第46話「装備と服を買え」
「今日の予定だが、久しぶりに全員で街を回ろう」
「何をするのだ?」
「まずサキさんの剣と鎧を手入れに出すぞ。日用品や道具などは、家で使う物と冒険に持って出る物を区別して揃えようと思う。着替えはともかく、毎回背負い袋に詰めたり出したりするのは面倒だからな」
「私も賛成です。こまごまとした物まで出し入れするのは大変だと思いました」
昨日荷物の出し入れに苦労していたユナは、俺の提案に賛成のようだ。
「それからサキさんは、冒険者用の服を二着買え。どうせ毎回泥試合になるんだろうから予備も必要だろう。今回の戦いで思ったが、鎧の隙間を埋める防具も買うからな」
「鎖帷子のような物をか?」
「その辺は任せるが、できれば兜も必要だろう。頭が剥き出しのままではダメだ」
「良し。買う」
「あとやっぱり、サキさんも普段着を何枚か買え。もし買わなかったら、今俺が着てるようなヒラヒラで可愛らしい服を着せてやるから覚悟しとけよ」
俺はサキさんの目の前でくるっと回って、スカートをふわりと広げてみせた。
「それはキツい! 真面目に買うわい!!」
「あと、俺たちも服を買いに行こう。前回調子に乗って買ったギリギリ過ぎるミニスカートだと馬に乗れんので、今回はそういうのもちゃんと考えて買いたい」
「あれは失敗だったわね」
「そうですね……」
話がまとまったので、俺たちはパジャマの洗濯と布団を二階の木窓に干してから全員で街へ出かけた。
最初に向かったのは武器屋だ。ここではサキさんのロングソードを手入れに出した。
「これは僕が選んだ長剣だな。まだ一月も経ってないのに、どうやったらこんなにボロボロになるんだろ?」
「訓練で大木に切り掛かったりしておるからの」
「もう刃が潰れているから、これを研ぎ直すと細くなってしまうし買い替えないと無理だろう。こういう使い方をするなら戦斧の方が良いと思う」
「普段は槍だからの。咄嗟に使える剣が良い……」
「今の長剣は訓練用にして、もう少し良い剣を買い足すのをおすすめするよ」
「それで頼む。一番良いやつをくれえ」
サキさんは店で一番いいロングソードを買った。銀貨2200枚か。最初に買ったロングソードの約八倍近い価格だな。今までよりも刀身に厚みがあって頑丈そうだ。
店の兄ちゃんが言うには、王都ではこれ以上の品質の剣はもうないらしい。ちなみに俺たちが買ったカスタムロングボウも既に最高品質のものだ。
ちなみに今日もティナはカウンター前の小物を選んでいたので、いつも何を買っているのか気になって覗いてみると、変な形をした手裏剣ぽい物を買っていた。
「初めて来たときも買ってたよな。使えるのか?」
「毎回一つ買って試しているけど、まともに飛んだ試しがないわ」
「それは籠手に付けるツメだよ。投げても飛ばないと思うなあ」
「ツメだったのね……」
今度から武器を買う時はちゃんと使い方を聞いた方が良いな。
次は横の防具屋でサキさんの金属鎧を手入れに出した。
「凄い状態ですね。これは磨くのが大変そうだ……」
「鎧の隙間を埋める鎖帷子と、この鎧とセットの兜も見繕ってくれい」
「下にチェインメイルを着込むならこれが良いですよ」
店の主人はワンピースのようなチェインメイルを出して来た。袖の部分は籠手に干渉しない七分丈、裾は膝が隠れるくらいあり、前と後ろにスリットがあるので大きく股を開いても邪魔にならないよう工夫されている。
「頭巾状のチェインメイルもありますが、兜を使うなら不要ですね」
そう言ってサキさんの頭に兜を合わせ始めた主人は、サキさんのポニーテールを解く。
兜をかぶる時は髪を下さないといけないようだ。普段まじまじと見る機会はないが、サキさんの髪は結構長くて、ユナくらいの長さがあった。
「髪は切ってしもうた方が楽かも知れんのう」
「サキさん髪質がいいから勿体ないですよ」
試着でチェインメイルと全身鎧のフル装備になったサキさんは、毎日男湯に入り浸る変態ではなく、英雄伝説に出てきそうな勇者っぽい姿になっている。
兜も跳ね上げ式のバイザーが付いた立派な物で、なかなかカッコ良いじゃないか。
「動きやすさはどうだ?」
「前より重くなったが、更に鍛えれば問題ではなかろう」
サキさんは道具に合わせるタイプか。俺は自分に合わなかったらすぐ文句を言うので、少しは見習わないといけないな。
鎖帷子と兜は、手入れに出した鎧が仕上がるまで店で預かってもらうことにした。
いつもの服屋では、サキさんが台無しにしてくれたジャケットと同じような物を一枚買って、それ以外は全てサキさんの服ばかりを買っている。
俺のジャケットはカナンの町で買った物なので、全く同じのは売ってなかった。
「結局前のと同じ服にするのか?」
「どうせ鎧で隠れるからのう。丈夫ならそれで良いわい」
「普段着の方はもう少しオシャレなの買えよ」
「面倒なのは好かん」
こいつ……。
サキさんは冒険者用の服二着と普段着二着を五分もしないで選ぶとカウンターへ持って行った。なかなかイケメンだと思うのに勿体ないやつだ。
最後は雑貨屋で買い物をした。当初の予定通り、家で使う物と冒険に持ち出す物を別々に揃えるためだ。
これまでの生活の中で良かった物とダメだった物がわかってきたので、今回はそれを踏まえて買い揃えることにした。洗濯板も家で使う物はもっと大きい板で良いとか、そんな感じで選ぶ。
殆どはティナとユナの二人があれこれと決めるので、もう任せっきりになっているが。
「大体終わったな。サキさんの用はこれで全部済んだから、あとは俺たちの服と下着選びに付き合ってもらうぞ」
「嫌じゃよ。わしもう帰るけん」
「言葉使いがおかしくなってるぞ。馬一頭だと三人のうち誰かが歩きになるだろ?」
「わしが荷物持って、歩いて帰るわい」
「じゃあそうしてくれ。家に帰ったあとは銭湯でも好きにすればいい」
「そうさせてもらう」
「サキさん、帰ったらお布団だけ取り込んでちょうだい」
「うむ」
サキさんは女の買い物に付き合うのが嫌らしく、大荷物を持って一人で家に帰ってしまった。
まあしょうがないか。こうなりそうだったから、今日はサキさんの買い物を先に済ませていたわけだし。
俺たちは前回訪れたフワフワの恥ずかしい店に移動した。今回は馬なので移動が楽だ。
「いらっしゃいませー。今日は何をお探しですか?」
店に入ると、この店の女主人が声を掛けてきた。前回派手に買い物をしたのですっかり顔を覚えられていたようだ。
ここの女主人はエミリアよりも少し上くらいに見えるのだが、なんかポワポワした雰囲気なので実際の年齢よりも幼く見えてしまう。
「前回ミニスカートばかり買ったら馬に乗れなかったので、今日はもう少し丈の長いスカートを買いに来たんだよ」
「まあそうでしたの。こういうマントを羽織ってみるのもよろしいですわよ」
女主人は裾にフリルの付いたマントを広げて見せた。中には腰に付けるパレオのような物もあるようだ。
「マントが一枚あるといいかも知れないですね」
「そうだな。なるべく色んな服に合わせやすいのを三人分買おう」
俺は白いマント、ティナは黒いマント、ユナは赤いマントをそれぞれ選んだ。
どれも裾と襟元に大きなフリルをあしらった物だ。丈は膝くらいで、胸元のリボンは好きな色を選べるようにマントから取り外せるようになっている。
「全然冒険者っぽくないなあ」
「でもお揃いのデザインでかわいいですよ」
「こういうのを付けると魔法が使いたくなるわね」
「目的を忘れないうちにスカートを選ぼう」
俺たちはスカートを三枚ずつ選んで買うことにしたが、俺とユナは同じような体格なので、選ぶのはユナの好みに任せている。
スカートなので三人で着回しできるかと思ったが、ティナだと腰穿き状態になってしまうようなので、ティナには別に一着好きな服を選んで買うように言った。
そういえば以前、俺がユナの服を勝手に着て遊んだ時もティナの服は小さくて着れなかったっけ。俺とユナは自由に着まわせるので大抵何を買っても実質二倍の数になる。
これから服を買うときは、ティナには一着多く選ばせてやろう。もっと早くに気付いてやれば良かったな。
「俺は下着なんて四、五枚しか持ってなかったが、二人はどのくらい持ってたんだ?」
「……五十枚くらいかしら」
「うわ多い……お小遣いで買ったのを合わせて二十枚ちょっとですね」
「そんなに持っててどうするんだよ」
「普段用とは別の下着があるのよ」
「そうそう。お気に入りの下着は長持ちするように普段は使わないんです」
「同じのを買おうとしたら、在庫が変わってることも良くあったわね」
「ありますよね。勿体なくて使えなくなった下着が二枚ありました」
「何かの勢いで買って使わなかった下着もあるわ」
ううむ。この辺は男とは根本的に世界が違うんだな。サキさんはどうだったんだろう?
「なるほどな。前回の俺は一週間分あれば良いと思っていたが、そういう事情があるならもう一週間分買い足してくれ。特に気に入った物があれば二枚買っても構わない」
ティナとユナは真剣に選んでいるようだ。流されやすい俺は二人に負けじと今回も可愛い下着ばかり選んでしまった。やはりこの店の空気は色々とヤバい。
「二人とも見てください。ここ、水着も売っているみたいですよ」
店の奥の方で、棚卸しされた商品からユナが水着を見つけてきた。ユナはこういうのを見つけるのがうまい。でも棚から降ろされているし、勝手にして良いのか?
「ここの水着は勝手に見ても大丈夫か?」
「どうぞ見てください。夏も終わりなので入れ替えしてたんですのよ」
女主人に見ても良いと言われたので、俺たちは遠慮なく手に取ってみた。元の世界にあったナイロンやポリエステルのような素材ではないが、意外と伸縮性があるようだ。
俺たちの知らない何か別の繊維があるのだろうな。この店の下着もこんな感じだし。
「でも水着買っても泳ぐところ無いよな」
「家の裏の川を昇って行くと泳げそうな場所があるんですよ。行ってみませんか?」
そういえばハヤウマテイオウで家の周りを散策していたことがあったな。
「じゃあ買おう。どうせサキさんは赤フンドシで川に入るだろうから遠慮せずに買え」
俺たち三人は棚卸しされた水着を全部ひっくり返して選んだ。女主人は笑顔で見ているが、これはあとで片付けるのが大変だぞ……。
「私はちょっと大胆なビキニを選んでみました!」
「私はワンピースにするわ。せっかく外で泳げる機会だし……」
ユナは布の面積が少ない黄色のビキニを、ティナは紺色のワンピースを選んでいた。
「俺は……そうだなあ、ティナと同じようなのにするか。マントと同じ白いのでいいや」
「二人ともワンピースなんですか? じゃあ私もそっちにします」
俺とティナがワンピースを選ぶと、ユナはピンクのワンピースに選び直したようだ。自分の好きなのにすれば良いと思うんだが、周りに合わさないと不安になるのだろうか?




