第528話「謎のコンテナ②」
コイス村に戻ってきた俺とティナは、サキさんたちが待機している場所まで移動した。
「何か反応はあったか?」
「まだないの」
「湖の奥の方はどうでした?」
「あ……」
ユナに聞かれて思い出したが、湖の奥の探知をやってない。
とりあえず一番奥から追い立てるように探知する予定だったのだが、謎の亀裂を見つけてしまったのが運の尽き。
俺とティナは怪物魚を探知する目的なんかすっかり忘れて戻ってきてしまった。
「特に何も探知できなかったわよ。そんなことより聞いて。湖の更に奥に行くと氷山があるんだけど、そこで変なコンテナを見つけたわ」
怪物魚に興味がないティナは、適当に探知の話をぶった切って謎のコンテナを見つけた話を始める。
「古代の遺物ですか? そっちの方が面白そうですね」
ユナも話に乗り気だが、その割には誰よりも多く小魚を釣り上げていた。
「化け物が出る気配がないようなら、わしはここで釣りを続けても良いかの?」
「別に構わんぞ。ナカミチとサーラもいるし、多分エミリアも怪物魚の方に興味があるだろうし」
エミリアの場合はどちらかと言えば生物の方に興味があるっぽいしな。
まあ実際にはどちら側に付くのか、探知に疲れて戻ってきたエミリア本人に聞いてみた。
「そうですね。出来れば怪物魚を捕獲したいです。コンテナの方にはレレを連れて行ったらどうですか? 魔道具や古代の遺物ならレレの方が専門ですよ」
案の定。
そんなわけで、同じく探知に疲れて戻ってきたレレにも同じ話をする。
「いくいく!」
サキさんが行かないと決めているから渋るかと思っていたけど、レレは二つ返事。
魔術師って生き物はホント、自分の興味に正直だな。
さて、怪物魚の捕獲も謎のコンテナの調査も、日が暮れるまでには村に戻るという取り決めをしてパーティーを二つに分けた。
怪物魚の方はエミリアとナカミチとサキさんの釣りバカトリオが担当する。
謎のコンテナに向かうのは俺とティナとユナ、そしてレレとサーラの五人だ。
「リュウちゃんには悪いですけど釣りはもういいです」
まさかサーラがこっち側に付いてくるとは思ってもいなかったが、やはり10歳そこらの女の子に釣りイベントは渋すぎたか。
ちなみに「リュウちゃん」とはナカミチのことだ。
ナカミチのフルネームは「ナカミチ・リュウゾウ」と言う。で、愛称はリュウちゃん。
まあここまでの話は以前にも聞いた覚えがある。
ちなみに愛称で呼ぶのは母親と祖母の二人だけだったようだ。
これはサーラからの内緒話をユナが教えてくれた。
情報が筒抜けである……。
「コンテナ組は一度テレポーターで家に帰ろう。ティナは村の入り口に設置したテレポーターの片割れを持ってコンテナの場所まで行ってくれ」
かくして俺たちは一度家に帰り、ティナがテレポーターから現れるのを待った。
「おまたせ」
ものの10分も経たずして、ティナがテレポーターから現れる。
「テレポーターの移動先はコンテナが2つ折り重なっている場所にしたわ」
「よし。早速移動しよう」
俺は自分のサーベルを腰に差してから、ティナに続いてテレポーターの上に乗る。
その瞬間、俺は謎のコンテナが折り重なっている氷の世界に移動した。
「うわあ。これ周り全部氷ですか? 凄い所ですね」
「すごい! 街の外にはこんな場所もあるんですね……」
俺の後に現れたユナとサーラが感想を口にする。
「うん。ここは『川』だね。ああ、なるほど──」
最後に現れたレレは何か思い当たる所があるのか、飛行の魔法で氷の崖を飛び出すと周囲の地形を見渡した。
「何かわかったのか!?」
俺は空中のレレに問いかける。
「──今は氷で覆われているけど、ここはかつて水が流れていた川だよ。この川はエスタモル時代に栄えた西の古代都市まで続いていたんじゃないかな?」
崖の底に降りてきたレレは、自分の推論を語る。
エスタモル時代に栄えた西の古代都市といえば、今現在は「遺跡組」と呼ばれる命知らずな冒険者たちが一獲千金を求めて足を踏み入れる巨大な遺跡群になっている。
「気候変動でも起きたのかしらね?」
「実際、王都周辺が寒くなったのはエスタモル時代の中頃だと言われているからね。ただ、それにしては変だ。さっき崖の途中で見たけど、大量の水に押し流されているコンテナが一瞬で凍り付いたようにも見える……」
レレは一人でぶつぶつと考察を始めてしまう。
「まあその辺の話は後回しにしよう。とりあえず三つあるコンテナの中を見たいんだけど、どこかに入り口らしきものはないのかな?」
俺とティナがさっと見た感じでは、何も見つからなかった。
今度は五人で探すから、少しは期待していたのだが……。
崖の底にある二つのコンテナ、そして崖の途中で半分氷の中に埋まっているコンテナ、合わせて三つのコンテナを一通り調べてみたのだが、一見してわかるような入り口はなかった。
「困ったわね」
「真面目に調べたんだけどね。魔法で閉じている感じでもなさそうだよ」
コンテナのサイズとしては、大体10トントラックの箱くらいのサイズがあると思う。
結構でかい長方形の箱だ。
それが三つもある。
ちなみに色は純白で、コンテナと呼んではいるが上下左右がわかるような造形はない。
「上から転がって来てますよね? 入り口のある面が底になっているとか……」
意外にもサーラの着眼点は良い。
しかし三つあるコンテナの中の一つは底面が見えているため、全ての面を調べてはみたものの入り口は見当たらなかった。
なので下敷きになっているコンテナだけが特別な仕様とは考えにくい。
「これは魔法のコンテナじゃないよ。素材も何だかよくわからない。一応、魔法は掛かるみたいだから、本気を出せば穴くらいは開けられるんじゃないかな」
「なら壊してみますか?」
ユナはいつになく雑な提案をする。
「これ以上調べても答えは出なさそうだし、試しに一つこじ開けてみるのも手か……」
「面倒になったわけじゃないですけど、元々入り口は無い気がするんですよ。何て言うか──」
「缶詰的な?」
「そう、それです」
確証はないけれど、あり得ない話ではない。
俺は腰のサーベルを引き抜いて、ティナに強化の魔法を掛けてもらった。
「……できたわ」
魔法で強化されたサーベルの刀身は青白く輝き、光の刃のようにも見える。
最近は魔剣を使うことが多かったから、武器強化の魔法を見るのは久しぶりだ。
本当はティナが魔法で強化した武器の方が強いと思うんだけど、任意のタイミングで強化できないとか、強力過ぎて効果が切れるまで鞘にも納められないとか、何かと不便な事が多過ぎてサキさんは自分用の魔剣を買ってしまった。
もしも誤って刀身に触れようものなら、籠手ごと自分の手が蒸発してしまうくらい危険な諸刃の剣に早変わりだからな……。
「いくら魔力を込めてもここまで強化されることはないんだけどね。このレベルの威力が常識に思えるくらいの影響を受けていないと、こんなイメージは湧かないよ」
レレは呆れたように笑ったが、威力だけはシャレにならない事を理解したのか、サーラの手を引いて少し後ろの方まで下がった。
「特殊な素材みたいですから気を付けてください。もしかしたら衝撃を弾き返してくるかもしれません」
ちょっと、これから斬り付けるって時に怖いこと言うなよ……。
俺は内心ユナの注意にビビってしまったので、そろりそろりと魔法で強化された刃先をコンテナに押し当てる。
「大丈夫?」
「うん、反発はしてこない。プラスチックに近い溶け方してるな」
いよいよもって意味不明な素材だが、とりあえず小さな穴が開いた。
「液体やガスは出てこなかったな」
コンテナの穴はまだ小さくて、中の様子は見えない。
「大丈夫そうだから穴を広げる。何が起こるかわからんから、各自警戒はしてくれ」
なんて事を偉そうに言ってみたが、周りを見ると俺以外の全員が既に相当離れた位置まで避難していた。
「…………」
「何かあったら両手を剣から手放して。すぐにテレポートで回収するわ」
結局最後まで頼りになるのはティナ一人なんだよな……。
まあ気を取り直して、俺は長方形の斬り込みを入れて入り口を作った。