第47話「サキさんの赤マント」
カウンターで山のような買い物を済ませた俺たちはフワフワの店を出た。
好き勝手に広げた水着は自分たちで片付けようとしたのだが、あとで女主人が片付けると言うので、素直にそうさせてもらった。
「さっきマントを買ってて思ったんだが、サキさんにもカッコ良いマントを買ってやりたいと思った。あの鎧に似合うやつだ。恥ずかしいくらい目立つようなのがいい」
「いいわね。白とか赤が似合いそうよ」
「グレアフォルツが黒いから、赤いマントの方が似合いませんか?」
二人とも賛成してくれたので、俺たちは同じ通りにある紳士服の店に入って行った。
店の中にはジェントルマンな服が並んでいる。俺はジェントルマンな服を着た自分を想像してみたが、試着室の鏡に映った自分の美少女ぶりに落胆した。
ジェントルな空気の中、胸が強調されたフリフリのワンピースと、頭に大きなリボンまで付けて気が狂ったとしか思えないような格好でいるのは流石に心が痛い。
「すみません。仲間の狂戦士に似合いそうな真っ赤なマントが欲しいのですが」
「狂戦士でございますか?」
「一人で飛竜を倒してしまうような変態です。全身金属鎧とチェインメイルでガチガチに身を固めて、魔法の槍を振り回すどうしようもない奴なんです」
「なんとまあそれは……」
「そういう男が身に付けても恥ずかしくないようなマントをプレゼントしたいのですが」
「その御仁の身長はおわかりでしょうか?」
「175センチくらいです」
「かしこまりました」
ジェントルな店に相応しいジェントルな初老の主人は、店の棚にあるマントを素通りして奥の方へ消えていくと、要望通りの赤いマントを持って戻ってきた。
「こちらなどはいかがでしょう? とても丈夫な糸で作った最高級のマントです」
手渡されたマントは、ずしりとした厚みのある赤色のマントだ。フワフワの店で買ったユナの赤いマントとは色合いも質感もまるで違う。
一目で品質の高さがわかるほどの品だ。
「とても良い生地ね。汚すのがもったいないわ」
「公式な場では勿論のこと、とても丈夫ですので戦場に付けて出られる騎士様も多くいらっしゃいます」
「なるほど。これならあらたまった場所に出向く事があっても大丈夫そうだな」
「はい。もちろんでございます──縁取りや刺繍などをお求めになられるお客様も多いのですが、家紋や紋章がございましたら……」
「サキさんはそういうのは好まないだろうな。無地の状態でもらおう」
「ありがとうございます」
いい買い物ができた。鎧に付ける専用の穴が処理された物を持ってきてくれたので、変に首が締まったりすることもないだろう。
でも値段は俺たち三人分のマントよりも高かった。
「サキさんには常々オシャレに気を使えと言っているから、このくらいは安い買い物だ。あいつはそのうち有名になるだろうから、恥ずかしい恰好はさせられん」
「そうね。功績に相応しい身なりはしてもらわないと困るわ」
「それでは帰りましょうか? 今日はまだ晩ご飯の支度もまだですよね」
「そうだな……いや、ユナはハヤウマテイオウでナカミチの工房に行って湯沸かし器がどうなっているか確認してきてくれんか?」
「そうですね。わかりました」
「あと、近くに専用の工房があると思うから、ハヤウマテイオウに付けられる小さな荷馬車を買って来てほしい。二人並んで乗れる椅子が付いたようなのが良いと思う」
「……なるほど、そういうのを買ってきますね」
ティナと荷物を俺の白髪天狗に移して、ユナはナカミチの工房へ走って行った。
「私たちは食材を買って帰りましょう」
「折角だから近くのカッチリした店に寄って行こう」
「何か欲しい物でもあるの?」
「俺はティナのタイトミニ姿が一番好きなんで、洗濯したときの予備を買いに行きたい」
「最近のミナトは正直ね。最初の頃は黙って見ているだけだったのに」
「バレていたのか……」
自分でも変態だと思うが、脚フェチはもう治らないので仕方ない。不治の病だ。
俺とティナはカッチリした店に入って、予備のタイトミニを買った。ユナだとどうなるのか興味が沸いてきたので、俺も自分に合わせて一枚買ってみた。
「今日は魔術学院まで食事を運んでやるんだよな。何がいいかな?」
「思ったよりも難しいわね。タッパもラップも電子レンジもない世界だし」
「届けてもすぐに食ってくれるかわからんしなあ」
俺とティナは市場で食材を買い歩いた。日々の食材が並ぶ市場は街の中でも一番混みあう場所だ。
乾燥コーンを探し歩いて以来、俺は足を運んでいなかったが、ティナやユナは良くここで買い物をする。俺はあまり人混みが得意ではないので、ここは疲れるな。
俺とティナが家に帰ると、ティナの言い付け通り、サキさんは布団を取り込んでくれていたようだ。もちろん、そのまま銭湯に行った様子だが。
「急いで夕飯の支度をしないといけないわね」
「俺は洗濯物を取り込んで、買った下着を一度洗うことにしよう」
「お願いね」
俺が調理場で手伝ってもロクなことにならんので、三人分の下着をせっせと洗濯することにした。それにしても数が多い。今日はもう他の洗濯物を干すスペースはないぞ。
「あ。ただいまミナトさん。良さそうな荷馬車があったので買って来ましたよ」
「おかえりユナ。へえ……これなら街中で使っても邪魔にならんな」
洗濯物を干しているとユナが戻ってきた。
ハヤウマテイオウには、椅子を備えた小さな荷馬車が付いている。椅子の後ろは言い訳程度の小さなトランクスペースが設けられているが、展開式の幌が収まっているようで、荷物が運べる感じではない。
荷馬車のサイズと比較して車輪が大きいので、転がす抵抗は少なく感じる。
幅が狭いので人が並んで座るのは厳しそうに思ったが、試しに俺とユナが座ってみると肩がぶつかることもなさそうなので安心した。男二人で座ると上半身を傾けないと入らないと思うが、俺たちなら特に問題ない……尻以外は。
「拳一つ分も空きがないな。隣同士の脚がぴったりくっ付いてしまう」
「そうですね。でもこうするとスペースが増えますよ」
そう言ってユナは俺に抱き付いてきた。抱き付いてくる側が斜めに座る体勢になるので当然スペースは増えるが、こんなにベタベタと抱き合ったまま街中を走るわけにはいかないだろう。
「俺はこれでいいと思うな。軽くて付け外しも楽だ。重かったらだんだん面倒になって使わなくなるだろうからな」
ここまで割り切った機能で選んだのは正解だろう。俺が選んだらあれやこれやと考えてしまって、結局デカくて取り回しできないような荷馬車を選んでいただろうしな。
「湯沸かし器の方はどうなってた?」
「中身を先に完成させたみたいで、あとは外装を作るだけだと言ってました」
「なるほど。サイズは後回しで性能重視にしたのか」
「ミナトさん鋭いですね。ナカミチさんも確か同じようなことを言ってましたよ」
湯沸かし器は時間の問題だな。これで毎日銭湯まで通わなくて済むのは嬉しい。温泉旅行ならいざ知らず、日常の風呂くらいは気兼ねなく入りたいからな。
完成次第うちまで運んでくれるようだから楽しみにしておこう。
俺とユナが残りの洗濯物を二人で干していると、夕食の仕込みを終えたティナが調理場から出てきた。
「かわいい荷馬車ね」
「小さくていいだろ? 今日はこれに乗って銭湯に行こう。白髪天狗は留守番だな」
ハヤウマテイオウにはティナが乗って、俺とユナは後ろの荷馬車に乗り込んだ。
俺は荷馬車と呼んでいるが、荷物は運べずに人だけを乗せる物も荷馬車で良いのだろうか?
原付のリヤカーよりも小さくて簡素なものだ。一応リヤカーで良いのかな?
試しに後ろのスペースから幌を展開すると、独特な狭さが秘密基地のようでわくわくしたが、周りから見られにくくなったのを良いことに、銭湯に着くまでずっとユナに抱き付かれてしまった。
これでも一応雨風が防げそうなのは良いな。案外活躍の場は多いかも知れないぞ。
銭湯に着いた俺たちは、いつものように風呂場の端っこを占拠して体を洗っていた。
この銭湯もあと数日限りだな。そう思うと古びた汚い浴槽も、これはこれで味があって良い気がしてくる。
今日の俺は最後にティナが洗い終わるまで、ずっとユナの脚を見ていた。
ティナが相手なら赤ちゃんプレイでも平気でやってのける俺だが、ユナには何と言ってタイトミニスカートを穿いてもらえば良いだろうか?
俺たちが銭湯から出て家に帰っても、サキさんは家に居なかった。あいつは本当に自分の欲望に素直な男だ。
ティナが今晩の夕食はそれほど手間が掛からないからと言うので、俺とユナは自分の部屋で髪を乾かしていた。
以前と違って解放の駒があるので楽に髪を乾かせるようになったのは便利だ。
「ユナ、今日食材を買う途中でティナが穿いてるタイトミニを買ってみたんだが、ちょっと穿いてみんか?」
「私ですか? うーん、似合わないと思いますよ」
「なんでティナが穿くとあんなに似合うのか凄く気になるんだよ。俺も店で穿いてみたが自分では良くわからんのでユナに見てほしい」
「そういうことなら私もちょっと気になりますね。どう考えても私やミナトさんより幼いですし、見せ合いっこしませんか?」
「わかった。じゃあ俺からな」
ユナはティナのように無条件では穿いてくれないなあ。俺は恥を忍んで黒いタイトミニを穿いてユナに見てもらった。
「どう見える?」
「うーん……」
ユナは俺を中心にぐるっと回って真剣な表情で見ている。俺も大きな三面鏡で自分の姿を確認しているが、正直ちょっと似合わないと思った。
「何というか、無理をしている感じが凄いな」
「ミナトさんはもっと可愛らしい服の方が似合いますよね」
「胸もあるしスタイル的には問題ないと思うんだけどなあ……」
「じゃあ次は私が穿いてみますね」
俺はタイトミニをユナに渡して、今日買ってきた可愛らしいスカートに穿き替えた。やっぱり俺だとこっちの方が似合うなあ。
「どうでしょうか?」
「うーん……」
俺はユナを中心にぐるぐると回って色んな角度から脚や腰や尻を舐め回すように見た。
上半身は特に興味がないので下半身を中心に見ているのだが、なんか違う。
「ミナトさん、脚ばかり見ないでもっと全体的に見た方が良いですよ」
むう、気付かれた。流石ユナだ。こういうのは筒抜けなんだよな。
「腰より下なら同じような感じに見えるのかなあと思ったんだけど」
「どう見えます?」
「なんか違うんだよな。全体的に見たらいつもと違う服を着た妹のように感じてしまう」
「あー……」
ユナは何かに気付いたようだ。
「ミナトさんはね、ティナさんのことが好きなんですよ」




