第503話「合流」
何とか怪鳥をやり過ごした俺たちは、テレポートで王都の家に帰って来た。
「こっちは冷凍庫の中にいるみたいだな……」
「寒イ。タマラン。向コウノ宿ニ行クワ」
グレンはテレポーターを使って、自分だけシアンフィの宿に移動してしまった。
「やっぱり火の悪魔に北国の冬は厳しいか。テレポーターの子機を増やせたら、この辺りの問題も解決するんだけどな」
それか、ティナが一度でも行った場所なら、自由にテレポート出来るようになるとか。
「出来なくはないけど、実際にやろうとしたら、なかなか安全なポイントがないのよ」
鮮明にイメージできて人気のない場所。
それと同時に、転移先の空間が絶対に埋まらない安全なところ……。
世界人口の少なさを考えると、いくらでも条件に合う場所はありそうなんだけどな。
実際に探すと意外なほどに良いポイントがない。
エミリアの荷馬車の中に目印を付けてテレポートしてみたりと、試行錯誤は続けているんだが……。
「何にせよ、エルレトラの悪夢だけは繰り返したくないものだ」
そもそもの話、移動手段が馬しかないのがいかんのよな。
王都の隣にあるカナンやマラデクの町でさえ、荷馬車でノコノコ移動すれば一泊二日の旅になる。
車や電車がある世界なら、三、四時間で移動できる距離なのに。
「でかい飛行船でも作って、魔法で操作するのもいいな……」
俺はソファーにゴロンと寝転ぶが、凍っているような冷たさにびっくりして飛び起きた。
「留守の間も暖炉に火を入れておくのが良さそうね」
「そうしてくれ。外気温と同じになると家の中まで凍ってしまう」
そんなやり取りをしていると、サキさんが帰って来た。
サキさんには夏服に着替えて貰い、とりあえずシアンフィの宿まで移動する。
宿の部屋では先に来ていたグレンと、馬を売却して戻ってきたユナの姿もある。
「エミリアはいないのか?」
「あー、んー、後で説明します」
ユナが歯切れ悪く答えた。
またエミリアが何かしたのか? 面倒な話なら聞きたくないが……。
「一応、全員揃ったから、飯の前にそれぞれの報告を聞きたい」
俺は部屋の中の適当な場所に腰掛けて、今日の出来事を話す。
シアンフィの西に手付かずの入り江があること、更に西へ進むと、半島と列島があること。
風に乗って現われた巨大な鳥と戦ったことなどだ。
「広間に置いてある羽根がそれかの?」
「そうそう」
「半島から西には行けませんか?」
「魔法で浮かんでいるうちはいいけど、海の中には入れないわね」
「内陸部なら問題なさそうだけどな」
続いてユナが今日の報告をする。
「わりと身構えてはいたんですけど、勝手に値段が吊り上がりました」
「ほう」
「ただ、エミリアさんが……」
ほう……?
「貿易船の荷下ろし中に『猫』を見つけたんですね」
「まさか」
「テンション爆上げで欲しいって喚くものだから、仕方なく馬と交換したんですが……。まあ、確かにかわいかったですよ……」
ユナとしてはバハール縦断に付き合ってくれたエミリアへの報酬に猫を買うのは構わなかったらしいが、エミリアが目の色を変えて食い付いたおかげで足元を見られたことに不満があるらしい。
「馬は仕入れの三倍、銀貨10万枚で売れたんですけどね。猫一匹に銀貨8万枚ですよ。バカですよね!?」
「じゃあ、赤字になっちゃったか」
「赤字です」
「肝心のエミリアは何をしてるの?」
「儀式魔法で猫ちゃんを使い魔にするとか言って、何処かに消えました」
「儀式……使イ魔……ウウッ、頭ガ……」
いつぞやのトラウマが蘇ったのか、グレンが頭を抱える。
しかし、とんだ災難だったな。
もう少し冷静に交渉出来ていれば、元も取れて完璧だっただろうに。
「サキさんの方はどうだ? テオ=キラの銅像は作り直せたのか?」
「うむ……」
サキさんは自信なさ気に頷いた。
こっちの方も一筋縄では行かなかったのか?
「持ってきてないの?」
「相変わらず、やかましいんでの。頭陀袋に入れて自分の部屋に置いてきたわい」
それなら持ってきて貰おう。
例えば南の海の向こうに大陸があるのかとか、色々と聞きたい事もあるし。
「それなら持ってくるわい」
サキさんはテオ=キラの銅像を取りに家へ戻った。