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第486話「ゲテモノグルメ」

 俺は一人で調理場に籠り、米を炊きながら時間を潰している。

 未だに慣れない釜炊きは、なんだか不安で目が離せない。

 まあ今日ぐらいは一人で頑張ってみよう。


「………………」


 どうにも暇だな。

 俺は菜箸さいばしの先で何度も釜の蓋をつついては、炊け具合を確かめる。

 もうそろそろいいかな?

 かまどの口に蓋をしたら、後は適度に蒸らして出来上がりだ。


「サキさんは帰ってきた?」

「まだ帰ってくる気配がないです。どこまで買いに行ったんですかね?」


 暖炉の前でティナを介抱しているユナが答えた。

 テーブルの方では、銅像を手にしたままのエミリアが白目を剥いている。

 何だか顔色も悪い。

 調子に乗ってテオ=キラを質問攻めにした結果、人間の歴史として「都合の悪い事実」の応酬でも受けたのだろうか?

 あまり面白い反応を見せていると、テオ=キラに遊ばれるぞ。





 それから暫く待っていると、おかずを買いに行ったサキさんが帰って来た。


「雪降ってきたわい。明日は積もるの」

「またか……」


 毛皮のコートに貼り付いた雪を払うサキさんを見ながら、俺はがっくり肩を落とす。

 この家は構造上の欠陥から、屋根の雪が落ちるとトイレのドアが埋まるのだ。

 これ以上雪が積もらないことを祈るばかり。


「遅くなったが夕飯にしよう」


 俺たちはサキさんが買ってきた肉まみれのおかずで腹を満たす。

 暇な時間で簡単なサラダでも用意しておけば良かったな。


「エミリアから見て、ティナの具合はどうなんだ?」


 いまいち頼りにならない神様はそっちのけにして、俺はエミリアに再度聞いてみた。


「熱は引いてますから、後は自然に目を覚ますまで待てば良いと思います。それよりも、ミナトさんの体調は大丈夫なんですか?」

「言われてみれば、今日一日で怠いのも吹き飛んだな」


 ティナの身に起きた異変のショックで、すっかり怠さを忘れてしまっていた。

 思い出したらまた体が怠くなってきたぞ。


「ティナさんの方は心配いらないと思いますから、今日の所は帰りますね」


 まるで野生のアマゾネスのようにワイルドな食事を終えると、エミリアはそのままテレポートで帰宅した。

 飯のためなら女も捨てるエミリアの生き様は、時に羨ましいとさえ思う。


「ユナの方はどうなってる?」


 エミリアが帰ったあと、俺はユナに今日の出来事を聞いた。


「こんな時期に私一人で入国したせいか、色々聞かれて面倒くさかったですね。時間がもったいないのでお金で解決しましたけど」


 凄いな。俺はようやらん。


「とりあえずダレンシア王国には入国できて、今日は国境の砦から一番近い村を通り過ぎた辺りで終わりました」


 では、目的地の首都シアンフィまではあと一息ってところか。





「それで明日のことなんですけど、明日からサキさんも付いて来てくれませんか?」

「む?」


 ユナが明日の予定を切り出してきた。


「草むしりの時に巨大ムカデが出たじゃないですか」

「うむ」

「あれは貴族の別荘から逃げ出した固体ですけど、本来は中央ダレンシアに生息しているんです」

「ほう……」

「村を通り過ぎるときに聞いた話ですけど、あの巨大ムカデが産んだ卵が高級食材になるみたいなんです」


 あの巨大ムカデか……。

 余裕で体長2メートルはあったと思うが、その卵もデカそうだ。


「大きさは一回り小さい鶏の卵くらいですよ。一度に40個から50個産むんですけど、それを塩漬けにしたものが東の国へ輸出されているんです」


 いやいや、いくら高級食材でもムカデの卵は勘弁だな。


「そんなわけで、巨大ムカデがいたら何匹か生け捕りにしたいんです。ただ、エミリアさんの魔法だと無傷で捕まえるのが難しいので……」


 ああ、なるほど。

 ただの駆除ならエミリアの魔法で解決するが、生け捕りになると難易度が増すわな。

 巨大ムカデは欲しいが触るのは怖いから、サキさんを投入したい訳だ。


「あれはのー」


 流石のサキさんも腕を組んで唸る。


「それこそ金で解決できんのか? 高級と言ったって、エミリアが一人で食べる分ならそこまで高くはないと思うんだが」

「それがですね……」


 塩漬けにしたものならいつでも手に入るが、無加工で新鮮な方が美味と聞いたエミリアは、巨大ムカデを数匹捕獲したのち、例のゲテモノ好きの貴族に飼育させて、いつか産みたての卵を食すという気の長い計画を考えているそうだ。

 例のゲテモノ好きの貴族とは、巨大ムカデを逃がした家の主なんだが、いつぞやはエミリアの仲介でワイバーンの卵を買い取ってくれたりと、エミリアに負けず劣らず自分の趣味に妥協がない御仁である。


「どうするんだサキさん?」

「首をねるだけならいつでもやってやるがの」

「やっぱり無理ですよね……」


 当然だ。あれを生け捕りにするってことは、体長2メートルの巨大ムカデが容赦なく体に巻き付いてくるということだ。

 なまじ現物を見たことがあるだけに、想像すると鳥肌が立つ。

 もうこの話おしまい!





 ユナが風呂に行った後、俺は一人で食事の後片付けをしてからティナの様子を見た。

 今は目も閉じて、ただ静かに眠っているように見える。


「今日はここに布団を敷いたほうが良さそうだな」

「良かろう。二階から布団を下ろすわい」


 俺はサキさんと二人で、一階の広間に布団を敷いた。

 ここで寝るのも久しぶりな気がする。

 暖炉の中には火の悪魔のグレン、その辺に転がっているのは知恵の神テオ=キラ。

 随分と奇妙な取り合わせになったものだ。


「じゃあ俺もう寝るから。後はサキさんとユナでやっといて」


 何だかんだで疲れていた俺は、ティナを布団に移動させると同時に寝てしまった。


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