第458話「エミリアのカロリー消費」
夕食の席、エミリアのダイエットは明日からでも間に合うが、とりあえず俺は、魔界から直接魔力を補充できる魔道具について聞いてみた。
「悪魔の大反乱は意見の分かれる所ですが、そういった魔道具が実在した記録はあります」
「ちょっと試してみたいんだが、手に入らんか?」
「難しいですね。私も現物を見た事は無いですし、仮に手に入ったとしても、魔術師は不用意に触らない方が良いと思いますね……」
あるにはあるようだが、エミリアにしては珍しく乗り気でない様子だ。
「危険な魔道具なの?」
「本に書いてある通り、人間は魔界の魔力を直接扱えませんから、期待が外れて扱えなかった場合は、身体にどんな影響が出るかわかりません」
むう……。
ダメだった時のことは考えてなかったな。
聞いておいて正解だった。
「でも着眼点は素晴らしいと思います。仮にティナさんが使えなかった時は、グレンに使わせるといいでしょう。そして正式に使い魔の契約を結んでしまえば、事実上、使い魔の魔力を無限に引き出せる可能性を秘めています!」
エミリアなりにベストな方法を考えてくれたようだが、図らずも悪魔の大反乱を引き起こしたとされる原因そのままの発想であった。
暖炉の中から顔だけを出したグレンも、エミリアに何かされると思ったのか、不安そうな目でこちらの様子を窺っている。
「やっぱり、悪魔の大反乱はあったような気がするなあ……」
食事が終わると、ユナとエミリアはテレポーターの中に消えて行った。
ユナの話では、公都エルレトラの南、オルステイン王国の国境を越えて暫く移動した先に、馬を繋いでいるらしい。
ちなみにバハール地方の大草原は、まだまだ南の先だと言う。
何だか大変そうだが、今はユナとエミリアの冒険が無事に終わることを祈りたい。
「今夜は二人きりね……」
「だなあ……」
グレンもいるにはいるが、魔力を消費したくないのか暖炉の中から出てこない。
二十四時間ずっと暖炉の火を絶やさないでくれているのは、別の意味で有り難いが。
「……風呂入るか。グレンもおいで。煤だらけだろう?」
俺はティナとグレンを連れて、少しだけ寂しい風呂場へと向かった。
翌日、ユナとエミリアが帰ってきたのは、朝食ができる少し前の時間になってからだ。
真冬の早朝は真っ暗、日の出にはまだ時間があると思うのだが。
「明るくなってから帰る支度をしても間に合わないですよ」
ユナはテレポーターを裏返しにしながら言った。
裏返しにすることで、向こうからテレポーターを使われないようにしているらしい。
細かい部分まで安全に努めている姿を見ると、まあ少しは安心できるかな……。
本当はもっと信頼するべきだろうけど、元の世界の記憶がある以上、どうしても気持ちが保護者の方に傾いてしまう。
「お疲れ様。エミリアは朝ごはん食べて行くわよね?」
「もちろんです。いつもの三倍でお願いします」
俺たちは朝っぱらから物凄い食事風景を見せられるハメになった。
久しぶりに大量の魔力を消費したおかげで、カロリーの消費も半端ないらしい。
……ホントに?
「私はお風呂に入ってから、ひと眠りします」
「ゆっくり休んでちょうだい。私は今日も図書館で調べ物をするわね」
「うん。じゃあ俺は……いい機会だから魔術学院の校舎でも見て回ろうかな」
「では私も家に帰って、このまま寝ようと思います」
「風呂に入ってから寝ろよ」
「着替えくらいはした方がいいと思います」
「歯も磨きなさいよ」
食べるだけ食べて、そのまま寝ようとするエミリアに向かって、俺たちは総ツッコミを入れた。