「うん。だいぶ小さいけど魚であってるよ」

「聞いていたのは大皿よりも大きな魚の話ばかりだったので……」


 ナカミチは元の世界で大物を釣り上げていたんだろうか?


「内臓を取ったあとは衣を作らないといけませんね」

「あーそれもあるか。確か……薄力粉だっけ? 蓋に焼き印で目印がついている方の箱だ。それに卵と水と……鍋と油もいるな。ああ、菜箸さいばしと油を切る網と受け皿も……」

「最後に塩ですね。テレポーターで取って来ます」


 あれ?

 ユナが家まで必要な物を取りに戻ってから気付いたが、もしかしてユナは魚触るの苦手なのか?

 まあ誰かが調理道具を取りに行かなきゃ始まらんから、それはそれで良いのだが。

 サキさんとナカミチの方は随分盛り上がってるな。

 あの調子だと、自分で天ぷらを揚げるような暇は無いだろう。

 ちなみに好き勝手に騒いでいるのは男だけ。

 村の女たちは子供の面倒に加えて男衆の面倒まで見ないといけないから大変そうだ。


「指がべとべとになりますね」

「家の調理場にある魔道具できれいに洗えるから、後のことは気にしなくて大丈夫だ」


 俺とサーラが小魚の処理を終えた頃、必要な物を揃えたユナも鍋の準備を完了させた。


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