第464話「ストーンゴーレム③」
一通りの実験を終えた俺とティナが家の中に入ると、ユナも起きてきたところだった。
丁度良い、ユナにもストーンゴーレムの事を教えておこう。
「うぅ、それはちょっと、色々試してみたいですね……」
俺の話を聞いたユナは、玄関から顔を出してストーンゴーレムを確認した。
基本的に実験や検証と言えば、俺とユナの二人でやるのが通例だ。
……そのおかげで、魔法の矢の一件では最終的に痛い目を見たが。
でもまあ、それはそれ、これはこれ、ユナは新しい玩具のお預けを食らったような顔でゴーレムを眺めている。
ユナにはとにかく、一日でも早くバハール地方の縦断を成し遂げて貰いたいからな。
今はストーンゴーレムで遊んでいる場合ではないだろう。
夕食の支度ができる頃には、エミリアも広間に現れていた。
「今日、レレが来たぞ。エミリアがまた何かやらかしているんじゃないかと聞いてきたから、しらないと答えておいたわ」
「また何かって……今回は何も悪い事はしてませんけどっ!」
エミリアは自覚がないのか、ぶうと頬を膨らませて抗議した。
今日の様子だと十中八九、レレにはバレているような気がしないでもないが。
「あと、レレに鑑定を押し付けていた石の剣な、ストーンゴーレムを呼び出せる魔道具だった」
「──命令を聞くゴーレムですか? それはいい物を手に入れましたね」
エミリアの話だと、古代遺跡などで遭遇するゴーレムの大半には解除不能なほど強力な魔法で命令が与えられているので、自由に命令を聞くゴーレムが手に入ることは極めて稀らしい。
ただ、今回の石の剣に関しては、悪魔が作った可能性が高い事と、いわゆる携帯が可能な簡易ゴーレムだから、古代遺跡で警備をしている本格的なゴーレムほど強くはないだろうとの結論が出た。
エミリアもレレと同じく、強そうな魔物にぶつけるのはやめた方が良いと言っている。
なんせ修理できないからな。
強力な魔物相手にはゴーレムじゃなくて、生身のサキさんをぶつけるとしよう。
「ここからは真面目な話だが、強面親父の宿を覗いたら、フワフワの店のミゼルさんから依頼が来てたぞ」
テーブルの上に夕食が並んだのを見計らって、俺は話を切り出した。
「エルフの里から仕入れている服の材料が届かんので、ミゼルさんの孫娘がエルフの里まで様子を見に行くらしい。依頼の内容は、ミゼルさんの孫娘の護衛だ」
「そもそも、エルフの里ってどこにあるんですか?」
ユナがもっともらしい質問をする。
「何処とは書いて無いな……エミリアは知ってるか?」
「基本的にエルフの集落は森の中に隠されています。しかし森の中には精霊魔法の結界が張られていて、招待されない者は決してエルフの里へは辿り着けないという話です」
ようは知らないってことだな。
まあ、依頼の紙に秘密の集落の場所を書くなんて馬鹿な真似はしないから、直接会って聞くまでわからないか。
「受ける気なの?」
「すみませんけど、バハール縦断しながらの冒険は無理ですよ」
「だよなあ……」
とはいえ、あの店に服の材料が届かないと、俺たちも困った事になる。
特に下着だけはもう絶対あの店の奴じゃないとダメっていうくらい気に入っているからな。
エルレトラの山中では服を含めて何枚か失っているから、どのみち買い足しに行きたい。
「明日、俺だけでも話を聞きに行こうと思う。馬が不在なのは不便だが……」
「それなら辻馬車を利用するといいですよ。王都の東西南北、四カ所ある外門の脇に小さな馬車が止まっていますので、料金を払えば街の何処へでも運んでもらえます」
「この国、タクシーがあったのね」
「ユナ、知ってた?」
「今初めて知りました……」
でも言われてみれば、乗合馬車の横に小さな馬車もあったような……。
まあ、大通りをメインに走っているんじゃ、知らなくても無理はないか。
俺たちが普段通る道は南西の通りだからな。
ちなみに王都内を巡回するバスのような乗り物は存在しないらしい。
「面白いアイデアだと思いますが、王都は極端に道が狭かったり、大通りから外れると行き止まりの道も多いですし、雪で道が埋まるのも日常茶飯事ですから、将来的にも運用するのは難しいでしょうね」
「街のデザインから作り直さないと無理ってことか。仕方ないな」
ともかく明日は、辻馬車とやらを利用してみようじゃないか。




