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第459話「邂逅(かいこう)」

 ティナと一緒に家を出た俺は、魔術学院の校舎前でティナと別れた。

 いい加減、図書館に籠っていても仕方がないと思った俺は、この機会に校舎の中を見学することにしたのだ。


 魔術学院自体はオルステイン王国の建国当初から存在しているらしいが、規模が大きくなるにつれて王都の外に移転したこともあり、古臭い様式の建造物はさして見当たらない。

 魔法の学校と言えば、お化け屋敷に片足を突っ込んだイメージを期待してしまうものの、お化け屋敷どころか、昼白色ちゅうはくしょくの明かりに照らされた校舎の中は、現代人向けの施設と言っても通じるような佇まい(たたずまい)だ。


 校舎の作りは単純な箱状ではなく、科学で使われる構造式のように複雑な作りをしている。

 主要な施設や研究室は、それぞれが独立した建物として存在し、母屋となる校舎とは連絡通路で繋がっている。

 図書館も独立した建造物の一つに挙げられるな。

 奇妙な作りだが、不注意で魔法が暴走したときのことを考えたら、リスクを分散させる意味では合理的なのかもしれない。

 ちなみに、大体の建物は一階建ての構造だが、一部の教室や寮に関しては二階建てを取り入れている。


 何はともあれ、校内の案内図も無ければさしたる目的も無いわけで、誰かと話をすることもなく校舎の中をフラフラと歩きまわっているのだが……。

 魔術学院の敷地が広いことは知っていたが、校舎の中だけでも結構な広さだ。

 あっちこっち歩いているけど、これだけ歩く距離が長いと運動不足とは無縁だろうな。

 この国の魔術師が意外とタフな原因がわかったような気がする。





 散々歩いて疲れた俺は、一度校舎から離れて食堂で一休みすることにした。

 いわゆる学食だが、メニューを選べない代わりに金を取られることもなく、冬季は持ち帰り用の酒も常備されている。

 酒の横には一目見ただけでカチカチだとわかるパンが積まれていて、スープにでも浸して食べないと、とても喉を通りそうにない想像をしてしまった。


「………………」


 それにしても、食堂内はガラガラだ。

 食事時になれば学院の寮生たちで賑わうのかも知れないが、見事に誰もいない。

 奥の厨房では仕込みをしていると思われる音が聞こえてくる。

 傷んだ玉ねぎを煮詰めているような刺激臭が、何とも言えず食欲を削いでくれるが……。

 そういえば、ここのメシは泣くほど不味いとエミリアが言ってたっけ。

 どんなものか興味はあるけど、俺が一人で食べたところで、とにかく不味いという感想しか出てこないだろう。

 同じ感想ならすでにエミリアが結論を出しているから、わざわざ俺が挑戦する必要もないか……。

 君子危うきに近寄らずということわざがある。

 ここは素直に退いておきたい。

 もう臭いだけでヤバそうな気配がわかる。





 休憩を終えた俺は、校舎の外を一周して帰ることにした。

 色々見て回りたいと思ってはいたが、やはり灰色のマント一枚では潜入の難しい施設が多いから、単独行動は失敗だったかもしれない。

 とはいえ、一人で見て回るメリットもあった。


 魔術学院では様々な研究や魔法の指導が行われているけど、魔法で生み出された自然ならざる現象から発生した精霊は、どれも痛々しいものばかりだ。

 これは誰かと話をしながら歩いていては気付けなかっただろう。

 魔法の錬度れんどが低いほど不完全な精霊を発生させるようで、複数の生徒が同じ魔法の訓練をしている時が一番酷い状態になる。

 精霊術師は魔術師を良く思っていないとエミリアから聞かされていたが、これでは良く思えと言う方が無理だろうな。

 一体何の研究をしているのか不明だが、研究施設の周りでは、何の精霊なのか判別もできないような存在を感じることもあった。


 ──まさか幽霊ではないだろうな?


 身の毛もよだつような事を考えながら歩いていると、かつてエミリアの部屋があった入り口に辿り着いた。

 ようやく一周してきたのか……。

 ここから暫く南下すれば図書館がある。

 俺は何を思ったのか、ふと懐かしい思いがして、以前エミリアの部屋だった木窓に手を伸ばした。


「…………」


 流石に開かないか。もう新しい人が入っているのかな?

 ドアの下には古い雪が残っていて、ここから出入りしているような形跡はない。

 この部屋の奥には校舎と直接出入りできるドアもあるから、そちらをメインに使っているのだろう。

 まあ、ここから外に出たところで、周りには何もない不便な場所だしな……。


 俺は雪に足を取られないよう気を付けながら、二歩三歩と後退するが、雪の下に埋まっていた硬い何かを踏んでひっくり返った。


「いたぁっ……」


 枯れ木でも踏んだか? 後ろ向きにすっころんだ俺は、特に痛くも無かったが声に出した。

 完全に油断していたとはいえ、いきなりステンとひっくり返ってしまうとは。

 周りに人がいなかったのは幸い。おかげで恥をかかずに済んだ。

 俺は尻と背中に付いた雪の粉を払いながら、犯人が埋まっている辺りをブーツのつま先でほじくってやった。


「!?」


 枯れ木にしては重い感触。

 靴底で踏み付けると、表面にこびりついた雪と相まってツルツルと滑る。

 金属の棒かな?

 俺はそれを拾い上げると絶句した。


 以前エミリアの部屋に投げ入れたまま行方不明になっていた銅像──。

 邪神の像との巡り合わせであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ワレそんなとこおったんか!
[一言] 炒めたタマネギを煮込んだ匂いが食欲をそそる、の間違いかと思ったがそれが間違いだった。
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