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第461話「ミゼルの依頼書」

 成り行き上、各自が自由に過ごす期間を設けたとはいえ、ティナと二人だけの夜は物静かで寂しい。

 お風呂上りにコロコロをし合ったり、好みの服について話し合ったりと、毎晩取り留めのない話をしながら眠りにつくといった具合だ。


 翌朝、日の出の少し前に帰ってきたユナとエミリアの無事を確認してから、俺はティナと朝食の支度をした。


「やっと草原地帯に入りました」

「それはあとで見に行きたいな」

「もう少し南下しないと、きれいな草原は見れませんよ」


 それは残念だ。

 ユナとエミリアの二人が駒を進めた場所は、まだまだオルステイン王国からの冷たい風に晒されている……。





 ──さて、今日は何をしようか。

 ユナはお風呂に行ったし、ティナは食事の後片付けが終わると、そのまま魔術学院に向かってしまった。

 エミリアも眠いと言って自分の家に帰ったので、あれやこれやと話しをする相手もいない。

 流石にもう、魔術学院に通っても仕方ないかな……。

 正直、魔術師でもない俺が一人で見て回れる施設は殆どなかったので、邪神の像を回収できただけでも良しとする所だろう。


「強面親父の宿に行ってみるか……」


 俺は独り言のように呟いてから、家を出た。





 今日は久しぶりの大雪だ。

 風が無いので吹雪いてはいないが、空はどんよりと薄暗く、視界も悪い。

 気温はいつもと変わらない感じだが……。

 また雪掻きをするのかと思うとウンザリしてくる。

 これはいよいよ南の国に移住したいものだ。


 いくら視界が悪くても、連日の除雪作業で溝のようになっている道では迷いようもない。

 こんな大雪の日でも王都の外壁に立っている兵士をねぎらいながら、俺は街の中に入る。

 今日はこの冬一番の大雪。

 そうかそうか、そう言うことか。大雪が来そうな気配がしたから、昨日のうちにアーマード・ドラゴンの殻を急いで回収しに来たんだな。

 街の通りは恐ろしいほど静かだ。

 いつもなら倉庫の前に荷馬車を出して作業しているおじさんの姿もない。

 というか、外を出歩いている人の姿が極端に少ないと感じる。


 強面親父の宿に辿り着いた頃には、雪よけに被ってきた外套にも雪が積もっていた。

 俺は外套の雪を振り払ってから、宿の中に入る。

 この時間帯なら出払っているはずの冒険者たちも、今日ばかりは開店休業といったところ。

 皆、剣も鎧も何処かに置いて、朝っぱらから酒を飲んだり、談笑の声を上げている。


「おぉ。ミナトじゃん」


 何処かで観たような男が給仕をしていると思ったら、ヨシアキがウェイターをしていた。


「こんな所でバイトしてるんだ?」

「そうなんだよ。今、私用でウォルツが実家に帰ってるんだけどさ、どうせその間は冒険に出ることもないからって、シオンとハルまで里帰りしちゃってな……」

「へえ……。じゃあ毎晩リリィと二人きりなんだ」

「え? あ……、ああ……。そうなるのかな……」

「おいヨシアキ! はよ酒持ってこい!!」

「へいへい!」


 話の途中ではあったが、仕事中なので仕方がない。

 そっか。五人パーティーから三人も里帰りされてしまうと、冒険どころではないな。

 幸い強面親父の宿には待機中の冒険者で溢れているから、体よくバイトに駆り出された感じだろうか?

 それにしても、ヨシアキの方はリリィと二人きりか。

 この前リリィと会った時は狂戦士みたいになっていたけど、二人きりで大丈夫なのかな?

 ……まあいいか。

 俺はカウンター越しに仏頂面をしている強面親父に声を掛けた。


「ようやく顔を見せやがったな。いくつか依頼が来てたが、ショボい話は油売ってる連中に流しちまったぜ」


 そう言って親父は、カウンターの下から依頼書を取り出した。


「二日前に来た依頼だ。明日までに来なかったらヨシアキのクソガキに届けさせる予定だったがちょうどいい」

「この依頼は流れなかったのか……」

「フワッフワした変なエルフの姉ちゃんが依頼に来たんだが、どうしてもニートの冒険者をご指名らしくてな」


 どうしたものかな?

 現状サキさんは王都に居ないし、ユナとエミリアはバハール縦断の旅をしているし、俺とティナは魔法が使えない状態だし……。


「らしくねぇな。どうした? 乗り気じゃねえか?」

「そういう訳じゃないんだけど、ああ、ヨシアキと同じで、今家に二人しか居ないんだよな……」

「まあいいぜ。その依頼書は確かに渡したからよ、あとはお前らの好きにやんな」

「うーん……」

「後ろがつかえてんだ。用が済んだらさっさと退きな。それとも何か食っていくのか?」


 俺は特に注文する物もないので、依頼書だけ貰って退散した。


 しかし、どうしたものか。

 こんな大雪の中、せっかく強面親父の宿まで来たのに、冷えた体が温まる前に宿を出てしまった。

 ヨシアキの家には今は誰も居ないし、ここからナカミチの工房までは遠すぎる。

 仕方がない。大人しく家に帰るか……。





 とんぼ返りに近い恰好で家に引き返した俺は、暖炉の前のソファーに腰かけて依頼書の確認をした。

 受けるにしろ断るにしろ、内容くらいは読んでおかないとな。


 依頼人は、フェアリーケープのミゼル。……誰だ?


「………………………………」


 思い出した。

 フワフワの店の店長か。誰かと思った。強面親父から見てもフワフワなんだ。

 親父は変なエルフの姉ちゃんなんて言ってたけど、あのミゼルさん、見た目は二十歳くらいなのに、三人の子供と七人の孫がいるんだよな。

 エルフ族おそるべし!

 ミゼルさんには以前、俺たちが冒険者家業をしている事を伝えておいたから、それを覚えていたんだろう。


「…………」


 依頼の内容はシンプルで、エルフの里から仕入れている生地や糸が届かないから、現地まで様子を見に行きたいらしい。

 実際に様子を見に行くのは、ミゼルさんの孫娘だと書いてある。

 要するに、エルフの里まで様子を見に行く孫娘の護衛を依頼したいという内容だ。

 単に雪で配達が遅れているだけなら良いが、何らかのトラブルに巻き込まれている状態だと厄介だな。

 これは詳しい話を聞いてみるまでは判断できないぞ。

 本当にただ行って帰るだけなら、俺とティナだけでも引き受けられるけど……。


 ちなみに報酬は銀貨2000枚に加えて、新作の服を四人分あげちゃうと書いてある。

 四人分……流石にサキさんの分じゃないよな。きっとエミリアの分だ。

 いや、サキさんに少女趣味全開の服を着せてみるのも楽しそうだけど……。


「何を一人で笑っているんだい?」


 声がした方を向くと、レレが立っていた。

 もう驚かないが、この国の魔術師は、揃いもそろっていきなり家の中にテレポートしてくるから困る。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、エルフは精霊使いがいるんでしたっけ? もしかしたらミナトの精霊使い化フラグなのかしらん。
[一言] このままだと生活もままならない……
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